1. 歌詞の概要
「Shutterbug」は、Veruca Saltが1997年にリリースしたセカンド・アルバム『Eight Arms to Hold You』に収録された楽曲であり、バンドのオルタナティヴ・ロックとしての成熟と、女性らしい感受性が色濃く表れた一曲である。
“Shutterbug”とはカメラ好き、特に写真を撮ることに夢中な人を指す言葉であり、楽曲のタイトル通り、写真や記憶、過去へのまなざしをテーマにしている。
歌詞は、主人公が“シャッターバグ”として過去や思い出、あるいは自分自身の感情を切り取るように記録しようとする姿勢を描いている。しかし、写真は現実の一瞬を封じ込めることはできても、過去や関係そのものを完全には留めておけない――そんなもどかしさや、記憶と現実のずれが作品全体を覆っている。
また、写真に写る自分と“今ここにいる自分”のあいだに生まれるギャップや、時の流れの中で変化していく自己像への戸惑いも、繊細に表現されている。
2. 歌詞のバックグラウンド
Veruca Saltは、1990年代の女性オルタナティヴ・ロックの旗手として、その時代の“女性のリアル”を等身大で描くことで高い評価を得たバンドである。
「Shutterbug」は、アルバム『Eight Arms to Hold You』の中でも内省的かつ情緒的な楽曲のひとつで、ソングライターのルイーズ・ポストが自身の経験や心情をフォトグラフのメタファーに託している。
90年代のアメリカでは、写真文化の大衆化が進み、「記憶の保存」「瞬間の永遠化」といったテーマが人々の心に強く響いていた。
この楽曲もまた、“写真に切り取られる一瞬の輝き”と“日常の移ろい”を、静かに見つめ直す内容となっている。
3. 歌詞の抜粋と和訳
以下は「Shutterbug」の印象的な歌詞の一部と和訳である。
引用元: Genius – Veruca Salt “Shutterbug” Lyrics
Your shutterbug mind, you take a picture of everything
君のシャッターバグな心、すべてを写真に収めようとするFreeze every frame and file it under “memory”
あらゆる場面を切り取って、“記憶”のフォルダにしまい込むBut the moments fade and the pictures lie
でも、瞬間は色褪せ、写真は本当のことを語らないYou’re looking for yourself in every scene
君はどの場面にも自分自身を探しているTrying to find what it means
その意味を見つけ出そうとして
4. 歌詞の考察
「Shutterbug」は、“写真”というモチーフを通して、「記憶のあいまいさ」や「過去との距離感」、そして「変化していく自己像」に焦点を当てている。
“写真に収めることで瞬間を永遠にしたい”という願いと、“それでも現実は移ろい、写真だけでは何も止められない”という無力感――この二つの感情が複雑に絡み合っている。
また、“写真の中の自分”と“現実の自分”のギャップを意識することで、「自分は何者なのか」「今をどう生きるべきか」といった普遍的な問いも浮かび上がる。
写真の中では幸せそうでも、本当の気持ちは誰にも見えない――そんな“イメージと実像のズレ”も、90年代以降のセルフイメージやSNS社会の問題意識に通じるものだろう。
Veruca Saltらしい繊細なリリックと、轟音ギターが交錯するサウンドは、こうした“記憶”や“アイデンティティ”の不安定さを独自の美学で描き出している。
※ 歌詞引用元:Genius – Veruca Salt “Shutterbug” Lyrics
5. この曲が好きな人におすすめの曲
「Shutterbug」のように、記憶やイメージ、過去と現在をテーマにしたオルタナティヴ・ロックをいくつか紹介したい。
- Fade Into You by Mazzy Star
記憶の曖昧さと現実感の希薄さを美しく描いたドリームポップ。 - 1979 by The Smashing Pumpkins
思い出と成長、青春の儚さを壮大なサウンドで綴った名曲。 - Cherry-coloured Funk by Cocteau Twins
イメージや色彩を幻想的に捉えたドリームポップの代表作。 - Disarm by The Smashing Pumpkins
過去との対話と自己受容をテーマにした叙情的なバラード。 - Supernova by Liz Phair
自分自身と向き合う女性的な視点とリアルな心情が響く名曲。
6. “写真に刻まれる瞬間とリアル” 〜 Veruca Saltと「Shutterbug」の余韻
「Shutterbug」は、写真が“現実を切り取るもの”であると同時に“記憶を美化したり、真実から遠ざけたりする”というジレンマを、美しい叙情とともに描いた一曲である。
瞬間を永遠に留めたいという願いと、その不可能性――Veruca Saltは、そのもどかしささえもロックのエネルギーに変えて、聴き手の心に静かな共感と余韻を残してくれる。
写真や記憶のなかに自分自身を探し続けるすべての人へ――「Shutterbug」は、現代にも通じる繊細な問いかけを静かに投げかけているのである。
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