(SEO キーワード:NewDad 音楽 アルバム 楽曲解説)
イントロダクション
冷たい海霧がガルウェイ湾へ流れ込む午前四時。
その霞の向こうで鳴り続けるギターの残響と、微睡むような囁き声――
アイルランド西岸の街で結成されたバンド NewDad は、シューゲイズの甘い靄と 90 年代オルタナの粗い粒子を同居させ、聴く者の記憶に“懐かしい未来”を描き出す。
デビュー EP『Waves』で注目を浴び、『Banshee』を経て 2024 年 1 月に初フルレンス『Madra』を発表。
静かに熱を帯びたその音は、コロナ禍以降の若いオルタナティヴ世代の孤独と希望を照射し続けている。
バンドの背景と歴史
2018 年、ガルウェイ市内の同じ高校に通っていたジュリー・ドーソン(Vo/Gt)、ショーン・オドウド(Gt)、フィアクラ・パースロー(Ba)、ファーガル・オキーフ(Dr)の四人が音楽コースの課題で意気投合。
スミスやスローカイヴをコピーしつつ自作曲を持ち寄るうち、“眠気を誘う低音と、突然牙をむく轟音”というコントラストがバンドの核心になった。
2020 年、シングル「Blue」が地元ラジオのヘビーローテーションに採用され、BBC Radio 1 でも紹介。
翌 2021 年、セルフプロデュースの EP『Waves』を発表し、UK インディチャート 15 位を記録。
2022 年のセカンド EP『Banshee』ではマイ・ブラッディ・ヴァレンタイン直系のレイヤーと、ビリー・アイリッシュ世代らしい控えめなヴォーカルが溶け合い、国境を越えた評価を獲得。
初アルバム『Madra』(アイルランド語で「犬」)では、ポストパンデミックの疎外感と連帯感をテーマに掲げ、ヨーロッパ 28 公演のヘッドライン・ツアーを成功させた。
音楽スタイルと影響
NewDad の楽曲は、120 BPM 前後のスロウグルーヴ上でディストーションとコーラスが幾層にも重なり、ジュリーの囁き声が雲間の月光のように差し込む。
コードは耳なじみのよいメジャー/マイナーを行き来するが、サビ後にサブドミナントマイナーを滑り込ませることで、甘く切ない倒錯感を生む。
影響源として彼らが度々挙げるのは、The Cure の湿度、Pixies のダイナミクス、ミツキや Soccer Mommy の等身大リリック。
それらを 2020 年代の bedroom pop 的ドライさでフィルタリングし、“夢見る轟音(Dream Grunge)”とでも呼ぶべき質感へ昇華している。
代表曲の解説
“Blue”
シンプルな4コードを淡々と刻むリズムギターと、遠景で揺れるサステインが海を思わせる。
歌詞は「底の見えない青」をメタファーに、不安と安堵が同居する心象風景を描写。
ブレイク後、一気にゲインを上げるギターリフは“さざ波が嵐へ転じる瞬間”を可視化する。
“I Don’t Recognise You”
EP『Waves』収録。
親密なささやき声で過去形の愛を回想しながら、バックではフランジャーが波打つ。
終盤、ドラムが倍速へ移行しカオティックに崩壊する構成は、思い出が自己崩壊を促すプロセスを示唆する。
“Say It”
EP『Banshee』のリード曲。
ヴァースはモノトーンのギターループが支配するが、サビ頭でドロップするフィードバックが一瞬で空気を染め替える。
言葉にできない感情を「言ってしまえ」と背中を押す、切実で静かな叫び。
“Break In”
アルバム『Madra』より。
リバーブ深めのスネアが脈打ち、ミドルテンポのままテンションを持続させる。
コーラス部でさりげなくアイリッシュ民謡風スケールが顔を出し、故郷の景色を忍ばせる巧みなアレンジが光る。
アルバム・EP ごとの進化
『Waves』 (2021)
宅録のラフさを残しつつ、リバーブとコーラスでドリーミーな海面を表現。
“揺らぎ”を主題に据え、曲間も波打つようにフェードイン/アウトさせている。
『Banshee』 (2022)
プロデューサー Chris Ryan(NewDad と同世代の北アイルランドのエンジニア)を迎え、低域と空間の使い方が劇的に洗練。
バンシー=妖精の悲鳴にちなみ、幽玄さと不気味さを両立させたサウンドが特徴。
『Madra』 (2024)
クリーンとノイズの境界を意図的にぼかし、ドラムはドライ、ギターはウェットという逆説的ミックス。
アルバム全体が「迷子の犬が家を探す一夜」という物語になっており、楽曲のトーナルセンターが少しずつ上がっていく設計は“夜明けへの歩み”を示す。
影響を受けたアーティストと音楽
これらが粒子状に混ざり、NewDad 独自のパステルグレーが生まれる。
影響を与えたアーティストと音楽
Bandcamp や TikTok で台頭する Z 世代のシューゲイズ/ポストパンク勢が、NewDad のミドルテンポと囁き系ヴォーカルを参照し始めた。
特に US の Blvck Hippies、スペインの Shego などが“ドリーム・グランジ”を標榜し、同じ空気感を共有している。
また『Madra』の物語的構成は、DIY アルバムにストーリーラインを持たせる潮流を加速させた。
オリジナル要素
- ガルウェイ訛りと英語歌詞の融合
ジュリーは発声の一部にアイルランド語独特のリズムを残し、英語詞に微かな訛りとリリカルな抑揚を与えている。 -
ドローン・サブベースの導入
ライブではベースアンプにシンセサブを並走させ、爆音にも関わらず“夢見心地”を損なわない立体感を実現。 -
“迷子のイメージボード”
各楽曲のインスピレーションとなった Polaroid 写真と詩を公式サイトで公開し、ファンが自作ミュージックビデオを制作できるようライセンスを緩和。
これにより楽曲が二次創作コミュニティで拡散し、新たな聴取体験を生んでいる。
まとめ
NewDad の音は、湿った路地裏の街灯と深夜ラジオのノイズが混ざり合う“霧のサウンドトラック”である。
轟音の向こうにある柔らかなまなざしは、孤独な夜を歩く私たちの背中をそっと照らす。
もし心のどこかで雨の匂いと海鳴りを恋しく思うなら、彼らの音楽に身を浸してほしい。
夜明けの気配が遠くでゆらめく頃、NewDad のギターはきっと、あなたの足元へ淡い光を落としているだろう。
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