
発売日: 1981年6月1日
ジャンル: ポストパンク、エクスペリメンタル・ポップ、アート・ファンク
『A Product Of… (Participation)』は、Thompson Twinsが1981年にリリースした記念すべきデビュー・アルバムであり、
彼らが後に築き上げるシンセポップ黄金期とはまったく異なる、アヴァンギャルドで実験的な出発点を提示した作品である。
タイトルにある“Participation”という言葉が象徴するように、本作はリスナーも巻き込むようなインタラクティブなアート作品として設計されており、
ファンク、ダブ、ポストパンク、パーカッション実験などが混ざり合った、DIY精神あふれるアンダーグラウンド・ポップの宝庫となっている。
この時点でのThompson Twinsはまだ7人編成であり、のちにチャートを席巻するトリオ体制ではない。
メンバーには女性3人が含まれ、多数のパーカッション、声、手拍子、ノイズが導入されるなど、“共同体的な音楽制作”の理念が色濃い。
サウンドはニューウェイヴ的でもあり、スクラッチ感のあるファンク的でもあり、時に民族音楽的。
その雑多なスタイルはポストパンクの自由さを象徴し、**後の洗練とは真逆の“粗さの美学”**に満ちている。
全曲レビュー
1. When I See You
ノイジーなベースとタイトなリズムが導入部を支配する、オープニングにして最もパンク的な一曲。
ヴォーカルはほぼ“語り”に近く、観念の奔流がビートと交錯する。
2. Politics
タイトル通り、社会批評性の強い曲。
レゲエ的なリズムの上に叫びやアジテーションが重なり、The SlitsやGang of Fourにも通じる鋭利な感覚がある。
3. Slave Trade
ダブ的なリズムとノイズのループが絡む、異様な浮遊感のある楽曲。
人種、経済、権力といった構造的テーマを、サウンドの断片として表現している。
4. Could Be Her… Could Be You
女性ヴォーカルが主導する実験的なトラック。
ジェンダーや役割の流動性を感じさせる構成で、言葉が音の一部として機能している。
5. Make Believe
メロディアスな要素がやや強く、他の曲よりも“ポップ”に近いが、
依然として構造は破壊的で、シンセとギターの断片が切り刻まれるように挿入される。
6. Don’t Go Away
トライバルなパーカッションが主軸となった、非常にプリミティヴな曲。
原始的なリズムとコーラスの反復が、“呪術的グルーヴ”を生んでいる。
7. The Price
ディストピア的な語りと、どこかパンク・ジャズ的な展開が特徴のナンバー。
ストリートのリアリズムを、ポエトリーとビートで構築。
8. Oumma Aularesso (Animal Laugh)
もっとも実験的なトラックのひとつで、楽曲というより“サウンド・インスタレーション”に近い。
意味不明の言語、動物の笑い声、非音楽的な音響が入り乱れた異様な空間。
9. Anything Is Good Enough
ヒューマンビートボックス風のヴォーカルとコール&レスポンスを軸にした遊び心ある曲。
本作の中でも異彩を放つ、即興性と愉快さの同居した実験。
10. A Product Of…
ラストはアルバム・タイトルを冠した短いインストゥルメンタル。
すべての音が集合し、まるでパフォーマンス・アートのエンディングのような印象を与える。
総評
『A Product Of… (Participation)』は、**のちのThompson Twinsのポップな成功像とは対極にある、政治的かつ音響的な“原点”**である。
このアルバムはチャートを狙った作品ではなく、むしろ“音楽を武器ではなく問いとして提示する”姿勢に貫かれており、
ポストパンク期のアート・ミュージックにおけるひとつの重要な記録でもある。
トム・ベイリーがのちに『Hold Me Now』などのメロディアスな楽曲を作ることを思えば、
本作のカオスやプリミティヴィズムは**“自己再構築の前の爆発”**のようにも思える。
また、DIY精神、参加型の構成、社会への批判精神など、1979〜81年の英アンダーグラウンド文化の精神を象徴している点でも意義深い。
後の洗練されたエレポップの入り口としてではなく、**Throbbing Gristle、The Raincoats、Cabaret Voltaireなどと並ぶ“ラディカルな出発点”**として聴かれるべき作品である。
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