
1. 歌詞の概要
Vexatiousは、Candleboxの2016年作Disappearing in Airportsに収録された楽曲である。
Disappearing in Airportsは、2016年4月22日にPavement EntertainmentからリリースされたCandleboxの6作目のスタジオ・アルバムで、Vexatiousは同作の先行シングルとしてラジオに送られた楽曲である。Blabbermouthは、この曲が2016年2月2日にラジオ・シングルとしてリリースされると報じている。
タイトルのVexatiousは、厄介な、いら立たせる、面倒な、という意味を持つ言葉だ。
この曲で描かれるのは、単なる個人的な怒りではない。
もっと広く、現代社会のざわつき、情報の過剰、人間の孤立、そしてそれに飲み込まれていく感覚である。
歌詞の中では、相手に問いが投げかけられる。
君は、もうすでに行われたことをできるのか。
太陽の下で輝けるのか。
孤立したまま、どうやって生きていくのか。
また崖っぷちへ向かわずに、一日を過ごせるのか。
そこには、誰かを責めているようでいて、同時に現代人全体へ向けられた問いのような響きがある。
Candleboxは、1990年代のシアトル・ロックの文脈で知られるバンドである。
Far Behindのような代表曲では、喪失や友情、痛みを大きなロック・バラードとして鳴らしていた。
Vexatiousでは、その重心が少し変わっている。
ここにあるのは、90年代的な個人の苦悩だけではない。
テクノロジー、メディア、現代社会の不穏さが背景に見える。
Music Connectionのレビューでは、Vexatiousについて、社会がテクノロジーに取り憑かれていることを扱った曲として触れている。ただし、同レビューはそれを革命的なアジテーションではなく、内省的な思索として位置づけている。Music Connection Magazine
この見方はかなり重要だ。
Vexatiousは、怒鳴り散らす社会批判の曲ではない。
むしろ、疲れた目で世界を見ている曲である。
情報が多すぎる。
人はつながっているようで、孤立している。
誰もが何かを信じていると言うが、その信念はどこか薄い。
欲望は尽きず、誰かを追いかけ、何かを欲しがり続ける。
そんな時代の疲労感が、曲全体に流れている。
サウンドは、Candleboxらしいポスト・グランジ/オルタナティブ・ロックの骨格を保ちながら、2010年代のハードロックとして整理されている。
ギターは太く、リズムは前へ進む。
しかし、1993年のデビュー作のような荒々しい若さではない。
ここには、年齢を重ねたバンドの硬さと、時代に対する苛立ちがある。
Blabbermouthのレビューでは、Vexatiousについて、ギターを少し強め、ステップを踏むようなリズムを置き、甘いコーラスへ向かう曲として評している。BLABBERMOUTH.NET
その言い方は、この曲の二面性をよく表している。
曲は硬い。
けれど、コーラスは耳に残る。
テーマは重い。
けれど、構造はラジオ・ロックとして開かれている。
Vexatiousは、現代への苛立ちを、Candleboxらしいメロディとロックの推進力で包んだ曲なのだ。
2. 歌詞のバックグラウンド
Vexatiousが収録されたDisappearing in Airportsは、Candleboxにとって大きな節目のアルバムだった。
この作品は、バンドの6作目のスタジオ・アルバムであり、オリジナル・ギタリストのPeter Klettが参加していない初のアルバムでもある。メンバーとしては、Kevin Martinが唯一のオリジナル・メンバーとして残り、Mike Leslie、Brian Quinn、Adam Kury、そして元Pearl JamのドラマーDave Krusenが参加している。ウィキペディア
この編成の変化は、Vexatiousの響きにも関係している。
Candleboxという名前には、どうしても90年代のシアトル・ロックのイメージがついてまわる。
デビュー・アルバムCandleboxは大きな成功を収め、Far BehindはBillboard Hot 100で18位に達した代表曲である。ウィキペディア
しかし2016年のCandleboxは、もはや90年代の再現だけをしているバンドではない。
Antihero Magazineのレビューは、Disappearing in Airportsについて、これは1993年のCandleboxそのものではなく、時代とともに変化したバンドによる堅実なロック・アルバムだと評している。Antihero Magazine
Vexatiousは、その変化を象徴する曲である。
90年代のグランジ/ポスト・グランジが持っていた生々しい傷は、ここではより現代的な不安へ置き換わっている。
孤独は、部屋の隅で膝を抱える孤独だけではない。
スマートフォンの画面越しに誰かとつながりながら、それでも深く孤立しているような孤独だ。
人はつながっている。
けれど、わかり合っているとは限らない。
発信している。
けれど、本当に何かを伝えているとは限らない。
信じていると口にする。
けれど、その信念はクリックや反応の中で消費されていく。
Vexatiousには、そのような現代的な疲れがある。
Blabbermouthのリリース記事では、Disappearing in Airportsについて、内省的で詩的に率直なソングライティングと、Candleboxらしい音楽的即効性を持つ作品として紹介されている。BLABBERMOUTH.NET
この説明は、Vexatiousにもよく当てはまる。
歌詞は内省的だ。
しかし、音はすぐに身体へ届く。
社会やテクノロジーへの不信を歌っていても、曲としては難解に閉じこもらない。
そこがCandleboxの強みである。
Kevin Martinの声は、若い頃よりも少し乾いている。
だが、その乾きがこの曲には合っている。
若さの怒りではない。
長く音楽を続け、時代の変化を見てきた人間の声だ。
過去を背負いながら、それでも今の世界に向けて言葉を投げている。
Vexatiousは、その声が現代のざらついた空気とぶつかった曲なのである。
3. 歌詞の抜粋と和訳
歌詞の全文は、配信サービスや歌詞掲載サービスで確認できる。ここでは権利に配慮し、短い一部のみを引用する。
引用元:Spotify Vexatious、KaraokeTexty Vexatious
作詞・作曲:Candlebox
収録アルバム:Disappearing in Airports
音源情報:2016年、Pavement Entertainment。
Can you do what’s been done?
和訳:
すでに行われたことを、君にもできるのか?
この冒頭の問いは、曲の空気を一気に決める。
ここで問われているのは、単なる能力ではない。
誰かの真似をして、同じように振る舞い、同じように成功し、同じように輝こうとする現代の競争感覚がにじんでいる。
もう誰かがやったこと。
それをまた繰り返すこと。
それでも自分は特別だと思いたいこと。
この問いには、そんな皮肉がある。
Can you shine in the sun?
和訳:
太陽の下で輝けるのか?
この一節は、希望の言葉のようにも聞こえる。
しかし、Vexatiousの中では少し厳しい。
太陽の下で輝くということは、隠れずに外へ出ることだ。
加工された画面の中ではなく、現実の光の中に立つことだ。
孤立した人間にとって、それは簡単ではない。
So isolated
和訳:
こんなにも孤立して
この短い言葉が、曲の中心にある寂しさを示している。
Vexatiousの怒りは、単に外側へ向かう攻撃ではない。
その奥には、孤立への恐れがある。
誰かとつながっているようで、実はひとり。
騒がしい世界の中で、逆に孤独が深くなる。
この言葉は、その状態を鋭く切り出している。
Without making your way to the edge
和訳:
崖っぷちへ向かわずに
edgeは、端、境界、崖っぷちを意味する。
ここでは、自分を追い込む場所、危険な限界、精神的な縁のように響く。
一日を普通に過ごすことさえ難しい。
また限界へ向かってしまう。
また危うい場所へ足を進めてしまう。
Vexatiousの歌詞は、その不安定さを描いている。
4. 歌詞の考察
Vexatiousの歌詞は、問いかけの形を多く含んでいる。
これはとても重要だ。
この曲は、答えを提示する曲ではない。
むしろ、相手に、そして聴き手に、いくつもの問いを投げる曲である。
できるのか。
輝けるのか。
生き延びられるのか。
信じていると言ったことは、今も本当に信じているのか。
その問いは、責めるようでもあり、心配するようでもある。
Vexatiousというタイトルが示すいら立ちは、単純な怒りではない。
もっと持続的な不快感だ。
日々の中で積み重なっていく小さな苛立ち。
ニュースを見て感じる疲れ。
SNSを眺めて感じる虚しさ。
人が何かを信じているふりをしながら、実際には欲望に流されていく姿への失望。
この曲は、そうしたざらざらした感情を歌っている。
Music ConnectionはVexatiousを、テクノロジーに取り憑かれた社会を扱う曲として位置づけている。Music Connection Magazine
その視点で聴くと、歌詞の孤立という言葉がより強く響く。
現代のテクノロジーは、人をつなげるためにあるはずだ。
けれど、つながりが増えるほど、人は自分の孤独を強く感じることがある。
誰かの生活が見える。
誰かの成功が見える。
誰かの怒りが流れてくる。
誰かの正しさが押し寄せてくる。
その中で、自分がどこにいるのかわからなくなる。
Vexatiousは、その感覚をロックの言葉で描いている。
特に印象的なのは、歌詞が社会を批判しながらも、完全に外側から眺めているわけではないことだ。
語り手自身も、その厄介な世界の中にいる。
相手だけが問題なのではない。
自分もまた、その情報と欲望の網の中にいる。
だから声には、単なる正義感ではなく、疲労が混じっている。
Candleboxのロックは、もともと喪失や痛みと相性がいい。
Far Behindでは、友人の死や残された者の空虚が大きなテーマになっていた。
Vexatiousでは、その喪失感が個人から社会へ広がっているように聞こえる。
失われているのは、誰か一人ではない。
集中する力。
本当に信じる力。
他者と深くつながる力。
自分が自分であるという感覚。
そうしたものが、少しずつ消えている。
それがDisappearing in Airportsというアルバムタイトルとも響き合う。
空港は、移動の場所である。
人が集まり、通り過ぎ、また消えていく場所だ。
そこには出会いもあるが、深い定着はない。
Disappearing in Airports、空港で消えていく。
このタイトルには、移動し続ける現代人の希薄さがある。
Vexatiousもまた、どこか通過中の曲だ。
確かな場所に立っている感じがしない。
何かに追われ、何かを追い、またどこかへ向かっている。
でも、その先に本当に意味があるのかはわからない。
サウンド面では、曲のリズムが大きな役割を果たしている。
Blabbermouthのレビューが指摘するように、Vexatiousにはステップを踏むようなリズム感がある。BLABBERMOUTH.NET
ただ重く沈むのではなく、どこか前へ進む。
これは、曲のテーマとよく合っている。
現代の疲れは、立ち止まった疲れではない。
むしろ、動き続けているのに疲れる。
何かを追い続け、反応し続け、更新し続けることへの疲れだ。
Vexatiousのリズムは、その落ち着かなさを表している。
ギターは、Candleboxらしい太さを持っている。
だが、90年代のグランジ的な湿った重さとは少し違う。
より乾いていて、整理されていて、2010年代のロックとして鳴っている。
そこに、Kevin Martinの声が乗る。
彼の声は、単に激しく叫ぶだけではない。
感情を大きく押し出しながらも、どこかに経験の重さがある。
若い怒りなら、もっと単純に燃え上がる。
しかしこの曲の怒りは、燃え尽きたあとに残った炭のようだ。
まだ熱い。
でも、炎ではなく、内側で赤く光っている。
この温度が、Vexatiousの魅力である。
また、歌詞にあるvictimという感覚も見逃せない。
人は、自分を被害者として位置づけたくなることがある。
社会が悪い。
テクノロジーが悪い。
誰かが悪い。
自分は振り回されているだけだ。
もちろん、それは部分的には本当かもしれない。
けれど、Vexatiousはそこに安住しない。
欲しがっているのは誰か。
追いかけているのは誰か。
崖っぷちへ向かっているのは誰か。
その問いは、最終的に聴き手自身へ戻ってくる。
この曲は、現代社会を外から批判するというより、自分もその中にいることを認めたうえで鳴らされる曲なのだ。
だから、聴き終えたあとに少し苦い。
悪者をひとり指さして終わることができない。
厄介なのは世界であり、他人であり、同時に自分自身でもある。
Vexatiousという言葉の厄介さは、まさにそこにある。
5. この曲が好きな人におすすめの曲 5曲
- Far Behind by Candlebox
Candleboxを代表する楽曲であり、バンドの原点を知るうえで欠かせない。1994年にシングルとしてリリースされ、Billboard Hot 100で18位に達した代表曲である。Vexatiousの重いギターとKevin Martinの声が刺さった人には、Far Behindの喪失感と大きなメロディも深く響くだろう。ウィキペディア
- You by Candlebox
デビュー期のCandleboxらしい、荒々しさとメロディの強さが同居した曲。Vexatiousよりも90年代ロック色が濃く、怒りと情念がもっと直接的に出ている。Kevin Martinのボーカルが持つ粘りと爆発力を味わうには良い一曲である。
- Supernova by Candlebox
Disappearing in Airportsに収録された楽曲で、Vexatiousと同じ時期のCandleboxの音を知るうえで並べて聴きたい。Blabbermouthのレビューでも、アルバム内の楽曲としてVexatiousとともに触れられている。より現代的なCandleboxのメロディとロック感を楽しめる。BLABBERMOUTH.NET
- Let Me Down Easy by Candlebox
2021年のWolves期の楽曲。WolvesはDisappearing in Airports以降の流れを受け、ポップ・ロック的な方向性をさらに進めた作品として紹介されている。Vexatiousの後のCandleboxがどのように音を更新していったかを知るには相性がいい。ウィキペディア
- Heavy by Collective Soul
90年代以降のポスト・グランジ/オルタナティブ・ロックの太いギターとキャッチーなサビが好きな人におすすめしたい。Vexatiousのように、重さとラジオ向けのメロディを両立している。Candleboxよりも明快なフックを持つが、同時代的なロックの流れを感じられる。
6. 2010年代のCandleboxが鳴らした、厄介な時代への警告
Vexatiousは、Candleboxの代表曲として最初に挙がる曲ではないかもしれない。
多くの人にとって、CandleboxといえばFar Behindであり、1990年代のシアトル・ロックの記憶である。
そのイメージは強い。
しかしVexatiousには、長く活動を続けたバンドだからこそ鳴らせる重みがある。
若いバンドが現代社会に怒るのとは違う。
90年代からロックの変化を見てきたバンドが、2010年代の情報社会、孤立、テクノロジーへの依存を見つめる。
そこに、この曲の独特の苦味がある。
曲は、古い栄光の焼き直しではない。
Candleboxらしいギターの厚みと、Kevin Martinの声はある。
だが、テーマは明らかに今の世界へ向いている。
誰かとつながりながら、孤立している。
何かを信じていると言いながら、実際にはすぐ別の欲望へ流れる。
画面の中で輝こうとして、現実の太陽の下では立ち尽くす。
Vexatiousは、その矛盾を歌っている。
この曲が面白いのは、そこに説教臭さがあまりないことだ。
社会が悪い。
テクノロジーが悪い。
若者が悪い。
そんな単純な曲ではない。
むしろ、全員がこの厄介さの中にいる。
問いかけられている相手は、特定の誰かかもしれない。
しかし、聴いているうちに、それは自分のことでもあると気づく。
自分は孤立していないか。
自分は何を追いかけているのか。
自分は一日を、崖っぷちへ向かわずに過ごせているのか。
自分が信じていると言ったものは、今も本当に自分の中にあるのか。
Vexatiousの力は、この問いの残り方にある。
サウンドは、硬い。
でも、耳に残る。
重い。
でも、沈みすぎない。
このバランスは、Candleboxがラジオ・ロックのバンドとして持ってきた強みだ。
彼らは、複雑な感情をあくまで曲として聴かせる。
サビがある。
グルーヴがある。
ギターの押し出しがある。
だからVexatiousは、考えさせる曲であると同時に、身体で聴けるロックソングでもある。
アルバムDisappearing in Airportsの中で、この曲は非常に象徴的だ。
空港で消えていく人々。
移動し続ける身体。
接続されているのに定着しない関係。
その中で鳴る、いら立ちと孤独。
Vexatiousは、そのアルバムタイトルが持つ現代的な不安を、より直接的にロックへ落とし込んだ曲である。
Kevin Martinの声には、長く歌ってきた人間の傷がある。
若い頃のように、ただ叫べばいいわけではない。
でも、黙ることもできない。
だからこの曲では、怒りと諦めの間にある声が響く。
それがいい。
Vexatiousは、怒りの曲でありながら、完全には燃え上がらない。
むしろ、燃え上がる前の苛立ち、あるいは燃え尽きた後の苦さを鳴らしている。
現代の疲れは、いつも大爆発するわけではない。
小さな苛立ちが積もる。
画面を見るたびに少し疲れる。
ニュースを見るたびに少し冷える。
誰かの言葉に反応し、また別の言葉に反応し、自分の中心が少しずつ削れていく。
Vexatiousは、その地味な消耗をロックとして形にした曲だ。
だから、この曲は派手なアンセムではなくても、聴く価値がある。
Candleboxが90年代だけのバンドではないこと。
時代が変わっても、彼らがその時代の不安を自分たちの音へ引き込もうとしていたこと。
Vexatiousは、それを示している。
タイトル通り、この曲は厄介である。
気持ちよく聴いて終わり、という曲ではない。
どこか引っかかる。
問いが残る。
自分の生活の中にも、同じような孤立や依存や苛立ちがあると気づかされる。
その引っかかりこそが、Vexatiousの本質なのだ。
Candleboxはこの曲で、現代の騒音をただ批判するのではなく、その騒音の中で生きる人間の疲れを鳴らしている。
太陽の下で輝けるのか。
孤立したまま、どこへ行くのか。
また崖っぷちへ向かわずにいられるのか。
その問いは、曲が終わったあとも消えない。
Vexatiousは、2010年代のCandleboxが放った、厄介な時代への静かな警告である。

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