1. 歌詞の概要
「Victrola」は、Veruca Saltのデビュー・アルバム『American Thighs』（1994年）に収録されたキャッチーなロックナンバーであり、アルバムの中でも特に軽快なテンポと遊び心あふれるサウンドが特徴的な一曲である。
タイトルの“Victrola（ビクトローラ）”は、20世紀初頭の蓄音機ブランドに由来し、音楽やレコードが日常にもたらす魔法や逃避、懐かしさへの憧れがテーマとなっている。
歌詞では、Victrolaから流れる音楽に身を委ねることで、現実の悩みや喧騒から一時的に解放される様子が描かれている。主人公は日常の雑音やストレスから距離を置き、古いレコードの音色やノスタルジックなムードの中で、素直な自分を取り戻していく。
その一方で、過去への逃避や音楽に頼ることで“今”を曖昧にしてしまう心の揺れや、音楽への依存の危うさも微かににじんでいる。
2. 歌詞のバックグラウンド
Veruca Saltは、1990年代のアメリカ・シカゴで結成された女性ツインボーカル／ツインギターのバンドであり、当時のオルタナティヴ・ロック／グランジの新しい潮流を切り開いた存在だった。
「Victrola」は、同アルバムの中でもひときわ明るく、どこかレトロでポップなテイストが印象的な楽曲である。
タイトルのVictrolaは、かつて多くの家庭に置かれていたレトロな蓄音機の名称であり、音楽が“日常からの逃避”や“懐かしい過去へのトリップ”を可能にするアイテムであることを象徴している。
楽曲全体には、現代のデジタル社会では味わえない“アナログ的な温もり”や“自分だけの小さな世界”への愛情が込められている。
3. 歌詞の抜粋と和訳
以下は「Victrola」の印象的な歌詞の一部と和訳である。
引用元: Genius – Veruca Salt “Victrola” Lyrics
Victrola, I know you’ll never let me down
ビクトローラ、あなたは決して私を裏切らないってわかってるPlay me something sweet and low
甘くてやさしい曲をかけてよTake me somewhere far from here
ここから遠い場所へ連れていってSpin me around and around
何度も私を回してI don’t want to hear another sound
他の音なんて聞きたくない
4. 歌詞の考察
「Victrola」は、古い蓄音機（Victrola）から流れる音楽に身を委ねることで、現実のノイズや喧騒を遮断し、安らぎと解放感を得る主人公の姿を描いている。
“Victrola, I know you’ll never let me down”というフレーズには、音楽だけは裏切らない“唯一の拠り所”としての強い信頼が感じられる。
一方で、“他の音なんて聞きたくない”というリリックには、現実からの逃避や孤立、音楽への依存といった側面も微かに漂う。
アナログな音の温かみやノスタルジーは、忙しい日々のなかで「素直な自分」「忘れかけていた感情」を取り戻す鍵となるが、その反面、「現実との接点が薄れる」ことへの小さな不安も見え隠れする。
Veruca Saltらしいポップでエネルギッシュなサウンドが、こうした“音楽が持つ魔法”と“現実逃避の危うさ”を軽やかに表現している。
※ 歌詞引用元：Genius – Veruca Salt “Victrola” Lyrics
5. この曲が好きな人におすすめの曲
「Victrola」のように、“音楽やノスタルジー、現実逃避”をテーマにしたオルタナティヴ・ロック／インディーロックの名曲をいくつか紹介したい。
- 1979 by The Smashing Pumpkins
ノスタルジックなサウンドと青春の淡い記憶が共鳴する名曲。 - Fade Into You by Mazzy Star
現実と夢のあわい、逃避と郷愁を繊細に描いたドリームポップ。 - Cherry-coloured Funk by Cocteau Twins
幻想的なサウンドと色彩的なノスタルジーが美しいドリームポップ。 - Cannonball by The Breeders
音楽のもつ無邪気さやエネルギー、遊び心を感じさせる90年代の名曲。 - Connection by Elastica
現実からの小さな解放感や、軽やかな疾走感が魅力のブリットポップ。
6. “音楽がもたらす小さな魔法” 〜 Veruca Saltと「Victrola」の魅力
「Victrola」は、音楽が“現実から一時的に解放してくれる魔法”であり、日常の喧騒やストレスから逃げ込める“自分だけの聖域”であることを明るく描いた一曲だ。
レトロで温かいサウンドと、シンプルな願いを込めたリリックは、現代のデジタル社会でもなお“音楽の力”を信じたくなる――そんな素朴な感情をリスナーの心に呼び起こす。
Veruca Saltの「Victrola」は、ノスタルジックな気分になりたい日や、現実に疲れた夜にそっと寄り添う、優しいロック・アンセムである。
コメント