発売日: 2012年2月7日
ジャンル: アヴァンポップ、サイケデリックポップ、エクスペリメンタルロック
アルバム全体の印象
「Paralytic Stalks」は、of Montrealのフロントマンであるケヴィン・バーンズが、これまで以上に内省的かつ実験的なアプローチを取り入れた作品である。前作「False Priest」で見せたファンクやR&Bの影響をさらに発展させつつ、本作ではアヴァンギャルドな要素や不協和音、複雑な構成が特徴となっている。歌詞は極めて個人的な内容で、自己嫌悪、関係性の崩壊、そして存在そのものへの苦悩を深く掘り下げている。
音楽的には大胆な挑戦が随所に見られ、オーケストラ的なアレンジや、アトナルな音響効果、予測不能な展開が聴く者を圧倒する。一方で、「Hissing Fauna, Are You the Destroyer?」で聴かれるようなポップでキャッチーな要素も部分的に残されており、複雑な音楽構造の中にメロディアスな瞬間が息づいている。これにより、混沌とした音の海に漂う中でもどこか親しみやすさを感じる瞬間がある。
「Paralytic Stalks」は、簡単に消化できるアルバムではなく、そのエモーショナルな重さと音楽的な実験性からリスナーを試すような作品である。しかし、それゆえに、ケヴィン・バーンズの芸術的な野心と精神的な深みを存分に感じられる特別な一枚となっている。
各曲解説
1. Gelid Ascent
アルバムの幕開けを飾る曲は、攻撃的なシンセサウンドと不協和音が印象的。ケヴィン・バーンズのボーカルは不安定で、リリックには怒りと混乱が渦巻いている。冒頭から強烈なインパクトを与える一曲。
2. Spiteful Intervention
メロディアスでありながらも、歌詞には自己嫌悪と絶望が込められている。シンセポップの要素が強調されつつ、終盤にはカオスな展開が待ち受けている。バーンズの内面世界が赤裸々に表現された楽曲だ。
3. Dour Percentage
ファンクやソウルの影響が色濃い、アルバムの中で比較的軽快なナンバー。明るいリズムの裏に、苦悩や孤独を暗示する歌詞が隠れている。ホーンセクションが楽曲に華やかさを添える。
4. We Will Commit Wolf Murder
タイトルからして独特なこの曲は、メロディックな部分と不協和音がせめぎ合う構成となっている。環境破壊や人間の自己破壊的な本能を暗示する内容が込められており、複雑なアレンジが印象的。
5. Malefic Dowery
シンプルなアコースティックギターで始まる楽曲で、アルバムの中では異色の存在。静かな序盤から徐々に不安感を煽るような展開を見せ、歌詞には愛と憎しみが交錯する。
6. Ye, Renew the Plaintiff
ポップソングのフォーマットを解体するような構成が特徴の楽曲。多層的なサウンドスケープが広がり、予測不能な転調や変化が続く。聴き手を挑発するような一曲で、バーンズの実験精神が全開だ。
7. Wintered Debts
アルバムの中でも特に壮大な一曲。10分以上にわたる長尺で、複数のパートが組み合わさったプログレッシブな構成を持つ。静寂と爆発が交互に訪れる展開はまるで映画のようで、バーンズの最高にドラマチックな一面が堪能できる。
8. Exorcismic Breeding Knife
不穏でノイジーなサウンドが支配する楽曲。歌詞には暴力的なイメージや精神的な痛みが描かれており、音楽的にはアトナルな要素が強調されている。聴く者を圧倒する一曲だ。
9. Authentic Pyrrhic Remission
アルバムを締めくくる、13分を超える壮大なトラック。個人的な告白ともいえる歌詞が、音楽的な混沌の中で語られる。終盤では希望の兆しを感じさせるような明るいメロディが登場し、アルバム全体のカタルシスを提供する。
アルバム総評
「Paralytic Stalks」は、of Montrealがこれまでにないほど大胆に音楽的な実験を行ったアルバムであり、ケヴィン・バーンズの精神的な苦悩が音楽に全て注ぎ込まれている。複雑な構成、不協和音、不安定な感情が絡み合い、リスナーに挑戦を突きつける内容だが、その中に隠された美しさや深い感情的な繋がりを感じられる瞬間も多い。of Montrealの中でも特に個性的で、多層的な作品を求めるリスナーには必聴の一枚だ。
このアルバムが好きな人におすすめの5枚
「Hissing Fauna, Are You the Destroyer?」 by of Montreal
バーンズの内省的なテーマと音楽的実験が堪能できるアルバムで、「Paralytic Stalks」の原点ともいえる作品。
「The Drift」 by Scott Walker
実験的で暗く挑発的なサウンドスケープが、「Paralytic Stalks」と共通する。
「To Be Kind」 by Swans
音楽的なカオスと感情の爆発が「Paralytic Stalks」を楽しめたリスナーに響く内容。
「Blackstar」 by David Bowie
複雑なテーマとアヴァンギャルドな音楽性が融合した作品で、「Paralytic Stalks」と似た深みがある。
「Ys」 by Joanna Newsom
オーケストラ的なアレンジと長尺の楽曲が特徴のアルバムで、of Montrealの実験的側面と共鳴する。
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