1. 歌詞の概要
「12:51（トゥエルヴ・フィフティーワン）」は、The Strokes（ザ・ストロークス）が2003年にリリースした2作目のスタジオ・アルバム『Room on Fire』に収録されたシングルであり、彼らの音楽的成熟と90年代末〜2000年代初頭の**「夜の都市の夢想」**を象徴するような一曲である。
タイトルの「12:51」は深夜0時51分、つまり日付をまたいだあとの街の静けさと熱が同居する瞬間を示しており、そこにある曖昧な恋の気配、会話未満のアイコンタクト、まだ名前のない関係性──そうした繊細な機微を、シンプルな言葉と温度感で描いている。
この曲の語り手は、どこか気だるいテンションで「君と一緒にいたい」「でも無理に動くつもりもない」といった受動的な恋心を語っており、その態度はストロークスらしい都会的な無関心と繊細さの絶妙なバランスに貫かれている。
2. 歌詞のバックグラウンド
「12:51」は、前作『Is This It』によって大きな注目を集めたThe Strokesが、その期待と重圧のなかで生み出した“反応的”なポップ・ロックの傑作である。
音楽的には、レトロなシンセ・トーンをギターで表現したような特徴的なリード・フレーズが話題を呼び、The Cars（特に「Just What I Needed」）へのオマージュとも言われたその音色は、ガレージ・ロックにニューレトロのエッセンスを取り入れたスタイルとして高く評価された。
ジュリアン・カサブランカスのボーカルは、いつも以上にぼそぼそとした呟きに近く、エモーションを抑えながらも、フレーズの端々で**焦燥やときめきの“きらめき”**を感じさせる。
歌詞自体は難解さを避け、ごく自然な感情の波を、夜の街の匂いとともに綴っている。
3. 歌詞の抜粋と和訳
以下に、「12:51」の印象的なフレーズを抜粋し、和訳とともに紹介する。
Talk to me now, I’m older
今なら話せるよ、少しは大人になったしYour friend told you ‘cause I told her
君の友達が君に言った──俺があの子に話したからFriday nights have been lonely
金曜の夜は、ちょっと寂しくってさChange your plans and then phone me
予定を変えて、電話してくれないか？I’m going down, down, down, down, down
もう、どんどん落ちてるんだSo get your hands off my neck and let’s go
だからもう、首を締めるのはやめて、出かけようよ
出典：Genius – The Strokes “12:51”
4. 歌詞の考察
「12:51」は、ある意味で**“真夜中の恋”の歌である。それは愛の告白でもなく、切実な失恋でもない。
もっと軽やかで、もっと現代的な──「なんとなく会いたい」「でもそれを真剣に伝えるのは少し恥ずかしい」
そんな曖昧さの中にしか存在できない関係**を、ジュリアン・カサブランカスは冷めた口調で歌い上げている。
「金曜の夜は寂しいから電話して」
「ちょっと話がしたいんだ」
それらの言葉は、恋人同士でもなく、他人でもない、“いびつな距離感”を持つふたりの間にしか成立しないものだ。
また、「I’m going down」と繰り返される部分には、感情が落ちていく様だけでなく、「夜の深まり」とも、「気分の沈み」とも取れる多義的なニュアンスが込められている。
それでも「出かけよう」と誘う終盤のラインには、ストロークス流の“諦めきらない希望”がにじむ。
この楽曲の真骨頂は、「愛してる」も「会いたい」も「さみしい」も言わずに、それでも全部が伝わってくる──
そんな“都市の夜の恋”のリアリズムにある。
※歌詞引用元：Genius
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- Someday by The Strokes
過ぎてしまった日々とまだ来ない明日を、どこか楽観的に見つめる青春のアンセム。 - Ask Me Anything by The Strokes
シンプルな旋律と深い諦念の言葉が交錯する、夜にひっそり聴きたくなるバラード。 - Take It or Leave It by The Strokes
より攻撃的なナンバー。情熱をぶつけたあとに残る空虚感が本質的に似ている。 - Is This Love? by The Whitest Boy Alive
“これが愛なのか？”という問いをさりげなく投げかける、軽やかな内省ポップ。 - We Used to Be Friends by The Dandy Warhols
関係性の変化と淡い感傷をテンポよく描いた、クールな友情のテーマ曲。
6. シンセのようなギターに乗せて描く、真夜中の“ちょっとだけの気持ち”
「12:51」は、The Strokesの音楽のなかでも特に**“静かな情熱”と“クールな佇まい”**が見事に同居した一曲である。
この曲には、愛の葛藤も、社会への反抗もない。あるのはただ、“いまこの瞬間だけの気分”──
明日のことは考えずに、今夜誰かと一緒にいたいという、正直すぎる感情。
ジュリアンの抑えた歌い方と、煌びやかなギターサウンド、そして短くて甘く、どこか切ない2分半──
それらすべてが、夜の12:51にしか鳴らない音楽になっている。
これは、電話をかけるか、かけないか迷っている夜に、そっと背中を押してくれる曲なのだ。
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