発売日: 2013年11月29日（UK）
ジャンル: ホリデー、ソウル、ポップ、クリスマス・クラシック
概要
『Christmas, with Love』は、Leona Lewisが2013年に発表した初のホリデー・アルバムであり、1960年代モータウン・ソウルとクリスマスの魔法を融合させた、温かくもレトロで洗練された祝祭作である。
全10曲で構成され、うち7曲は往年のクリスマス・スタンダード、3曲がオリジナル曲というバランスの取れた構成。
その中でも、「One More Sleep」はイギリスを中心に大ヒットし、現代クリスマスソングの新たな定番として定着した。
本作のプロデュースはRichard “Biff” StannardとAsh Howes。
Leonaの圧倒的なボーカルに、60年代風のホーン、手拍子、ストリングス、ゴスペルコーラスといったヴィンテージ・ソウル的アプローチを施し、単なる「カバー集」ではない、“一貫した音楽世界”としてのクリスマス・アルバムを作り上げている。
全曲レビュー
One More Sleep
本作を代表するオリジナル曲にして、イギリスでは定番のクリスマス・ヒット。
恋人との再会をカウントダウンする内容で、ハンドクラップとベルが鳴り響く中、Leonaの声が喜びと切なさを同時に運ぶ。
モータウン調のアレンジと現代的メロディのバランスが秀逸。
Winter Wonderland
軽快でスウィンギーなホリデー・スタンダードのカバー。
ブラスのアレンジが60年代風のノスタルジアを醸し出し、Leonaはキュートかつスムースなヴォーカルで彩る。
White Christmas
しっとりとしたジャズ・アレンジによる、定番中の定番曲の解釈。
Leonaは過度に感傷的になることなく、清らかさを保ったトーンで歌い上げている。
Your Hallelujah
本作で最もエモーショナルなオリジナル・バラード。
愛する人への祈りのような一曲で、クリスマスというよりも“心の祝福”をテーマにした普遍的なメッセージソング。
Leonaの感情表現の深さが際立つ。
Christmas (Baby Please Come Home)
Darlene Loveの名曲を原曲に忠実かつソウルフルにカバー。
力強いバックコーラスとリッチなサウンドが、Leonaのヴォーカルと絶妙に絡む。
Mr. Right
ファンキーで遊び心のあるオリジナル曲。
「完璧な相手はクリスマスに現れる？」という軽快なテーマが、明るくエネルギッシュなアレンジで描かれている。
O Holy Night
アルバムの精神的ハイライト。
静謐なアレンジの中で、Leonaの声がまるで教会のステンドグラスのように響き渡る。
その高音の清らかさは、まさに“神聖な夜”の象徴。
I Wish It Could Be Christmas Everyday
Wizzardの陽気なロック・クリスマスソングのカバー。
元のロック色を少し抑え、ブラスとコーラスを前面に押し出した“ソウル風味”に変換。
Leonaの軽やかな歌唱が新鮮。
Ave Maria
バッハ＝グノーによるクラシックの名旋律を、Leonaが圧倒的な声で再解釈。
厳粛で崇高な空気感に包まれており、アルバム全体に精神的な奥行きを与えている。
Silent Night
ラストを飾るのは、静かに“夜”を受け入れるような穏やかな聖夜の歌。
極限まで抑えたアレンジにより、Leonaの声の美しさが際立つ。
まさに“静寂と祈り”の集大成。
総評
『Christmas, with Love』は、単なるカバー集にとどまらない、ひとつの“時代感”と“精神性”を持ったホリデー・アルバムである。
Leona Lewisはここで、ディーヴァ的な圧倒的ボーカルを誇示するのではなく、“祝うこと”と“感じること”のバランスを見極めた表現を見せている。
とくに、「One More Sleep」や「Your Hallelujah」などのオリジナル楽曲は、新たなホリデー・クラシックとしての説得力を持ち、彼女の作詞・解釈力の成熟も感じさせる。
また、「O Holy Night」「Ave Maria」ではLeonaの“声そのものが祈り”となっており、ポップ・スターを超えたスピリチュアルな存在感を見せている。
そのサウンドは、フィル・スペクターやモータウンへのオマージュを感じさせる懐かしさを帯びながらも、決して古びない。
“誰かと過ごすクリスマス”だけでなく、“自分と向き合うクリスマス”にも寄り添う作品として、多くの人に静かで温かな余韻を残す。
おすすめアルバム（5枚）
- Darlene Love / A Christmas Gift for You
本作の音楽的ルーツとも言えるフィル・スペクター制作の名盤。ソウルフルで華やか。 - Kelly Clarkson / Wrapped in Red
ポップとバラードのバランスが絶妙な現代クリスマスアルバム。 - Ariana Grande / Christmas & Chill
R&Bとウィンター感を融合させたオリジナリティのあるホリデー作。 - Mariah Carey / Merry Christmas
“ホリデー・ディーヴァ”の象徴的名作。Leonaとの系譜も明確。 -
Norah Jones / I Dream of Christmas
より落ち着いたトーンで冬の空気を描く、スモーキーで大人なクリスマス盤。
歌詞の深読みと文化的背景
『Christmas, with Love』におけるリリックの魅力は、単なるクリスマスの情景描写にとどまらず、日常の寂しさ、願い、希望をそっと包み込む力にある。
「One More Sleep」は、単純な恋人との再会を歌いながらも、“会いたい人にもうすぐ会える”という普遍的な希望を感じさせ、「Your Hallelujah」では、“愛する人を祝福すること”の清らかさがにじむ。
また、Leona自身が敬虔な精神性を持っていることもあり、「Silent Night」や「Ave Maria」には、宗教的信仰を超えた“魂の祈り”のような要素がある。
本作は、クリスマスという“行事”ではなく、“心の状態”を音楽で描いた作品であり、だからこそ季節を越えても聴きたくなる、心に寄り添うアルバムなのだ。
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