
楽曲の概要
「Different Drum」は、The Lemonheadsが1990年に発表したMichael Nesmith作のカバー曲である。同年のシングル「Different Drum / Paint」とEP『Favourite Spanish Dishes』に収録され、Evan Dandoがボーカルとギター、Jesse Peretzがベース、David Ryanがドラムを担当した。プロデュースはPaul Q. Kolderie。後年の再発盤では1990年のアルバム『Lovey』に関連するボーナス・トラックとして収録されることもあるが、オリジナルの『Lovey』本編収録曲ではない点には注意したい。
原曲はThe MonkeesのMichael Nesmithが1960年代に書き、The Greenbriar Boysによる録音を経て、1967年にThe Stone Poneys feat. Linda Ronstadtのバージョンが大ヒットした。The Lemonheads版は、そのフォーク/カントリー・ポップ的な曲を、ざらついたギター、フィードバック、生々しいドラムを持つ約3分のインディー・ロックへ変えている。恋人から別れを告げる歌詞の自立心と、Dandoの力を抜いた声、乱暴だが明るいバンド演奏が組み合わされ、後に彼らが得意とする「古いポップ・ソングを自分たちの音へ変える」スタイルを早くから示した一曲である。
歌詞の概要
歌詞の語り手は、自分と相手が同じ未来を望んでいないことをはっきり理解している。相手は二人の関係をもっと深く、安定したものへ進めたいようだが、語り手にはその意志がない。そこで曖昧な期待を持たせながら付き合い続けるのではなく、二人は別れたほうがよいと伝える。恋が終わった悲しみより、「私たちはそもそも違う方向へ進んでいる」という認識が中心にある。
タイトルの「different drum」は、「march to the beat of a different drum」という英語表現につながっている。同じ太鼓のリズムに合わせて歩かない、つまり周囲や相手とは異なる価値観や生き方を選ぶという意味である。語り手は相手を嫌っているわけではないが、相手の望むリズムに自分を合わせることもできない。だから別れは怒りの結果ではなく、違いを認めた結果として提示される。
興味深いのは、語り手が自分の自由を守る一方、相手にも早めに別の道を選ばせようとしていることだ。永遠の愛を約束できないのに関係を引き延ばすより、傷が深くなる前に終わらせたほうがいいという考えである。そのため歌詞には少し冷たさがあるものの、相手をだますより正直でいようとする態度も含まれている。
制作背景・時代背景
「Different Drum」を書いたMichael Nesmithは、The Monkeesに参加する以前からソングライターとして活動していた。曲は1960年代半ばに書かれ、The Greenbriar Boysが1966年に録音。その翌年、The Stone PoneysがLinda Ronstadtのリード・ボーカルで発表したバージョンが大きなヒットとなった。Ronstadt版ではストリングスやハープシコードを含むバロック・ポップ的なアレンジが施され、Nesmithのカントリー/フォーク的な曲が洗練されたポップへ変換されている。
The Lemonheadsが取り上げたのは、その20年以上後である。バンドは1980年代後半のボストンのパンク/インディー・シーンから登場し、『Hate Your Friends』『Creator』『Lick』では荒々しく速いギター・ロックを演奏していた。しかし共同創設者Ben Deilyが1989年に離脱すると、Evan Dandoのメロディ志向が急速に前面へ出始める。1990年の『Lovey』は、初期のパンクと後の『It’s a Shame About Ray』に代表されるジャングリーなポップとの中間にある作品だった。
「Different Drum」はまさにその移行期に録音されている。強いメロディを持つ1960年代の曲を選びながら、演奏はまだきれいに磨かれていない。この組み合わせは後のThe Lemonheadsの重要な特徴となり、Simon & Garfunkelの「Mrs. Robinson」、Gram Parsonsの楽曲、Suzanne VegaやThe Misfitsまで、Dandoはジャンルを問わず数多くのカバーを自分の声とギターへ引き寄せていく。「Different Drum」は、そのカバー感覚が早い段階で完成していたことを示している。
歌詞の抜粋と和訳
この曲ではタイトルの「different drum」、つまり「違う太鼓」が最も重要な比喩である。二人は同じ場所にいながら、人生を進めるリズムが違う。どちらかが正しく、どちらかが間違っているという話ではなく、恋愛関係を続けるには方向が違いすぎるという認識を表している。
もう一つ重要なのは、相手への好意が残っているのに別れを選ぶ点である。愛情がないから終わるのではなく、愛情だけでは二人の違いを解決できない。これが「Different Drum」を単純な失恋歌とは違うものにしている。別れることを自由の宣言として描きながら、その自由には相手を残していく痛みも含まれている。
サウンドと歌詞の考察
The Lemonheads版でまず印象的なのは、原曲が持っていた上品なバロック・ポップの装飾をほとんど取り払っていることである。The Stone Poneys版ではストリングスや鍵盤がLinda Ronstadtの声を包み、別れの歌を優雅に聞かせていた。それに対してThe Lemonheadsは、ギター、ベース、ドラムという基本的なロック・バンドの音へ曲を戻す。結果として、歌詞の自立心がより直接的で若々しく聞こえる。
ギターは特に重要である。コード自体は明るくポップだが、音にはざらつきがあり、弦を擦るノイズやフィードバックも残されている。コードを完璧に整えて鳴らすというより、勢いよくストロークしながら次へ進むため、演奏には少し転びそうな感覚がある。この荒さによって、1960年代の洗練されたポップが1990年前後のアメリカン・インディー・ロックへ変わる。
しかも、その荒いギターと曲のメロディは衝突しない。むしろMichael Nesmithが書いた旋律が非常に強いため、ディストーションやノイズを加えても輪郭が失われない。The Lemonheadsの魅力はここにある。美しいポップ・ソングをきれいに演奏するのではなく、少し乱暴な音へ放り込み、それでもメロディが勝ち残る状態を作るのである。
David Ryanのドラムも、原曲の繊細なアレンジとは対照的だ。細かな装飾より、一定のビートで曲を押していくことを優先する。テンポには軽快さがあり、失恋の歌なのに沈み込まない。語り手は関係の終わりを悩み続けるのではなく、すでに別の方向へ歩き始めているため、この前向きな運動感が歌詞とよく合っている。
Jesse Peretzのベースも、曲を必要以上に重くしない。ドラムとともに安定した土台を作り、Dandoのギターが多少荒れてもポップ・ソングとしての輪郭を保つ。初期The Lemonheadsにはパンク由来の勢いがあるが、この曲ではその勢いを速度や攻撃性ではなく、短く簡潔に曲を進める力として使っている。
Evan Dandoのボーカルは、Ronstadt版との違いをさらに大きくする。Ronstadtは一音一音を明瞭に歌い、別れを告げる人物の確信と繊細さを表現した。一方Dandoは、少し鼻にかかった柔らかな声で、肩の力を抜いて歌う。強い決断を大声で宣言するのではなく、「これはもう仕方がない」と自然に話しているような距離がある。
この歌い方によって、歌詞の冷たさも少し変化する。相手へ「自分たちは合わない」と言う内容自体はかなり断定的だが、Dandoは勝ち誇ったようには歌わない。声にわずかなメランコリーがあるため、自由を選ぶ喜びだけでなく、関係を終わらせる寂しさも残る。Pitchforkが後年このバージョンに「youthful self-determination」を感じ取ったのも、この軽さと決断の組み合わせによるものだろう。
メロディとギターの関係も、後のThe Lemonheadsを予告している。Dandoの作曲では「It’s a Shame About Ray」「Confetti」「Into Your Arms」など、歌の旋律そのものは非常に簡潔で甘い一方、ギターには少し乾いたざらつきがある。「Different Drum」は彼自身の作曲ではないが、その組み合わせが驚くほど自然にThe Lemonheadsのスタイルへ収まっている。
曲の中盤で現れるギターの荒いリードも特徴的である。滑らかなスタジオ・ミュージシャン的ソロではなく、フィードバックや弦のノイズを残しながら短く動く。ここではソロを美しい間奏にするより、曲の整った表面へ少し傷を付けるような役割を持たせている。1960年代ポップの完成度に、1980年代末のアメリカ地下ロックの不完全さを持ち込んでいるのである。
その「不完全さ」は、歌詞の内容とも面白く重なる。語り手は、二人が一つの完全なカップルになるという理想を拒否する。無理に同じリズムへ合わせるより、違うままで別々に進む。その歌をThe Lemonheadsは、原曲のきれいに整えられたアレンジへ自分たちを合わせるのではなく、自分たち独自の荒いリズムへ作り替えて演奏する。カバーの方法そのものが、「different drum」という考えを実践しているようにも聞こえる。
また、この曲では「ポップ」と「パンク」が対立していない。初期The Lemonheadsはパンク・バンドとして出発したが、Dandoは強いメロディを好み、カントリーやフォークにも興味を広げていった。「Different Drum」は、パンクの音量やDIY的な荒さを残しながら、1960年代の名ポップ・ソングをそのまま愛することができるという姿勢を示している。
1990年という時期を考えると、この感覚は後のオルタナティヴ・ロックにもつながる。地下のギター・バンドであっても、古いポップ、カントリー、フォークを皮肉なしに取り上げることが徐々に自然になっていく。The Lemonheadsはその中でも特にカバーを多く演奏し、自作曲と他人の曲の境界をあまり重く考えないバンドだった。
後の「Mrs. Robinson」と比較するのも興味深い。1992年のそのカバーでは、すでにThe Lemonheadsは世界的に知られるバンドとなり、音も『It’s a Shame About Ray』以後の整ったオルタナティヴ・ポップへ近づいていた。「Different Drum」はそれ以前で、まだインディー・パンクの荒さがかなり残っている。そのため同じ「1960年代の有名曲をギター・ロックへ変える」という方法でも、こちらにはより生々しい移行期の魅力がある。
そしてカバー曲として最も成功している点は、歌詞の性別を大きな問題にせず成立していることだ。Ronstadt版では女性が男性へ別れを告げることで、1967年当時には女性の自立を感じさせる歌としても受け止められた。Dandoが歌えば語り手は男性として自然に聞こえるが、中心にある「他者の期待に合わせて自分の生き方を変えない」という考えは失われない。
むしろDandoのキャラクターには、この歌詞が非常によく似合う。The Lemonheadsの音楽では後にも、関係を求めながら距離も欲しがる人物、愛情はあるのにどこか落ち着かない人物が繰り返し登場する。「Different Drum」は他人が書いた曲でありながら、そうしたDandoの歌へ自然につながる。そのため「借り物」を演奏している感じが薄いのである。
約3分という短さも効果的だ。別れの事情を延々と説明せず、二人の違いを認め、結論を出して終わる。演奏も長いジャムへ進まず、メロディ、短いギター・ソロ、サビを提示するとすぐ終わる。この潔さが「同じリズムで歩けないなら別々に行こう」という歌詞に合っている。
結果としてThe Lemonheads版「Different Drum」は、原曲を壊して別物にするカバーでも、1967年版を忠実に再現するカバーでもない。Michael Nesmithの強いメロディと歌詞をそのまま尊重しながら、ストリングスの優雅さをギター・ノイズへ、整ったポップのリズムをインディー・ロックの勢いへ置き換えている。カバー曲を自分たちの音楽史の一部にしてしまうEvan Dandoの感覚が、すでに明確に表れた録音である。
この曲が好きな人におすすめの曲 5曲
「Different Drum」 by The Stone Poneys feat. Linda Ronstadt
1967年の代表的なヒット版。ストリングスや鍵盤を使ったバロック・ポップ的なアレンジとRonstadtの明瞭な歌唱が特徴である。The Lemonheadsが何を残し、何を大胆に取り払ったのかを比較するとカバーの面白さがよく分かる。
「Ride with Me」 by The Lemonheads
1990年の『Lovey』収録曲。荒いギターの中にEvan Dandoらしい甘く少し寂しいメロディが現れる。「Different Drum」と同時期に、The Lemonheadsが初期パンクからより柔らかなオルタナティヴ・ポップへ移っていたことが分かる。
「It’s a Shame About Ray」 by The Lemonheads
1992年の同名アルバム表題曲。「Different Drum」で見え始めた短い曲、強いメロディ、乾いたギターという組み合わせがさらに洗練されている。Dandoがカバー曲から吸収した古典的なポップ感覚を、自作曲で完成させた代表例である。
「Alex Chilton」 by The Replacements
1987年の『Pleased to Meet Me』収録曲。パンク以後の荒いギターと、1960〜70年代のポップ・ソングへの愛情を正面から両立させる。The Lemonheadsと同じく、地下ロックだからこそ古典的なメロディを自由に扱う感覚がある。
「September Gurls」 by Big Star
1974年の『Radio City』収録曲。簡潔なギターと甘いメロディ、恋愛の距離を扱う歌詞を約3分にまとめたパワー・ポップの代表作。「Different Drum」から後のThe Lemonheadsへつながる、ざらついたギター・ポップの系譜を感じやすい。
まとめ
「Different Drum」は、Michael Nesmithが書きThe Stone Poneys feat. Linda Ronstadtが広めた1960年代の名曲を、The Lemonheadsが1990年のインディー・ロックへ置き換えたカバーである。相手を嫌いだからではなく、二人が違うリズムで生きているから別れるという歌詞を、Evan Dandoは力を抜いた甘い声で歌い、ギターにはフィードバックや弦のざらつきを残す。原曲の美しいメロディは維持しながら、その周囲の上品な装飾だけをパンク由来の生々しい演奏へ交換した形だ。初期の荒々しさから『It’s a Shame About Ray』のメロディ重視のスタイルへ移るThe Lemonheadsの転換点を示すと同時に、後のキャリアを通じて続くDandoの優れたカバー選曲と解釈力を早くから示した一曲である。
参照元
- The Lemonheads『Favourite Spanish Dishes』
- MusicBrainz「Different Drum / Paint」
- AllMusic『Favorite Spanish Dishes』
- Pitchfork『The Hotel Sessions / Laughing All the Way to the Cleaners』
- Pitchfork『Lovey』レビュー
- Michael Nesmith「Different Drum」楽曲クレジット

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