Dirty Blue Balloons by Failure（1996）楽曲解説

楽曲レビュー

2025.05.28

1. 歌詞の概要
2. 歌詞のバックグラウンド
3. 歌詞の抜粋と和訳
4. 歌詞の考察
5. この曲が好きな人におすすめの曲
6. “甘く浮かぶのに、重く沈んでいく”

1. 歌詞の概要

「Dirty Blue Balloons（ダーティ・ブルー・バルーンズ）」は、Failure（フェイリアー）が1996年に発表した3枚目のアルバム『Fantastic Planet』に収録された楽曲であり、そのタイトルと内容からして薬物依存と現実逃避を鋭く描いた楽曲として知られている。

“ブルーの風船”は明らかに比喩であり、多くのリスナーや批評家の間ではヘロインまたは亜酸化窒素（いわゆる笑気ガス）吸引を象徴していると解釈されている。タイトルにある「Dirty（汚れた）」という形容詞が付くことで、その風船がもはや純粋な遊び道具ではなく、快楽と依存、そして崩壊のメタファーとして機能していることが明示される。

この曲は、夢見心地な浮遊感と重いリズムが交錯する中で、**“逃避の美しさ”と“逃避がもたらす腐敗”**という二面性を強烈に表現しており、Failureの中でも特に象徴性の強い一曲となっている。

2. 歌詞のバックグラウンド

『Fantastic Planet』全体が、薬物使用、心理的迷走、逃避、そして宇宙的スケールの孤独を描いたアルバムである中で、「Dirty Blue Balloons」はその中心的モチーフを明快かつ詩的に提示する役割を果たしている。

楽曲制作時、Failureのメンバーは音楽的な探求だけでなく、精神的・肉体的に極限の状況にあったと言われている。グレッグ・エドワーズ（Greg Edwards）とケン・アンドリューズ（Ken Andrews）はともに、サイケデリックな音楽的アプローチだけでなく、人間の“現実感”が崩れていく過程を音像と歌詞で描こうとしていた。

この曲の中で繰り返される奇妙な感覚、言葉の反復、そして美しいのにどこか不穏なメロディは、まさに**精神が変性状態にあるときの“曖昧な快感”**を体現している。

3. 歌詞の抜粋と和訳

以下に、「Dirty Blue Balloons」の印象的なラインを抜粋し、英語と日本語訳を併記する（出典：Genius Lyrics）：

Dirty blue balloons
Let them go
And I’ll hold them in my hand

「汚れた青い風船
手放して
でも僕はそれを手に持っているんだ」

You won’t get far
With the moon in your face
So you run and run and run
But you still can’t hide

「顔に月の光を浴びたままじゃ
遠くへは行けない
君は走り続けるけど
結局どこにも逃げられない」

ここに描かれているのは、薬物によって現実から離れようとするが、結局は何も変わらないという逃避の失敗である。風船を“手放す”ことと“握っている”ことが同時に歌われることで、やめたいのにやめられない矛盾した依存心理が表現されている。

4. 歌詞の考察

「Dirty Blue Balloons」は、Failureの楽曲の中でも特に直接的に中毒と自己破壊の心理を描いた作品でありながら、それを美しいメロディと柔らかな語り口で包み込んでいる点に最大の恐ろしさと魅力がある。

風船というイメージは本来、無邪気さ、浮遊、祝祭を象徴するものである。しかしこの曲ではそれが“汚れている”とされ、さらに“青”という色が加わることで、憂鬱や冷たさ、無感動のイメージが付与される。つまりこの“風船”は、一見きらびやかだが、実際には病的な逃避手段であることが強調される。

また、「You won’t get far with the moon in your face」というラインは非常に詩的で、月が象徴する“無意識”“狂気”“女性性”が、語り手の逃亡を阻むものとして描かれている。この世界では光すらも逃げ道ではなく、“逃避できないという事実”を暴く存在なのだ。

音楽的にもこの曲は、浮遊するようなギターのアルペジオ、うねるベース、淡々としたリズムの上に、感情を抑えたボーカルが乗るというFailureらしい構成となっており、聞き終わった後に**“酔い”が残るような感覚**をリスナーに残す。