
発売日:2019年1月25日 ジャンル:シューゲイザー/オルタナティブ・ロック/ドリーム・ポップ/サイケデリック・ロック
概要
Swervedriverの『Future Ruins』は、1990年代初頭の英国シューゲイザー・シーンから登場したバンドが、再結成後の活動を経て、自らの過去を単に再現するのではなく、「時間」「記憶」「都市」「未来の荒廃」といった主題を成熟したギター・ロックへ落とし込んだ作品である。
SwervedriverはOxfordで結成され、Ride、Slowdive、Chapterhouseなどと同時代に登場した。しかし彼らは、典型的なシューゲイザー像とは少し異なる。
My Bloody Valentineのようにギターを巨大な音響の壁へ変換する一方で、Swervedriverにはアメリカン・ロック、サイケデリア、ハードロック、さらには「道路を走る感覚」と結びついたドライヴ感が強かった。
Adam FranklinとJimmy Hartridgeのギターは、空間を埋め尽くすだけではない。
前へ進む。
速度を作る。
地平線を感じさせる。
初期代表作『Raise』や『Mezcal Head』では、その性格が明確だった。
「Son of Mustang Ford」「Duel」「Last Train to Satansville」などには、シューゲイザーの霞んだ音響と、アメリカ西部の道路映画を思わせる移動感が共存している。
そのためSwervedriverは、「下を向いてペダルを踏む」というシューゲイザーのステレオタイプに収まりきらない存在だった。
長い活動休止を経て再始動し、2015年には『I Wasn’t Born to Lose You』を発表。『Future Ruins』はその後に制作された復帰後2作目にあたる。
この時点で重要なのは、彼らが1991年や1993年のサウンドをそのまま再現していないことである。
ギターの歪み。
浮遊するヴォーカル。
反復するリズム。
これらは確かに残っている。
しかし『Future Ruins』では、若い頃の高速道路的なロマンティシズムよりも、時間の経過と社会の変化を見つめる感覚が強い。
タイトルの『Future Ruins』――「未来の廃墟」――は、その作品世界を極めてよく表している。
通常、廃墟とは過去の残骸である。
古い建物。
使われなくなった工場。
崩れた都市。
しかし「未来の廃墟」という言葉は、現在建っているものも、いずれ廃墟になることを示す。
つまり現在の風景を見ながら、その未来の破壊まで同時に想像する。
この時間感覚が本作の中心にある。
人間。
都市。
技術。
政治。
音楽。
どれも永続しない。
今日「新しい」と呼ばれているものも、いつか古くなる。
Swervedriver自身もその事実を知っている。
彼らは1990年代に「新しいギター・サウンド」を鳴らしたバンドだった。
しかし2019年には、シューゲイザーそのものが歴史的ジャンルとなり、新世代のバンドがその音を引用する時代になっていた。
その状況で『Future Ruins』は、過去の栄光に戻るのではなく、「自分たち自身も歴史の一部である」という認識を持った作品になっている。
だから本作のサウンドには、懐かしさと未来感が同時にある。
古いファズ。
深いリヴァーブ。
反復するギター。
しかし、その中で歌われるのは単なる90年代へのノスタルジーではない。
むしろ、「未来もいつか過去になる」という冷静な時間感覚である。
全曲レビュー
1. Mary Winter
アルバムは「Mary Winter」で始まる。
タイトルにある“Winter”という言葉が象徴するように、楽曲には冷たい空気がある。
冬。
静けさ。
距離。
時間の停止。
こうした感覚が、Swervedriver特有の分厚いギターのなかに広がる。
しかし曲は完全に静止しているわけではない。
リズムは前へ進む。
ギターも幾重にも重なりながら、視界を覆う霧のように動く。
ここにSwervedriverらしさがある。
空間的なのに移動感がある。
浮遊しているのに速度がある。
Adam Franklinのヴォーカルは前面へ出すぎず、ギターの層のなかへ溶け込む。
歌詞も明確な物語を説明するより、人物と記憶の断片を提示する。
そのためMaryという存在は、具体的な人物であると同時に、過去の記憶そのもののようにも感じられる。
本作全体の「時間と記憶」という主題を導入する一曲である。
2. The Lonely Crowd Fades in the Air
「The Lonely Crowd Fades in the Air」は、本作のなかでも特にタイトルが印象的な楽曲である。
「孤独な群衆が空気のなかへ消えていく」。
群衆は本来、多くの人間が集まった状態である。
しかしその群衆が「孤独」と表現される。
ここには現代都市の矛盾がある。
人は多い。
接触も多い。
しかし孤独は消えない。
さらに、その群衆が最後には「空気へ消える」。
つまり個々の存在は一時的であり、都市の記憶からもやがて消失する。
このイメージは『Future Ruins』というアルバム・タイトルと深く結びつく。
現在の群衆。
現在の都市。
現在の風景。
それらも時間が経てば消える。
サウンドはシューゲイザーらしい密度を持ちながら、歌詞の孤独感を強調するように広がる。
ギターは巨大だが、温かい共同体を作るのではなく、むしろ人間同士の距離を強調する。
「大きな音のなかに孤独がある」というSwervedriverの美学がよく表れた曲である。
3. Future Ruins
タイトル曲「Future Ruins」は、アルバム全体の思想を集約する楽曲である。
「未来の廃墟」という言葉は、一見矛盾している。
廃墟は過去に属する。
未来はまだ存在しない。
しかし現在建てられているものを見ながら、「これはいずれ廃墟になる」と考えれば、その二つは同時に存在する。
この視点は、都市だけでなく文明そのものへ拡張できる。
高層ビル。
高速道路。
通信技術。
政治制度。
国家。
文化。
それらは永遠ではない。
人類は未来を「進歩」として想像しやすい。
しかし未来には崩壊も含まれる。
Swervedriverはその不安を、終末的なヘヴィメタルではなく、広がりのあるサイケデリック/シューゲイザー・サウンドで描く。
そのため恐怖よりも、時間の巨大さを感じさせる。
人間の一生より長い時間。
都市ができて消えるまでの時間。
そのスケールを、ギターの反復と残響によって音楽化する。
タイトル曲として、本作の最も重要な一曲である。
4. Theeascending
「Theeascending」は、“the ascending”を変形したようなタイトルを持つ。
上昇。
昇っていくこと。
しかしSwervedriverの音楽における上昇は、単純な希望ではない。
音が高くなる。
ギターが広がる。
しかし、その先に明確な到達点があるわけではない。
むしろ上昇そのものが永遠に続くような感覚がある。
これはシューゲイザーというジャンルの特徴とも結びつく。
通常のロックでは、曲はクライマックスへ向かう。
一方シューゲイザーでは、音の密度そのものが増えていき、明確な解決なしにその状態へ没入することがある。
「Theeascending」は、その感覚をタイトルそのものへしたような曲である。
ギターは層を増しながら上昇感を作る。
しかし、完全な勝利や解放には到達しない。
『Future Ruins』における未来も同じである。
未来へ進む。
しかし進歩するとは限らない。
上昇と不安が同時に存在する。
5. Drone Lover
「Drone Lover」は、本作のなかでも特に現代的なタイトルを持つ。
“drone”には複数の意味がある。
持続音。
無人航空機。
機械的な反復。
そしてシューゲイザー/実験音楽における持続的な音響。
この多義性がSwervedriverの音楽に非常によく合う。
彼らのギターはしばしばドローン的である。
一つの音が長く残り、別のギターやノイズと重なる。
しかし2010年代以降、“drone”は監視技術や軍事技術とも強く結びつく言葉になった。
そのため「Drone Lover」というタイトルには、音楽的な意味とテクノロジー社会への不穏な感覚が同居する。
人間が機械を愛する。
あるいは機械的な世界のなかで愛を求める。
そのどちらにも読める。
サウンドも電子的な無機質さと、ギターの有機的な揺らぎが共存しており、本作の「過去の楽器で未来を描く」という特徴を象徴している。
6. Spiked Flower
「Spiked Flower」は、「棘のある花」というイメージを持つ。
美しい。
しかし触れると傷つく。
この二重性はSwervedriverの音そのものに近い。
メロディーは美しい。
ギターは広がる。
しかし歪みは鋭く、ノイズは耳へ刺さる。
つまり美しさと攻撃性が同時に存在する。
シューゲイザーはしばしば「夢のような音楽」と説明される。
しかしSwervedriverの場合、その夢には必ず硬さがある。
Rideの疾走感。
Hüsker DüやDinosaur Jr.に通じるギターの粗さ。
アメリカン・オルタナティブ・ロック的な重量。
それらが、典型的なドリーム・ポップより強い輪郭を作る。
「Spiked Flower」というタイトルは、その性格を非常に正確に表している。
花だけではない。
棘だけでもない。
両方が必要である。
7. Everybody’s Going Somewhere & No-One’s Going Anywhere
「Everybody’s Going Somewhere & No-One’s Going Anywhere」は、本作でも最も哲学的かつ皮肉なタイトルを持つ楽曲である。
「みんな何処かへ向かっているのに、誰もどこにも行っていない」。
これは現代社会そのものを表現した言葉として読める。
人は常に忙しい。
移動する。
仕事をする。
目標を持つ。
予定を立てる。
情報を追う。
しかし、その活動全体が本当にどこかへ向かっているのかは分からない。
テクノロジーは進歩する。
都市は拡大する。
交通は速くなる。
それでも人間の孤独や不安が減るとは限らない。
この矛盾が曲の中心にある。
Swervedriverはもともと「移動」のイメージを強く持つバンドだった。
車。
道路。
列車。
高速道路。
しかし初期作品では、移動そのものにロマンがあった。
『Future Ruins』では、その移動が疑われる。
どれだけ走っても、本当に前進しているのか。
これはバンド自身のキャリアにも重なる。
長く活動する。
アルバムを作る。
ツアーをする。
しかし「進歩」とは何か。
この問いが、長いタイトルに凝縮されている。
8. Golden Remedy
「Golden Remedy」は、「黄金の治療薬」「理想的な救済策」といった意味を持つ。
人間は問題に対して「これさえあれば解決する」というものを求める。
技術。
金。
恋愛。
薬。
政治。
宗教。
成功。
しかし本作全体の世界観を考えると、本当に万能な“remedy”が存在するとは考えにくい。
むしろ「黄金の解決策」を求める人間の欲望そのものが問題になる。
未来の技術がすべてを解決すると信じる。
新しい都市が過去の問題を消すと考える。
しかし、その新しいものもいつか廃墟になる。
「Golden Remedy」は、そうした救済への欲望を美しいメロディーのなかに置く。
音楽的には本作のなかでも比較的柔らかく、広がりのあるギターが「救い」の感覚を作る。
しかし完全な安心にはならない。
Swervedriverらしく、明るさのなかにも影が残る。
9. Good Times Are So Hard to Follow
「Good Times Are So Hard to Follow」は、時間と記憶を扱う本作のなかでも特に直接的なタイトルである。
「良い時代の後を続けるのは難しい」。
これは個人の人生にも、バンドのキャリアにも当てはまる。
成功した時期。
若かった時期。
楽しかった関係。
ある場所。
ある音楽シーン。
その「良かった時間」の後には、必ず比較が生まれる。
現在は過去ほど良くないのではないか。
昔の方がよかったのではないか。
Swervedriverのように1990年代に高く評価されたバンドにとって、この問題は特に切実である。
再結成したバンドは常に過去と比較される。
新作を出せば「昔の方が良かった」と言われる可能性がある。
しかしこの曲は、その比較そのものの難しさを認めているように聞こえる。
良い時代を否定しない。
しかしそこへ戻ることもできない。
だから現在を生きるしかない。
『Future Ruins』が単なるノスタルジー作品ではないことを示す重要な一曲である。
10. Radio-Silent
アルバムを締めくくる「Radio-Silent」は、通信の途絶を意味する言葉である。
“radio silence”は、無線通信を停止する状態。
誰も応答しない。
信号がない。
声が届かない。
これをアルバム最後に置くことには大きな意味がある。
『Future Ruins』では都市、未来、群衆、技術、移動が繰り返し描かれる。
それらはすべて「接続」を前提とする。
都市は人をつなぐ。
道路は場所をつなぐ。
無線は声をつなぐ。
技術は情報をつなぐ。
しかし最後には沈黙が来る。
誰も応答しない。
これは未来の終末を想起させると同時に、非常に個人的な孤独としても読める。
音楽もアルバムの終幕として広がりを持ちながら、最終的には残響のなかへ消えていく。
つまり『Future Ruins』は、巨大な破壊音で終わるのではない。
通信が途絶えるように終わる。
この静かな終末感が、本作のタイトルと非常によく合っている。
総評
『Future Ruins』は、Swervedriverのキャリアにおいて「再結成後の新作」という枠を超えた作品である。
多くの1990年代バンドが再結成すると、聴き手はまず過去との比較を行う。
昔と同じ音か。
代表作ほど良いか。
若い頃のエネルギーが残っているか。
しかし『Future Ruins』は、その比較自体を作品のテーマへ取り込んでいる。
過去は戻らない。
未来も永遠ではない。
現在も、やがて廃墟になる。
この時間感覚を持つことで、Swervedriverは「90年代の自分たち」を再現する必要から解放された。
もちろん音楽的なDNAは変わっていない。
分厚いギター。
深いリヴァーブ。
反復。
Adam Franklinの淡いヴォーカル。
サイケデリックな空間。
しかしそれらの意味が変わっている。
初期Swervedriverでは、ギターは速度のために使われた。
高速道路。
車。
夜。
移動。
地平線。
若さ。
『Future Ruins』では、同じギターが時間を表現する。
残響。
記憶。
過去の層。
都市の崩壊。
未来への不安。
つまりサウンドそのものは似ていても、その視線が変化している。
これが成熟したバンドの新作として非常に重要な点である。
シューゲイザーというジャンルの歴史から見ても、本作は興味深い。
1990年代初頭、シューゲイザーは英国音楽メディアから一時的な流行として扱われ、その後ブリットポップの台頭によって急速に中心から外れた。
しかし2000年代後半以降、状況は大きく変わる。
My Bloody Valentine。
Slowdive。
Ride。
Swervedriver。
こうしたバンドが再評価され、若い世代のインディー・ロック、ドリーム・ポップ、ブラックゲイズ、ポストメタルなどへ大きな影響を与えるようになった。
つまりSwervedriverが復帰した時代には、彼らの音楽は「古い流行」ではなく、再び現代的なものとして聴かれるようになっていた。
『Future Ruins』はその状況を利用しながら、単純な自己模倣を避けている。
特に重要なのは、Swervedriverが「シューゲイザー=夢見心地」という公式だけに従わないことである。
彼らのギターには硬さがある。
リズムにも前進感がある。
アメリカン・オルタナティブ・ロックやハードロックの影響も強い。
そのため本作は、Slowdiveのような夢幻性とは異なる。
より都市的。
より機械的。
より道路的。
そして時に政治的でもある。
タイトル曲「Future Ruins」や「Everybody’s Going Somewhere & No-One’s Going Anywhere」には、社会の進歩そのものへの疑いがある。
現代社会は「前へ進むこと」を基本的な価値としている。
経済成長。
技術革新。
都市開発。
効率化。
高速化。
しかし、前進することは本当に改善を意味するのか。
この問いは2019年という時代にも非常に適していた。
スマートフォン。
SNS。
AI。
監視技術。
ドローン。
高速通信。
世界は以前より接続された。
しかし孤独は消えていない。
政治的分断も消えていない。
環境問題も解決していない。
「Everybody’s Going Somewhere & No-One’s Going Anywhere」という言葉は、この現代社会の矛盾を非常に鋭く捉えている。
Swervedriverが興味深いのは、そのテーマを電子音楽ではなくギターで表現することだ。
未来を描くために未来的な楽器を使う必要はない。
古いギター。
ファズ。
ディレイ。
リヴァーブ。
それらを使って、未来の不安を描く。
この逆説が『Future Ruins』の個性となっている。
タイトル「Future Ruins」自体も、現代の都市感覚を象徴している。
新しい建築を見る。
その瞬間に、それが廃墟になった姿を想像する。
新品のスマートフォンを見る。
数年後には電子ゴミになっている。
最新の都市開発を見る。
数十年後には古いインフラになる。
つまり現代社会では、「新しいもの」が生まれる速度が速いほど、「古いもの」になる速度も速い。
Swervedriverはその時間の圧縮を、ギターの残響によって表現している。
残響とは、鳴った音が消えるまでの時間である。
過去の音が現在に残る。
シューゲイザーにおけるリヴァーブやディレイは、単なる美しいエフェクトではない。
時間そのものを音として可視化する装置でもある。
『Future Ruins』では、この効果が非常に大きな意味を持つ。
ギターを鳴らす。
その音が残る。
次の音が重なる。
さらに次の音が重なる。
過去の音と現在の音が同時に存在する。
これはアルバムのテーマそのものだ。
過去。
現在。
未来。
それらが明確に分かれていない。
現在の都市には過去の建物が残る。
現在の音楽には過去のジャンルが残る。
未来の廃墟も、すでに現在のなかに存在している。
Swervedriver自身も同じである。
彼らの2019年の音には1991年の自分たちが残っている。
しかし完全に同じではない。
そこへ現在の経験が重なる。
この時間の重層性こそ、本作の最大のテーマである。
Adam Franklinのヴォーカルも、この作品では非常に効果的である。
彼は感情を大きく誇張しない。
叫ぶことより、ギターのなかへ声を溶かす。
そのため歌詞が「宣言」ではなく「思考」のように聞こえる。
未来はこうなる、と断定するのではない。
もしかするとこうなるかもしれない。
自分たちが今見ている景色も、いつか消えるかもしれない。
その慎重な視線が、楽曲に説教臭さを与えない。
Jimmy Hartridgeを含むギター・アンサンブルも、本作の大きな魅力である。
Swervedriverのギターは、単なる巨大な歪みではない。
複数のレイヤーが異なる方向へ動く。
一方はリフ。
一方は持続音。
別の音は高い位置で揺れる。
その結果、ギターが「壁」というより「風景」になる。
これはMy Bloody Valentineの音響とは似ているようで異なる。
My Bloody Valentineでは音が物理的な塊になる。
Swervedriverでは音が空間を作る。
道路。
空。
都市。
地平線。
『Future Ruins』では、その空間がさらに荒涼としている。
かつての道路には目的地があった。
本作では、走った先に廃墟が待っているかもしれない。
この変化が非常に興味深い。
また、アルバムには「孤独」というテーマも強い。
「The Lonely Crowd Fades in the Air」。
「Radio-Silent」。
これらのタイトルは、接続が失敗した状態を示す。
群衆のなかで孤独。
通信が途絶える。
現代社会は接続を増やした。
しかし、接続の多さと親密さは同じではない。
これは2010年代以降の多くのアーティストが扱ってきたテーマだが、Swervedriverはそれを若者のSNS不安としてではなく、より長い時間感覚のなかで捉える。
文明は接続を増やす。
しかし最終的には沈黙する可能性がある。
このスケールの大きさが、本作を単なる個人的な内省作から広げている。
「Good Times Are So Hard to Follow」も重要である。
再結成バンドにとって「良い時代の後をどう生きるか」は避けられない問題である。
しかしSwervedriverは、過去を否定することも、崇拝することもしない。
良かった時代は良かった。
それでも時間は続く。
この姿勢が非常に健全である。
『Future Ruins』は「昔の方が良かった」というノスタルジーに沈まない。
むしろ、過去を知っているからこそ未来の不確実さが見える。
この視点がベテラン・バンドとしての強みになっている。
後世への影響という点では、Swervedriverはシューゲイザー再評価において重要な位置を占める。
DIIV。
Nothing。
Whirr。
Title Fight後期。
Deafheavenの一部作品。
さらにはシューゲイザーとグランジ、ドリーム・ポップ、メタルを混ぜる多くの2010年代バンドに、Swervedriverの「美しさと重量」「浮遊感と速度」の組み合わせを見ることができる。
特に、夢幻性だけでなくドライヴ感を持つシューゲイザーという点で、彼らの影響は独自である。
『Future Ruins』は、その影響元であるバンド自身が、新世代の音楽環境のなかで再び自分たちのスタイルを更新した作品として興味深い。
本作は、『Mezcal Head』のような若さと爆発力を求めるリスナーにとっては、やや落ち着いて聞こえるかもしれない。
しかしそれは弱さではない。
むしろ時間を経験したバンドだからこそ作れる作品である。
速度より持続。
衝動より観察。
青春より記憶。
道路の先への期待より、その道路がいつか崩れるという認識。
その変化が『Future Ruins』を成熟した作品にしている。
アルバム最後の「Radio-Silent」で通信が途絶えるように、作品は明確な答えを提示しない。
未来はどうなるのか。
都市は残るのか。
音楽は残るのか。
人間は本当にどこかへ進んでいるのか。
答えはない。
ただ、現在の音が残響として未来へ伸びていく。
『Future Ruins』は、その残響を記録したアルバムである。
過去のシューゲイザーを再現するのではなく、シューゲイザーという音響そのものを「時間を考えるための音楽」へ変換した点で、Swervedriverの後期キャリアを代表する重要作と位置づけられる。
おすすめアルバム
1. Swervedriver – Mezcal Head(1993)
Swervedriverの代表作。「Duel」「Last Train to Satansville」などを収録し、シューゲイザーの音響、オルタナティブ・ロックの重量、道路を走るような推進力が最も強く融合している。『Future Ruins』と比較すると、若い頃の速度感が後年どのように時間や記憶の表現へ変化したかが明確になる。
2. Swervedriver – I Wasn’t Born to Lose You(2015)
長い活動休止を経て発表された復帰作。初期のギター・サウンドを維持しながら、より成熟したメロディーとサイケデリックな空間を展開している。『Future Ruins』へ直接つながる作品として、再始動後のSwervedriverを理解するうえで欠かせない。
3. Ride – Going Blank Again(1992)
同じOxford周辺から登場したRideの代表作。シューゲイザーの轟音とポップなメロディー、疾走するドラムを融合している。Swervedriverとはより英国的なポップ感覚が強いが、「浮遊感と速度を同時に成立させる」という点で重要な比較対象である。
4. DIIV – Deceiver(2019)
『Future Ruins』と同じ2019年に発表された現代シューゲイザー/オルタナティブ・ロック作品。分厚いギター、内省的な歌詞、90年代オルタナティブへの接続を持ち、Swervedriverを含む先行世代の影響が2010年代末にどのように更新されたかを確認できる。
5. Nothing – Tired of Tomorrow(2016)
シューゲイザーの夢幻性とオルタナティブ・ロックの重量感を融合した作品。Swervedriverと同様、単に美しい残響を作るだけでなく、ギターに物理的な重さを持たせている。『Future Ruins』の荒涼とした都市感覚や、ノスタルジーと疲労が共存する世界観とも親和性が高い。

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