発売日: 2007年5月14日
ジャンル: マスロック、エクスペリメンタルロック、プログレッシブロック
アルバム全体の印象
「Mirrored」は、ニューヨーク出身の実験的なロックバンドBattlesによるデビューアルバムで、リリースと同時に世界中のリスナーと批評家の注目を集めた。この作品は、プログレッシブロック、マスロック、エレクトロニカなどの要素を融合し、独自のサウンドスケープを構築している。テクニカルでありながらもユーモラスで、構築美と混沌が共存する奇妙で刺激的な世界観が特徴だ。
イアン・ウィリアムズ(元Don Caballero)、ジョン・スタニアー(元Helmet)、タイヨンダイ・ブラクストン(ソロアーティストとしても活動)、デイヴ・コノプカという卓越した技術を持つ4人のメンバーが、それぞれの個性を発揮しつつ、全く新しい音楽を生み出している。本作では、ループやサンプリング、複雑なポリリズムが駆使され、知的でありながらも肉体的に響くダイナミックなサウンドが展開されている。
アルバム全体を通して、楽曲は計算され尽くした構造と予測不能な展開を見せ、聴く者を圧倒する。特にリードトラック「Atlas」は、奇妙でキャッチーなメロディと重厚なリズムで、Battlesの音楽的ビジョンを象徴する名曲となっている。「Mirrored」は、現代のプログレッシブロックの金字塔として、多くのリスナーに衝撃を与え続ける一枚である。
各曲解説
1. Race: In
アルバムの幕開けを飾る曲で、緻密なギターループと複雑なドラムが織り成すグルーヴが印象的。イントロから一気に引き込まれるエネルギッシュな展開が、アルバム全体の予感を感じさせる。
2. Atlas
アルバムのリードトラックで、Battlesの代名詞的存在。歪んだボーカルエフェクトと、ジョン・スタニアーの重厚なドラムが絡み合い、不穏でキャッチーな世界を作り上げている。歌詞はほぼ意味を持たず、音楽そのもののリズム感とフローを強調する。
3. Ddiamondd
短いながらも非常に緻密な楽曲。反復するリフと変則的なリズムが、聴き手の期待を次々と裏切る。エレクトロニカのような軽やかさを持つ一方で、物理的な迫力も感じられる。
4. Tonto
6分を超える長尺の楽曲で、アルバムの中でも特に壮大な展開を見せる。徐々に構築されるサウンドスケープは、まるで迷宮のように複雑だが、最終的には圧倒的なカタルシスを迎える。
5. Leyendecker
グルーヴィーでダウナーな雰囲気を持つトラック。ベースラインが楽曲全体を支えながら、抽象的で幻想的なムードを作り出している。耳に残る独特の質感が魅力だ。
6. Rainbow
多層的な構造が特徴で、メンバーの高い演奏技術が際立つ一曲。楽曲の中盤から後半にかけて、カオスが秩序を取り戻すような展開がスリリングで美しい。
7. Bad Trails
比較的ミニマルな構成で、異次元的な雰囲気が漂う。タイヨンダイ・ブラクストンのボーカルエフェクトが、楽曲に不思議な浮遊感を加えている。
8. Prismism
短いインタールードのような楽曲で、アルバム全体の緊張感を一時的に和らげる役割を果たしている。機械的でリズミカルなサウンドが印象的。
9. Snare Hangar
複雑なドラムパターンとエレクトロニックな要素が融合した楽曲。緊張感と解放感が交互に訪れる構成が、リスナーを飽きさせない。
10. Tij
アルバムのクライマックスを飾る壮大なトラック。ゆったりとしたビルドアップから、ダイナミックなフィナーレへと向かう展開は、Battlesの音楽的ビジョンの集大成とも言える。
アルバム総評
「Mirrored」は、Battlesがその技術力と創造性を最大限に発揮したアルバムであり、リスナーに音楽の新たな可能性を提示した革新的な作品だ。数学的ともいえる精緻な構造の中に、エネルギーと遊び心が溢れており、知的でありながら感覚的に楽しめる内容となっている。本作は、マスロックやプログレッシブロックに興味を持つリスナーだけでなく、実験的な音楽全般に興味を持つ人にとっても、欠かせない一枚である。
このアルバムが好きな人におすすめの5枚
「Don Caballero 2」 by Don Caballero
Battlesのメンバー、イアン・ウィリアムズが在籍していたバンドの代表作。マスロックの原型ともいえる複雑なリズムとギターワークが堪能できる。
「LP5」 by Autechre
エレクトロニカと実験音楽の融合が、「Mirrored」の電子的な要素と共鳴する。リズムとテクスチャに重点を置いた内容。
「Tortoise」 by Tortoise
ポストロックの名作で、ミニマルな構成と実験的なアプローチが「Mirrored」に通じる部分がある。
「Silent Alarm」 by Bloc Party
ダンサブルなロックサウンドとエッジの効いたリズムが、「Atlas」や「Tonto」に魅力を感じたリスナーにおすすめ。
「Schlagenheim」 by Black Midi
現代のエクスペリメンタルロックバンドによる力作。複雑な構造やプログレッシブな要素が、「Mirrored」を楽しめた人に響くだろう。
コメント