1. 歌詞の概要
「Give, Give, Give Me More, More, More」は、The Wonder Stuffが1988年にリリースしたデビューアルバム『The Eight Legged Groove Machine』のオープニングを飾る、まさにバンドのスピリットを象徴するような楽曲である。曲名の通り、“もっと、もっと、もっとよこせ”というリフレインが、物質主義や自己中心的な欲望の滑稽さをエネルギッシュに、そして皮肉たっぷりに表現している。
この曲は一聴すると、単なるアップテンポのポップパンク的アンセムのように聞こえる。しかし、そのリリックには1980年代後半のイギリス社会——消費文化、自己愛、エゴイズムといった時代的テーマに対する強烈な風刺が込められている。「もっと欲しい」と叫ぶその声は、実は欲望の空虚さを笑い飛ばす皮肉であり、ロックンロールの形を借りた社会批判なのである。
2. 歌詞のバックグラウンド
The Wonder Stuffは、1980年代後半のUKインディーシーンに登場し、ポップでありながら攻撃的、知的でありながらユーモラスという、独特のスタンスで頭角を現したバンドである。「Give, Give, Give Me More, More, More」は彼らのデビュー・シングルであり、当時のシーンに鮮烈な印象を残した出発点とも言える作品だ。
アルバム『The Eight Legged Groove Machine』自体が、当時のインディー・ロックへの皮肉と愛を詰め込んだような作品であり、その冒頭にこの楽曲を置くことで、バンドは「僕らはただのポップバンドじゃない」というメッセージを明確に提示した。世の中の貪欲さを真似ることで逆に突き放す——そんな逆説的な表現の巧みさは、まさにThe Wonder Stuffの真骨頂である。
3. 歌詞の抜粋と和訳
以下に、本曲の象徴的な一節を英語と和訳で紹介する（引用元：Genius Lyrics）：
Give, give, give me more, more, more
I want to own everything I see
「もっと、もっと、もっとくれ
見えるものは全部手に入れたい」
You told me greed was bad, well I know it’s good
It’s not just for the rich, it’s for me like it should
「欲張るのは悪いって？でも僕は知ってる、それは最高だよ
それは金持ちのものだけじゃない、僕のためにもあるべきなんだ」
このフレーズの皮肉の効き具合は見事である。「欲望は悪だ」という社会的通念を逆手に取り、「欲張って何が悪い」と開き直ることで、逆に“それがどれほど滑稽なことか”を露呈させている。これは自己肯定ではなく、欲望という“現代病”を徹底的に風刺するスタンスなのである。
4. 歌詞の考察
「Give, Give, Give Me More, More, More」の魅力は、勢い任せのキャッチーなサウンドの中に、冷徹な観察眼と知的な諷刺が潜んでいる点にある。この曲の語り手は、“欲望に忠実な人間”を演じながら、その裏にあるむなしさ、滑稽さ、社会の病理を暴いていく。これは、1980年代のサッチャー政権下で加速した新自由主義的価値観への反論でもあり、“もっと手に入れろ”“個人がすべて”という風潮を鏡に映して戯画化しているのだ。
語り口は怒りではなく“嘲笑”である。だからこそ、単なる抗議の歌に終わらず、聴き手の中に「笑いながらぞっとする」感覚を残す。実際、曲中では一貫して語り手が欲望にまみれていくが、最終的にはそれがどこにも行き着かないことが、逆説的に伝わってくる。
“見えるものは全部欲しい”というフレーズは、欲望の無限連鎖を示していると同時に、それがどれほど際限なく空虚であるかを露呈する。つまりこれは、快楽と貪欲がもたらす「終わりなき飢え」の歌なのである。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- Money by Pink Floyd
物質社会の狂気をロックで批判した名曲。鋭利な皮肉とメロディのバランスが似ている。 - Common People by Pulp
消費文化と階級意識に対する痛烈な風刺が光るUKポップの傑作。 - Opportunities (Let’s Make Lots of Money) by Pet Shop Boys
成功欲と消費社会への諧謔的なアプローチが、「Give〜」と同じ構造を持つ。 - I’m Free by The Soup Dragons
“自由”の表層をポップに祝福しながら、その空虚さを暴く90年代的名曲。 - Material Girl by Madonna
物質主義をテーマにしながら、実はその価値観を笑い飛ばすポップ・アイコンの代表曲。
6. “もっと欲しい”という病と笑いのレジスタンス
「Give, Give, Give Me More, More, More」は、1980年代の消費社会の象徴のようなフレーズを、あえて叫ぶことで、その異常さを浮き彫りにする風刺音楽の傑作である。この曲が優れているのは、その皮肉が“怒り”に変わる寸前で踏みとどまり、聴き手に「気づかせる」という役割を与えていることだ。
この曲の語り手は、社会に毒されたキャラクターを演じている。しかしそれは「演技」によって本質を暴く、きわめて演劇的で、知的なスタンスである。音楽としては楽しく、歌詞としては痛烈。その二重構造が、The Wonder Stuffというバンドの初期衝動を見事に形にしている。
「Give, Give, Give Me More, More, More」は、欲望をテーマにした音楽の中でも、最も陽気で、最も皮肉で、そして最も鋭い1曲である。笑いながら踊っているうちに、自分自身の欲深さに気づかされる——そんな“音楽による社会風刺”の快作であり、The Wonder Stuffの真の魅力を味わうための最高の入り口でもある。
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