発売日: 2010年7月5日
ジャンル: ハードロック、グランジ、オルタナティヴ・ロック
概要
『Renegades』は、Feederが2010年に発表した7作目のスタジオ・アルバムであり、彼らのディスコグラフィの中でも特に攻撃的かつ原点回帰的な一枚である。
前作『Silent Cry』でエモーショナルな重厚感と繊細なリリックを展開した彼らは、今作で一転、パンク的衝動とグランジ直系の荒々しさを全面に押し出した。
その背景には、2009年からFeederが「Renegades」という別名義で小規模ツアーを行い、新曲を試験的に披露するというゲリラ的な活動があった。これは、バンドが再び“ライヴ・バンド”としての根本的な感覚を取り戻すための試みでもあった。
“Renegades(反逆者たち)”というタイトルが示すように、本作は2000年代後半のメインストリームから意図的に逸脱し、商業的成功よりも“鳴らすべき音”に忠実であろうとする姿勢が貫かれている。
それは、グラント・ニコラス率いるFeederが、年齢やキャリアを重ねた上でなお、ロックの初期衝動を取り戻そうとする強い意志の現れである。
全曲レビュー
1. White Lines
爆音ギターと歪んだベースが襲いかかる、アルバムの幕開けにふさわしい突進型ナンバー。
“白線”は境界線や制限の象徴であり、それを踏み越える姿勢がタイトルから読み取れる。
2. Call Out
ライヴでの盛り上がりを想定した、シンプルで力強いアンセム。
「声を上げろ」という直球なフレーズは、現代社会における疎外感や沈黙への反発をテーマとしている。
3. Renegades
タイトル曲にして、作品の核心をなす一曲。
反逆者としてのアイデンティティを宣言するような構成で、ギターの刻みとエネルギッシュなボーカルが際立つ。
Feederというバンドの再定義でもある。
4. Sentimental
意外性のあるタイトルだが、内容はあくまで硬質でアグレッシヴ。
“感傷”すらも攻撃的に鳴らすという逆説的な試みが、アルバム中でも特に印象的である。
5. This Town
社会への苛立ちと自己認識をテーマにした、パンキッシュなトラック。
タイトルの“この街”が象徴するのは、変わらない現実と、それに対する静かな怒りである。
6. Down to the River
アルバム中盤のスローダウン。
グランジ的な重さが漂うナンバーで、タイトルに込められた“川”は洗浄や再生を示唆している。
7. Home
直情的なメロディとコーラスが印象的な一曲。
“帰る場所”を探し続ける不安と希望が交錯しており、アルバムの中でも内面的な陰影が深い。
8. Barking Dogs
不穏で混沌としたサウンドスケープが広がる。
吠える犬=社会や自分自身の中の“制御できない衝動”のメタファーとして機能している。
9. City in a Rut
日常に閉じ込められた倦怠をパンク的に描写する佳曲。
“退屈な都市”という表現は、社会批判というよりも、自身の変化への希求と読める。
10. Left Foot Right
行進のようなビートと、単調だがクセになるリフが特徴。
不安定な時代を一歩一歩前進することの象徴として、ミニマルな美学が光る。
11. Godhead
アルバムのラストを飾る重厚なトラック。
“神性”を問い直すようなリリックが印象的で、音の密度と精神性の高さが最終曲にふさわしい余韻を残す。
総評
『Renegades』は、Feederが“ロックバンドとは何か”を再び問い直した作品である。
メロディックで叙情的な作品群で築き上げた商業的成功から一歩離れ、ギターの衝動、ライヴの熱量、そしてバンドの初期衝動へと回帰していく姿は、ベテランとしての余裕ではなく、純粋なロックへの信念によるものである。
グラント・ニコラスのボーカルは、これまで以上に叫びに近い感情表現が増え、歌詞もより抽象的かつ直接的な言葉遣いへと変化している。
その結果、アルバム全体に流れるのは“怒り”や“焦燥”でありながら、同時に“生”を渇望するような叫びでもある。
サウンド面では、パワートリオ的な編成を活かし、過剰な装飾を排したラフで荒削りな音作りがなされている。
それは意図的に“スタジオ的完成度”を捨て、“今この瞬間のエネルギー”を音像に封じ込めるという、ある種のドキュメント的試みとも言える。
このアルバムは、Feederの中でも最も“攻撃的”かつ“生々しい”作品であり、リスナーに媚びない潔さを持った、“大人の反逆”として記憶されるべき1枚である。
おすすめアルバム
- Queens of the Stone Age『Songs for the Deaf』
ラフでヘヴィなグルーヴと攻撃性。Renegadesの精神性と響き合う。 - Manic Street Preachers『Send Away the Tigers』
ウェールズ出身のバンドとして、同様に原点回帰を果たした作品。 - Nirvana『In Utero』
グランジ的な荒削りな音像と精神の吐露。音作りの方向性が共通。 - Biffy Clyro『Only Revolutions』
ヘヴィネスとポップネスの交錯が近似する。 - Idlewild『Make Another World』
2000年代UKロックにおける荒々しさと叙情のバランス感。
ファンや評論家の反応
『Renegades』は、従来のFeederファンからは賛否両論を呼んだ作品である。
“メロディックで心に染みるFeeder”を期待していたリスナーには唐突な変化に映った一方で、“ロックバンドとしての原点”を求めていたファンからは熱烈に支持された。
批評家の間でも、「これは本当にFeederなのか?」という疑問と驚きが交錯しながらも、バンドの実験的姿勢とエネルギーを評価する声が多かった。
特にライヴでの評価が高く、“Renegades名義”での活動が、バンドの真価を再認識させる契機となった。
このアルバムは、Feederが“生きたロックバンド”であることを改めて証明するドキュメントであり、彼らのキャリアの中でも異彩を放つ重要作なのだ。
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