発売日: 1994年2月7日
ジャンル: プログレッシブ・ロック / アート・ロック
Marillionが1994年に発表したBraveは、ポストFish時代の傑作であり、壮大で感情的なコンセプトアルバムだ。リードシンガーがSteve Hogarthに代わり、バンドのサウンドはより内省的かつ現代的な方向へと進化した。本作は、BBCのニュースレポートで報じられた、橋の上で自殺を試みた少女の実話に触発されて制作された。アルバム全体を通じて彼女の物語が描かれており、悲しみ、孤独、希望といった感情が緻密に紡がれている。
ProducerのDave Meeganによる精緻なプロダクションは、特にサウンドスケープの構築において際立っている。Hogarthのソウルフルなボーカルと、Mark Kellyの荘厳なキーボード、Steve Rotheryの感情豊かなギターが、暗くも美しい音楽世界を作り上げた。このアルバムは、短いシングル曲ではなく、深い没入体験を求めるリスナーにこそ響く作品である。
以下に、アルバム全13曲の詳細を解説する。
1. Bridge
アルバムの幕開けを飾る短いトラック。幽玄なキーボードとHogarthの儚いボーカルが、物語のスタート地点である橋の上の少女の孤独と絶望を描写する。サウンドはアルバム全体の暗いトーンを予感させる。
2. Living with the Big Lie
現代社会が個人に与えるプレッシャーをテーマにした楽曲。強烈なギターリフとダイナミックな構成が特徴的で、Hogarthのボーカルが徐々に高まる感情を伝える。「It all began with the big lie…」というラインは、物語の根底にある虚構を暗示している。
3. Runaway
少女の逃避行を描いた曲で、切ないメロディと哀愁を帯びたギターが心に残る。歌詞には家庭内暴力や社会の無関心といった問題が反映されており、「This was no place for a child…」というラインが特に胸を打つ。
4. Goodbye to All That
10分近い大作で、複数のセクションに分かれたプログレッシブな構成。混乱、怒り、諦めといった感情が複雑に交錯する。中盤の「Wave」セクションでは、静かで夢のような音響が不安定な心情を表現している。
5. Hard as Love
アルバムの中で比較的アップテンポな楽曲。力強いリズムとギターリフが特徴で、歌詞には愛と憎しみの二面性が込められている。特に「Love can be as hard as nails」というフレーズが核心を突く。
6. The Hollow Man
静謐で内省的な曲。ピアノ主体のシンプルなアレンジがHogarthの声を際立たせ、歌詞は自己喪失とアイデンティティの危機を描く。「I can feel myself becoming less defined」というラインが象徴的だ。
7. Alone Again in the Lap of Luxury
孤独をテーマにした楽曲だが、皮肉と苦悩が入り混じった複雑な感情が描かれる。コーラス部分の「Alone again in the lap of luxury…」が耳に残る。ギターソロが特にエモーショナルで、曲のハイライトとなっている。
8. Paper Lies
シニカルな視点でマスメディアや虚構を批判する楽曲。アップテンポなリズムと鋭い歌詞が特徴で、バンドの演奏が躍動感に満ちている。アルバム全体の中で少し異色の存在。
9. Brave
タイトル曲にして、アルバムの核となる一曲。静かに始まり、壮大なクライマックスへと向かう展開が圧巻だ。歌詞には、希望のかすかな光と、それにすがる人間の儚さが込められている。Hogarthの歌声が切実で、物語の感情的ピークを演出する。
10. The Great Escape
希望と解放感に満ちた楽曲。物語の少女がついに自由を見出す瞬間を描いているが、その結末には余韻を残す。「And I won’t be afraid anymore」という歌詞がリスナーの心に響く。
11. Fallin’ from the Moon
短いインストゥルメンタルで、前曲のテーマを余韻として残しながら物語を閉じる。ギターとキーボードが星空のような音響を作り上げる。
12. Made Again
アルバムのエンディングを飾る感動的な曲。希望と再生をテーマに、穏やかなアコースティックアレンジが特徴。特に「I’m alive again」というフレーズが、絶望の中から希望を見出す人々に勇気を与える。
アルバム総評
Braveは、深いテーマ性と劇的なサウンドスケープを兼ね備えた傑作であり、Marillionの新しい方向性を示した作品だ。Hogarth時代のアルバムの中でも特に完成度が高く、コンセプトアルバムとしての一貫性が際立つ。暗いテーマを扱いつつも、最終的には希望と再生へとつながるメッセージが心に響く。本作は、音楽を通じて物語を語るという点で、プログレッシブ・ロックの真髄を体現している。
このアルバムが好きな人におすすめの5枚
Misplaced Childhood by Marillion
同じく壮大なコンセプトアルバムで、愛と喪失をテーマにしたドラマチックな作品。本作のルーツを感じられる。
The Wall by Pink Floyd
テーマの暗さやストーリーテリングの巧みさに共通点がある。深い没入感を求めるリスナーにおすすめ。
OK Computer by Radiohead
人間の孤独や現代社会の疎外感を描いたアルバムで、Braveと似た内省的な世界観を持つ。
Clutching at Straws by Marillion
Fish時代最後のアルバムで、自己破壊的なテーマと感情的な深みが共通している。
Deadwing by Porcupine Tree
ダークなテーマと壮大なサウンドスケープを持つ作品。感情的な深さがBraveと響き合う。
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