発売日: 2021年9月17日
ジャンル: オルタナティブロック、ポストグランジ、モダンロック、ハードロック
概要
『Wolves』は、Candleboxが2021年にリリースした7作目のスタジオ・アルバムであり、キャリア最終章に近づきながらも、最も鋭く、最もメロディアスな進化を見せた、バンドの“現代的成熟”を体現する作品である。
新型コロナウイルスのパンデミックによる混乱の最中に制作された本作は、“闘うこと”と“赦すこと”の両方をテーマに掲げた、人生後半のフェーズにあるアーティストの静かで誠実なロック声明とも言える。
アルバムタイトル『Wolves』は、“群れ”と“孤独”、“生存本能”と“理性”といった二面性の象徴として機能し、全体に通底するコンセプトを支えている。
サウンド面では、従来のグランジやブルースロックの要素に加え、より洗練されたプロダクションとストリーミング時代に適応したコンパクトな構成が施され、ポップ・メロディとのバランスが際立つモダンロック・アルバムとして高く評価された。
全曲レビュー
1. All Down Hill from Here
冒頭からメランコリックなムードを纏う、スローテンポのオルタナロック。
“ここからは転がり落ちるだけ”というフレーズに、人生の諦念とユーモアの中間のような感情が宿る。
2. Let Me Down Easy
本作のリードトラックにして、ブルージーなグルーヴと切実なボーカルが光るCandlebox流スワンプ・ロック。
“そっと拒んでくれ”という嘆願は、成熟した愛と誠実な敗北を歌う。
3. Riptide
流される自分を止められない心情を描いた、モダンなビートとキャッチーなメロディが融合したアルバム中もっとも洗練された楽曲。
フックのあるコーラスが印象的で、ライブ映えもする仕上がり。
4. Sunshine
陽光=希望、記憶、もしくは失ったもの。
一見ポジティブなタイトルながら、“もう戻らない時間”を見つめるバラード的楽曲であり、哀愁と感謝が同居する。
5. My Weakness
恋愛の痛みと依存を描いた、ダイナミックで感情の起伏に富んだロックチューン。
歌詞の率直さと、メロディの親しみやすさが絶妙なバランスを生んでいる。
6. We
バンドの“絆”や“集団の在り方”を描いたメッセージソング。
コーラスワークとタイトなリズムが一体感を演出し、“俺たち”という言葉の重さと軽さの両方を見つめる楽曲。
7. Nothing Left to Lose
“もう失うものはない”というフレーズの裏にある、破壊ではなく“自由”としての再スタートの視点が印象的。
荒削りなギターと叫びすぎないボーカルが、大人の解放感を伝える。
8. Lost Angeline
アンジェリーンという女性の名前を中心に据えたストーリー仕立てのナンバー。
リリックは失われた関係、もしくは失われた“理想”へのノスタルジアとも読める。
9. Trip
短くシンプルながらも、感情の爆発力を凝縮したような小曲。
“旅”というより、“転落”に近いイメージのあるナンバーで、破片のような印象を残す。
10. Don’t Count Me Out
本作の中で最も力強くポジティブな曲。
「まだ終わっちゃいない」と繰り返すリリックは、ベテランバンドだからこその“最後まで走り切る”というメッセージに満ちている。
11. Criminals
“自分たちは悪者だ”という自己否定的な視点から始まりつつ、最終的には“誰だって罪を抱えている”という普遍的な赦しへと着地する。
人間臭く、温かく、少し突き放すような語り口が光る。

総評
『Wolves』は、Candleboxというバンドが四半世紀以上にわたって鳴らし続けてきた“人間的なロック”の集大成であり、今という時代にこそ必要な“共感と誠実さの音楽”である。
本作では、“吠える”よりも“語る”こと、“暴く”よりも“受け入れる”ことが選ばれており、それは単なる変化ではなく、成長と持続の結果としての進化なのだ。
かつてのグランジの咆哮は静かになったかもしれない。
だがその代わりに得たのは、痛みを言葉に変える力、そしてそれを誰かに手渡す優しさである。
2020年代という不安定な時代に、“群れのなかで孤独をどう生きるか”というテーマを掲げるこのアルバムは、Candleboxが自分たちの声を信じ、なお歌い続ける理由を証明している。
おすすめアルバム
- Seether / Si Vis Pacem, Para Bellum
ポストグランジの進化形としての静と動の表現が近似。 - Foo Fighters / Medicine at Midnight
ベテランとしての“開かれたサウンド”を追求した作品。 - 3 Doors Down / Us and the Night
ポップ性と内省を共存させたモダンオルタナ。 -
Bush / The Kingdom
初期衝動と成熟を併せ持った重厚なロック回帰。 -
The Smashing Pumpkins / CYR
再構築された音楽性とビジョンの提示という共通点。
歌詞の深読みと文化的背景
『Wolves』の歌詞は、現代の孤独、分断、赦し、連帯、そして自己再生をめぐる語りの集積であり、かつての怒りや若さとは異なる地点から語られる“再出発のロック詩”である。
狼という存在が象徴するのは、孤独な生存者であり、群れを求める動物でもあるという、現代人そのものの姿。
Candleboxは、このアルバムでその生き方に静かに寄り添い、「あなたは一人じゃない」とも「それでも一人で立て」とも語る、両義的で誠実な作品を作り上げた。
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