
1. 歌詞の概要
「You」は、アメリカ・シアトル発のロックバンド、Candleboxが1993年にリリースしたデビューアルバム『Candlebox』に収録された楽曲であり、シングルとしても大きな反響を得た代表作のひとつである。リリース当時、バンドはグランジ・ムーブメントの渦中にありながら、よりメロディアスかつハードロック寄りのサウンドアプローチで、ニルヴァーナやパール・ジャムとは異なる“叙情と激情の共存”を提示していた。
「You」の歌詞は、一見するとラブソングのようでもあり、失恋の痛みを語るようでもあるが、その核心には裏切りや失望、そして依存からの解放というテーマが刻まれている。タイトルの「You(お前)」に向けて放たれる言葉の多くは、**感情的な断絶と痛みをそのまま突きつける“決別の言葉”**であり、そこには未練と怒りが入り混じった“破壊的な愛の余韻”が宿っている。
2. 歌詞のバックグラウンド
「You」は、『Far Behind』と並ぶCandlebox初期の代表曲として、90年代のオルタナティブ・ロック/ポストグランジ・シーンの中でも特異な立ち位置を占める楽曲である。ボーカルのケヴィン・マーティンは、この曲についてインタビューで**「ある種の中毒的関係性と、それに依存していた自分自身との決別」**をテーマにしたと語っており、必ずしも恋愛に限らない、より広義の“個と個の断絶”を描いていることがうかがえる。
加えてこの曲は、ステージパフォーマンスでのエモーショナルな爆発力でも知られており、サビでのシャウトと静かなヴァースのコントラストが、まさに感情の抑圧と解放の揺れを音で具現化している。これは単なる“怒りの発露”ではなく、自己の弱さと未練の中から生まれる本能的な叫びでもある。
3. 歌詞の抜粋と和訳
以下に、楽曲の印象的なフレーズを抜粋し、英語と日本語訳を併記する(出典:Genius Lyrics):
Pain / I’m your pain
And you’re my pain / and we are pain
「痛み──それが俺だ
そしてお前も痛みだ、俺たち、痛みそのものなんだ」
Now maybe you didn’t mean to treat me bad
But you did it anyway
「お前は、俺を傷つけるつもりなんかなかったのかもな
でも結局、やったんだよな」
You didn’t mean to hurt me bad
But you did it anyway
「傷つけるつもりはなかったって?
でも、やったんだよ──それが全てだろ」
この繰り返される「But you did it anyway」というフレーズは、信じたかった過去への裏切りの認識と、それをようやく言葉にする勇気を感じさせる。そしてこの言葉は、聴く者にとっても、かつての人間関係の記憶と重なり合う。
4. 歌詞の考察
「You」は、他者との関係において避けられなかった破綻を、内面の視点からまっすぐに捉えた告白のような楽曲である。ここで語られている「お前」は、特定の恋人かもしれないし、過去の自分自身の一部、あるいは親や友人など、関係性の中で自分を傷つけた全ての存在の象徴とも受け取れる。
「俺たちは“痛み”でつながっている」と語る部分には、依存関係にある二人の歪な絆が見て取れ、愛と憎しみが背中合わせであることを示唆している。Candleboxは、このような複雑な人間感情を真正面から描くことで、グランジが内包する感情のリアルさを、よりパーソナルで親密なものに落とし込んでいる。
また、「treat me bad」「hurt me bad」という語感も重要で、“傷つけたこと”の軽重ではなく、“事実としての傷”の存在そのものを重視している点に、Candleboxの誠実さと愚直さが感じられる。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- Glycerine by Bush
破滅的な関係を描くバラード調のグランジクラシック。 - Comedown by Bush
快楽のあとに訪れる精神的落下と愛の喪失感を描いた名曲。 - Black by Pearl Jam
愛した記憶が色あせていくことの切なさと、言葉にならない感情の深淵。 - Hate Me by Blue October
愛する人に対して、傷つけた自分を責める視点から描かれた告白型ロック。 - Down in a Hole by Alice in Chains
感情の底に落ちた人間の閉塞感と孤独を、繊細にかつ重く描いた名作。
6. “痛みを告げることでしか、別れは成立しない”
「You」は、愛と怒り、憎しみと悔いが渦巻く人間関係の終焉を、真正面から言葉にして吐き出すようなロックバラードである。静かなイントロから爆発的なサビに至る構成は、そのまま感情が抑えきれず破裂する心のプロセスをなぞっており、まさに“内なる告白の音楽”と言える。
誰かを信じたことがある人間なら、誰もが一度は通ったことのあるあの道──**「でも、お前は結局やったんだよな」**という言葉の重さ。それを、ケヴィン・マーティンの声は淡々と、時に激情を交えて響かせる。そしてその瞬間、聴き手自身もまた、“かつてのあの関係”と静かに決別できるのかもしれない。
Candleboxの「You」は、そうした感情の最もシンプルで、最も根源的な叫びを、決して誇張せず、ただ正直に届けてくれる楽曲である。
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