アルバムレビュー:Last Time I Saw Him by Diana Ross

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※本記事は生成AIを活用して作成されています。

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発売日: 1973年12月6日
ジャンル: カントリー・ソウル、ポップ、オーケストラル・ポップ


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概要

『Last Time I Saw Him』は、Diana Rossが1973年末に発表した5作目のソロ・スタジオ・アルバムであり、これまでのソウルやポップ中心の路線から一歩踏み出し、カントリーやブルーグラスなどアメリカーナの要素を取り込んだ意欲作である。

前作『Touch Me in the Morning』で洗練されたバラード路線を築き上げたRossだが、本作ではその柔らかさを保ちつつ、より物語性の強い楽曲とルーツ音楽への接近が目立つ。
特に表題曲「Last Time I Saw Him」は、ワルツ調のカントリーポップに乗せて、愛した男を探しに行く女性の姿を描いたストーリーテリングが印象的で、Billboard Hot 100でもヒットを記録した。

プロデュースはMichael Masser、Tom Baird、そしてJohnny Bristolと多彩な陣容が支えており、収録曲にはMotownらしからぬアコースティック・サウンドやジャズスタンダードのカバーも含まれている。
それは一見バラバラに思えるかもしれないが、Rossの表現力がそれらをひとつの統一感ある世界へとまとめ上げている。

結果として『Last Time I Saw Him』は、Diana Rossというアーティストがいかに多様なジャンルを内包できるかを証明する、柔軟で豊かな中期作品となっているのだ。


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全曲レビュー

1. Last Time I Saw Him

陽気なマーチとカントリー調のリズムが新鮮なオープニング。
「愛した彼が南部へ去って行った」という内容を、軽やかに、しかし切なく歌い上げる。
バンジョーやホーンを交えたサウンドは、モータウンにおける異色のアプローチだが、Rossの演技的な歌唱が見事に溶け込んでいる。

2. No One’s Gonna Be a Fool Forever

ソウルバラードの王道とも言えるメロディ展開で、感傷的ながら芯の強さを感じさせる一曲。
「いつまでも騙されてばかりじゃない」と、女性の自立を滲ませたリリックが現代的でもある。

3. Love Me

静かに語りかけるようなバラード。
柔らかなピアノとストリングスの中で、Rossの声が優しく響き、愛に対する不安と願いが綴られる。
感情を大きく起伏させるのではなく、あくまで抑えたトーンで展開する構成が印象的。

4. Sleepin’

感情の蓄積を一気に放出するような、ソウルフルかつドラマティックなナンバー。
「あなたは眠っていたの?それとも気づかないふりをしていたの?」と問いかける歌詞が印象的で、終盤のヴォーカルには鬼気迫る迫力すらある。

5. You

70年代的なアレンジが光る、ソウルとカントリーが混ざり合ったクロスオーバー・バラード。
愛と葛藤の境界線を描くような構成で、Rossの情感の込め方が繊細かつ奥深い。

6. Turn Around

ゴスペル的なコーラスと、明快なメッセージ性を持つ歌詞が魅力の楽曲。
「振り向いて、私の声を聴いて」という、再生への祈りのような言葉が、聴き手の心を照らす。
前向きなエネルギーに満ちた、隠れた名曲。

7. When Will I Come Home to You

どこかシャンソンを思わせるメロディラインに、母性的な愛情を重ねた曲。
帰る場所としての“私”を描く視点は、Rossの温かなパーソナリティと響き合っている。
控えめながら包容力のあるトラック。

8. I Heard a Love Song (But You Never Made a Sound)

「愛の歌が聞こえたのに、あなたは何も言ってくれなかった」という皮肉と痛みを含んだリリックが印象的。
静かなイントロから一転して盛り上がる構成が、まるで内面の叫びを描いているようで、感情のカタルシスがある。

9. Stone Liberty

自由を求める女性の視点を強く打ち出したアップテンポ・ソウル。
時代の空気を映し出すようなリリックで、「Stone Liberty=冷たい自由」という比喩が印象的。
独立と孤独、その両方を描き出す。

10. Behind Closed Doors

Charlie Richによるカントリーポップの名曲をカバー。
プライベートな愛を描いたこの曲を、Rossは非常にナチュラルかつ大人の色気をもって歌い上げる。
オリジナルへのリスペクトを保ちつつ、彼女の声が与える新たな質感が魅力的。


総評

『Last Time I Saw Him』は、Diana Rossのディスコグラフィの中でも異色かつ挑戦的な作品である。
特に表題曲を筆頭に、カントリーやアメリカーナへの接近は、それまでのモータウン流ソウルとは一線を画し、Rossの幅広い音楽性と表現力を裏付けるものとなっている。

多くの楽曲が語り手としての視点を持ち、Rossはそのストーリーテラーとしての力量を惜しみなく発揮する。
ソウルシンガーというよりも、舞台女優のように情景を“演じる”ことで、アルバム全体にドラマが生まれているのだ。

サウンド面でも、多彩な楽器編成やアメリカ南部的な雰囲気を取り込む一方で、モータウンらしいアレンジやコーラスの緻密さは健在。
この両者の融合こそが、『Last Time I Saw Him』を単なる“実験作”ではなく、“過渡期の傑作”へと昇華させている理由である。

本作のリリース以降、Rossはディスコ期へと歩みを進めることになるが、その直前の“空白”のようなこの作品には、まだラベルを貼られていない自由な音楽の喜びが詰まっている。
それゆえに、聴くたびに新たな顔を見せてくれる、奥行き深い一枚なのだ。


おすすめアルバム(5枚)

  • 『Touch Me in the Morning』 / Diana Ross(1973)
     本作直前の作品で、バラードとドラマ性のバランスが絶妙な中期の代表作。

  • Lady Sings the Blues』 / Diana Ross(1972)
     女優的表現力を最大限に引き出したジャズ路線の傑作。語り手としてのRossを感じられる。

  • 『Pieces of Me』 / Linda Hoyle(1971)
     同時期に女性の語りを中心に据えた作品で、ロックとジャズ、ブルースが交錯する一枚。

  • Carpenters』 / Carpenters(1971)
     カントリー・ポップに近い清潔感とバラード重視の美学が通じ合う。

  • 『Blue』 / Joni Mitchell(1971)
     女性による個人的なストーリーテリングと音楽的冒険という点で、本作との精神的共鳴がある。


ビジュアルとアートワーク

アルバムのジャケットは、柔らかなオレンジブラウンを基調に、Diana Rossがほほ笑みを浮かべた穏やかなポートレートが配されている。
前作までの“女神的”なイメージとは異なり、親しみやすく、カントリー的な温かさや人間的な柔らかさを感じさせるビジュアルである。

このアートワークは、音楽性の変化を静かに告げると同時に、Rossの“地上に降りた表現者”としての側面を可視化しているのかもしれない。
その笑顔の奥に秘めた、ストーリーテラーとしての凛とした強さ――それこそが、本作の芯にあるものなのだ。

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