1. 歌詞の概要
「Makes Me Wonder(メイクス・ミー・ワンダー)」は、Maroon 5(マルーン・ファイヴ)が2007年にリリースした2枚目のスタジオ・アルバム『It Won’t Be Soon Before Long』からのリードシングルであり、彼らにとって初の全米Billboard Hot 100で1位を獲得したシングルでもある。
一聴すればキャッチーでグルーヴィーなダンス・ポップだが、その歌詞は極めて辛辣かつ複雑であり、恋愛と政治の失望を二重写しに描いた異色のポップソングとなっている。
表向きには恋人との関係が崩れつつあるなかで、「どうしてこんなにもすべてが間違っていくのか?」と自問する歌詞だが、その“個人的な幻滅”はやがて国家や信頼していたシステムそのものへの不信感に変容していく。
「君が僕を信じていなかったことに、気づくのが遅すぎた」と語る語り手の声は、愛に裏切られた失意と、世界そのものへの幻滅が重なった叫びのようでもある。
このように、「Makes Me Wonder」は恋愛の歌でありながら、アメリカの現実(特にブッシュ政権下の政治や戦争)に対する間接的な抗議の歌でもあるという、Maroon 5にとって極めて特異な作品なのである。
2. 歌詞のバックグラウンド
アダム・レヴィーンはかつてこの曲について、「恋愛の失望を描いているが、同時に当時のアメリカの政治状況への苛立ちも表現した」と語っている。
2000年代前半、アメリカはイラク戦争や国内外の分断を経験しており、多くの若者が“何を信じてよいかわからない”という感覚を抱えていた。
その感情は、恋人との関係が破綻する個人的な苦しみと、国家の欺瞞に気づいてしまった社会的苦しみを繋ぐ感情として、この曲の中に統合されている。
「It really makes me wonder(本当に、わからなくなるよ)」という繰り返しは、そのまま正解の見えない時代に生きる人々の心の声でもある。
音楽的にも、Maroon 5はこの曲でそれまでのファンク・ロックやソウル的アプローチから脱却し、より洗練されたポップスとエレクトロニック・サウンドの融合へと舵を切っており、キャリアの分岐点となる楽曲でもあった。
3. 歌詞の抜粋と和訳
以下に、「Makes Me Wonder」の印象的な一節を抜粋し、和訳とともに紹介する。
I wake up with blood-shot eyes
目を覚ますと、充血した目Struggled to memorize
昨夜の出来事を思い出そうと必死になるThe way it felt between your thighs
君と重なり合ったときの、あの感覚をPleasure that made you cry
涙がこぼれるほどの喜び──それがあったのにIt feels so good to be bad
悪くなるのも、たまには悪くない気がするNot worth the aftermath, after that
でも、後悔する価値なんてなかったよAfter that
そのあとには──何も残らなかったI still don’t have the reason
いまだに理由は見つからないAnd you don’t have the time
君はもう、それを考える時間さえないAnd it really makes me wonder
だから本当に思うんだ──一体、何だったんだろう?
出典:Genius – Maroon 5 “Makes Me Wonder”
4. 歌詞の考察
「Makes Me Wonder」のリリックは、恋愛における錯覚と欺瞞、そして国家や社会に対する失望が層になって構成されている。
冒頭の性的な描写と情緒的な混乱は、単なる関係の破綻を示しているようでありながら、次第にそれは**“真実だと信じていたものがすべて嘘だった”**という強い幻滅へとつながっていく。
それは個人レベルの失恋だけでなく、市民として国家に裏切られたという感覚のメタファーにも読める。
「まだ理由はわからない、でも時間もない」と語る語り手は、何かを理解する前にすでに置き去りにされてしまっている。
この“追いつけない感覚”は、まさに2000年代の若者文化に共通する空虚さであり、この曲がヒットした理由の一端でもある。
また、“問いかけ続ける”というスタイルのサビは、明確な解答を提示せず、聴き手に自分自身の疑問や違和感を投影させる余地を残している。
この構造が、恋愛ソングの枠を超えて、多くの人々の心に引っかかる普遍性を生んだ。
※歌詞引用元:Genius
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- Maps by Maroon 5
「どこで道を間違えたのか」を探す、過去への地図を描いた切ないポップロック。 - Boulevard of Broken Dreams by Green Day
孤独と幻滅を貫く道を歩く、2000年代を象徴するオルタナティブ・アンセム。 - Mr. Brightside by The Killers
疑念と愛の錯綜を高揚感とともに描く、脆くも激しいラブソング。 - Use Somebody by Kings of Leon
誰かを求める切実な気持ちと、満たされない空白を描いたロックバラード。 - Clocks by Coldplay
時間と混乱の中で答えを探す、美しく抽象的なロック詩。
6. 洗練された怒り──ポップソングに潜んだ“問い”
「Makes Me Wonder」は、ポップソングでありながら、その内側には**失望、混乱、欺瞞、自己喪失といった感情が折り重なった“問いの連続”**が隠されている。
「なぜ、すべてがこんなにもわからなくなってしまったのか?」
「信じていたものが、なぜこうも簡単に崩れていくのか?」
その答えは提示されない。
けれど、それを問うことこそが、この楽曲の本質なのだ。
軽やかなビート、シャープなメロディ、その奥で揺れ動くアイデンティティと信念の崩壊。
それは、誰もが一度は経験する“世界の見え方が変わる瞬間”を音楽として刻んだ記録でもある。
「Makes Me Wonder」は、ダンスフロアの灯りの下でこっそりと、自分自身の崩れかけたシルエットに気づいてしまう、そんな夜のための問いかけなのだ。
コメント