
発売日:1988年
ジャンル:ハードコア・パンク、ガレージ・ロック、ノイズ・ロック、グランジ、ヘヴィ・ロック
概要
L7のセルフタイトル作『L7』は、のちに彼女たちが1990年代初頭のオルタナティヴ・ロック/グランジ文脈で広く知られるようになる以前、その核心にある美学がむき出しの状態で記録されたデビュー作である。一般的にL7は、『Smell the Magic』(1990年)、『Bricks Are Heavy』(1992年)、そして“Pretend We’re Dead”の成功によって、グランジ/オルタナティヴ・ロック時代を代表する女性バンドの一つとして認識されることが多い。しかし、この1988年の『L7』を聴くと、彼女たちの本質が決してシアトル的グランジの潮流に後から乗ったものではなく、ロサンゼルスの地下ロック、ハードコア・パンク、ガレージ・ロック、ノイズ・ロック、そして極めてフィジカルなロックンロールの衝動から自然に生まれたものだったことがよく分かる。
L7はドニータ・スパークス、スージー・ガードナーを中心に結成され、男性中心のハードコア/パンクやヘヴィ・ロックの文脈に、真正面から割って入っていったバンドだった。だが彼女たちを単に“女性だけのハードなロック・バンド”として語るのは明らかに不足している。L7の重要性は、ジェンダー的な表象の刷新に加えて、サウンドそのものが極めて強靭で、雑味を失わず、かつ異様なフックを持っていた点にある。彼女たちは説教的な理念を音楽の前面に押し出すより、まず音で殴り込みをかけるタイプのバンドだった。その音の荒々しさとユーモア、投げやりさと構築性の混在こそが、L7を特別な存在にしている。
『L7』は、後年の作品ほど曲の輪郭がはっきりしているわけではないし、プロダクションもかなりラフである。だが、そのラフさこそが本作の価値だ。ここで鳴っているのは、洗練される前のL7の衝動であり、制御しきらないことそのものが力になっているロックである。ハードコアの速度と切迫感、ガレージ・ロックの雑な快楽、ノイズ・ロックのささくれ、そしてどこかフックのあるリフ感覚。それらがまだ未整理なままぶつかり合っている。その未整理さは、完成度の不足というより、“今この瞬間に鳴っているバンド”の記録として作用している。
1988年という時代も重要だ。アメリカの地下ロックはすでにハードコアの初期衝動を一通り経て、その先でポスト・ハードコア、ノイズ・ロック、ヘヴィなオルタナティヴ・ロックへと枝分かれし始めていた。ビッグ・ブラック、Sonic Youth、Dinosaur Jr.、Butthole Surfers、Mudhoney以前/周辺のローカルな歪んだ重さが各地で育ちつつあり、L7はそうした流れの中で西海岸から出てきた。しかし彼女たちのサウンドは、単なるノイズ・ロックでも、ハードコアの延長でもない。もっとロックンロール的で、もっと肉体的で、もっと挑発的だ。のちのグランジ・ブームによってL7はシアトル勢と並列で語られがちになるが、本作の時点ではむしろ、アメリカン・アンダーグラウンドの雑多な力が、そのまま一本のバンドに集約されているように聞こえる。
タイトルがセルフタイトルであることも象徴的だ。これはコンセプトや物語を掲げる作品ではなく、まず“L7というバンドが何者か”を音だけで叩きつけるアルバムである。彼女たちの歌詞は、後年ほど言葉の切れ味が際立っているわけではないが、それでもすでに、性、権力、苛立ち、身体、反発心、退屈、自己破壊的なユーモアといったテーマが露出している。そしてそれらは決して内省的な告白としてではなく、バンドの音圧と一体になって外へ投げつけられる。そのため『L7』は、歌詞を精読するアルバムというより、言葉も音もまとめて浴びるべき作品だといえる。
また、この作品には、後年のL7に通じる“深刻になりすぎない強さ”がすでにある。彼女たちの音楽は怒っているし、攻撃的でもある。だが、その怒りは重苦しい正義感だけでできているわけではない。そこには常に下品さ、笑い、悪ふざけ、逆に言えば深刻さを茶化すことによって生き延びる感覚がある。このユーモアの混ざり方が、L7を単なるヘヴィな反抗バンドではなく、もっとねじれた、そして現実的な存在にしている。『L7』ではそのバランスがまだ荒いぶん、かえって本能的なかたちで表れているのが面白い。
キャリアの中で見ると、このアルバムは最大傑作とは別の意味で決定的だ。『Bricks Are Heavy』のような完成度や、『Smell the Magic』のような即効性を求めるなら、より後年の作品の方が薦めやすいだろう。だが、L7というバンドの根にある凶暴さ、ガレージ感覚、ノイズ、パンク、そして妙なポップ・センスがどういうバランスで成り立っていたのかを知るには、このデビュー作が欠かせない。ここには、ジャンルの分類以前の“バンドの獣性”がある。だから『L7』は、歴史的な通過点ではなく、L7の原液として聴かれるべき作品なのである。
全曲レビュー
1. Wargasm
アルバムの幕開けを飾るこの曲は、L7の初期衝動をほとんどそのまま提示するオープナーである。タイトルの時点で、戦争と性的な語感を乱暴に接合したような、L7らしい下品さと攻撃性が全開だ。サウンドも非常に荒く、ギターは重いが整えられておらず、ドラムも前のめりで、曲全体に制御しきらないエネルギーが渦巻いている。重要なのは、この曲が単なるノイジーな突撃ではなく、ちゃんと耳に残るリフ感覚を持っている点だろう。L7は最初から、ノイズとフックを同時に鳴らせるバンドだった。この曲はその事実を非常に分かりやすく示している。挑発的で、乱暴で、それでいて妙にキャッチーな、理想的な幕開けだ。
2. Scrap
「Scrap」は、タイトルどおり廃材や残骸のような感触を持つ曲であり、L7のサウンドのガレージ感がよく出ている。ギターの鳴りは金属的にザラつき、きれいなハードロック的厚みではなく、むしろ削れた鉄板のような粗さを持っている。曲構造はシンプルだが、その単純さがむしろ圧として作用しており、ハードコア由来の切迫感とロックンロール的な反復の快楽がうまく交差している。ドニータ・スパークスのヴォーカルも、この時点ではまだ後年ほどコントロールされていないが、その荒れ方が曲の性格にぴったり合っている。アルバムの中でもかなり“L7の地肌”が見える一曲である。
3. Pretend That We’re Dead
このタイトルは後年の代表曲“Pretend We’re Dead”を連想させるが、本作における響きはもちろん異なる文脈の中にある。ここでは、死や無関心をアイロニカルなポーズに変えるような、L7の初期的なニヒリズムが感じられる。サウンドはまだ完成されたグランジ・アンセムの方向には向かっておらず、もっと尖っていて、ハードコアとノイズの境目に立っている。だが、すでに“破滅をフックに変える”L7の感覚は十分に見える。重いのにどこか笑っているような、投げやりなのにやけに耳に残る、その矛盾がこのバンドの魅力であり、この曲はそれをよく示している。
4. Shove
L7の代表曲として後年まで生き残ることになるこの曲の初期版は、バンドの進化を知るうえでも極めて重要だ。後年の再録版と比べると、ここでの「Shove」は明らかに粗く、速く、まだ形が定まりきっていない。しかし、その未完成さこそが強烈である。タイトルどおり、誰かを押しのける、押し返す、あるいは世界に対して肩でぶつかるような感覚がそのまま音になっている。L7の魅力は、こうした非常に単純な衝動を、決して凡庸なパンクにはしないところにある。リフの粘り、声の棘、バンド全体のぶつかり合い。それらが混ざり合って、むき出しの力を持った一曲になっている。
5. Fast and Frightening
これもまたL7初期を語るうえで欠かせない重要曲であり、のちに彼女たちの代表曲の一つとして位置づけられることになる。タイトルの“速くて恐ろしい”というフレーズは、L7自身のバンド像をそのまま示しているようでもある。曲は疾走感があり、ギターは噛みつくように鳴り、リズム隊は一直線に突っ込んでいく。だが、単なるスピード勝負ではなく、リフの刻みやコーラス的な要素がしっかり効いていて、ちゃんと“曲”として残る。L7はしばしばラフで荒いバンドと思われるが、この曲を聴くと、彼女たちが実は非常に優れたロック・ソングの書き手でもあったことが分かる。初期の荒々しさが最も魅力的な形で結実した曲の一つだ。
6. Packin’ a Rod
タイトルからして露骨で挑発的なこの曲には、L7のユーモアと攻撃性が濃厚に出ている。“rod”が武器なのか、性のメタファーなのか、その両方なのか、こうした曖昧で下品な言葉遊びはL7の真骨頂の一つだ。サウンドもかなり直線的で、ハードコア寄りの押しの強さがある一方、曲全体には妙な遊びの感覚も残っている。彼女たちは怒っているが、その怒りを常に“笑い飛ばせるもの”としても扱っている。この曲はその姿勢がよく出ていて、単なる抗議や威嚇ではなく、もっとロックンロール的な不良性として機能している。
7. Baggage
アルバム中盤において、少しだけ空気を変える役割を果たしている曲。タイトルの“荷物”“しがらみ”というイメージどおり、ここでは外向きの攻撃性だけでなく、引きずっているもの、背負っているものの感覚が前に出る。もっとも、L7は感情を内省的に掘り下げるタイプのバンドではない。だからこの曲も、しがらみをしみじみ歌うのではなく、それを抱えたまま前へ進もうとしているように聞こえる。サウンドには相変わらずガレージ的な粗さがあり、それが曲に余計な感傷を持ち込ませない。L7の感情表現の“雑さの中のリアルさ”が感じられるトラックである。
8. Concrete
「Concrete」というタイトルは、L7の音楽の物質感をよく表している。コンクリートのように重く、冷たく、無機質で、しかし都市の地面として否応なく身体に接触してくるもの。その質感が、この曲のサウンドにもそのまま宿っている。ギターは硬く、ドラムは乾いていて、空間には余裕がない。L7はしばしばグランジと括られるが、本作のこうした曲を聴くと、むしろノイズ・ロックやポスト・ハードコアに近い都市的な硬さを持っていたことが分かる。非常に無愛想で、だからこそ強い曲だ。
9. American Society
Eddie and the Subtitlesのカヴァーとして知られるこの曲は、L7のルーツ感覚と政治性が露骨に交差する重要トラックである。原曲の持つパンク的な皮肉と反権威性は、L7の手にかかることでさらに荒々しく、そして身体的な不快感を伴ったものになる。彼女たちは理論武装した政治バンドではないが、社会や権力、アメリカ的な価値観に対する反発を、自分たちのやり方で極めて自然に表現している。この曲ではその姿勢がはっきりと見える。カヴァーでありながらまったく借り物に聴こえず、L7のバンド像そのものに組み込まれているところが見事だ。
10. Love Bites
アルバム終盤に置かれたこの曲は、タイトルが示すように、愛や欲望をロマンティックなものではなく、噛みつくような痛みや不快さを伴うものとして扱っている。L7における性や恋愛のテーマは、通常のロックにありがちな男性的幻想の再生産とは明らかに違う。この曲でも、感情は柔らかく歌われず、むしろ刺々しいものとして差し出される。サウンドの荒さも相まって、ラヴソングというより“感情そのものが鬱陶しい”という態度の歌に聞こえる。そこにL7の独特のリアリズムがある。
11. Ms. 45
タイトルからして映画的かつ攻撃的なニュアンスを帯びたこの曲は、アルバム終盤の中でも特に危険な匂いを放っている。“45”の数字が銃を連想させることも含め、女性像と暴力、権力、視線の問題が皮肉な形で混ざっているように感じられる。L7はしばしば、女性であることをロックの場でどう引き受けるかを、明示的なスローガンではなく、こうしたねじれたイメージで示してきた。この曲もまた、単なる強さの誇示ではなく、暴力の記号をどう奪い返すかという感覚を持っている。サウンドもタフで、最後までアルバムの緊張感を緩めない。
12. Burn Baby
ラストを飾るこの曲は、アルバム全体の衝動をそのまま燃やし切るような締めくくりになっている。タイトルの“燃えろ”という直截な命令形は、この作品の本質そのものだろう。L7のデビュー作は、結局のところ“よくできたデビュー・アルバム”というより、“今ここで燃えているバンド”の記録である。そのことを、このラスト曲は非常によく示している。サウンドは最後まで粗く、制御されすぎず、だからこそ熱を持っている。完璧な終わり方ではない。だが、この不完全さのまま燃え尽きる感じこそ、1988年のL7にはふさわしい。
総評
『L7』は、L7というバンドの原型が最もラフで、最も生々しく、そして最も獣的な形で記録されたデビュー作である。後年の『Smell the Magic』や『Bricks Are Heavy』に見られるような楽曲の整理された強さや、グランジ時代の象徴性を期待すると、このアルバムは少し雑で、荒く、まとまりが弱く感じられるかもしれない。しかし、その雑さこそが本作の価値である。ここにはまだブランド化されていないL7がいる。ジャンル化される前のL7、神話化される前のL7、ただ音の圧力と態度で前に出るL7がいる。
音楽的には、ハードコア・パンク、ガレージ・ロック、ノイズ・ロック、ヘヴィ・ロックが未整理なまま衝突しており、その不安定さが作品全体に独特の魅力を与えている。ギターは厚いが整いすぎず、リズムは荒く、ヴォーカルは怒鳴りすぎず、それでいて確実に攻撃的だ。しかもL7は、この時点ですでにリフとフックの強さを持っている。そのため本作は、単なる地下バンドの荒い記録には留まらず、のちにより多くのリスナーへ届いていくバンドの資質をしっかり感じさせる。
また、このアルバムはL7の政治性やフェミニズム的な重要性を理解するうえでも、決して外せない。重要なのは、彼女たちがそれをまず音楽の力として提示していることだ。理論より先に、音で場所を奪い返す。笑いと下品さと怒りを同時に持ち込む。その態度は、のちのライオット・ガール文脈とも接続しうるが、L7はもっとロックンロール的で、もっと雑で、もっと野蛮である。その野蛮さが、きわめて自由に響いている。
L7の入門として最初に薦めるなら、本作より後年の作品の方がわかりやすいだろう。しかし、L7の本質、つまり彼女たちが“ただ時代に必要とされた女性ロック・バンド”ではなく、“本当に危険で面白いロック・バンド”だったことを知るには、このデビュー作が欠かせない。『L7』は、完成された傑作ではない。だが、傑作に至る以前の原始的な熱と、すでに十分な独自性を持ったデビュー作として、非常に価値の高い作品である。雑で、速くて、下品で、鋭い。その全部がL7そのものだ。
おすすめアルバム
- L7『Smell the Magic』
本作の次にあたる重要作で、サウンドの輪郭と曲の強さが大きく増している。初期L7の衝動がより洗練された形で味わえる。
– L7『Bricks Are Heavy』
代表作にして最大の到達点の一つ。“Pretend We’re Dead”を含み、L7のヘヴィさ、フック、ユーモアが完璧に噛み合っている。
– Babes in Toyland『Spanking Machine』
同時代の女性フロント・バンドとして比較されることの多い作品。ノイズ、攻撃性、ねじれた身体感覚という点で深く共鳴する。
– Mudhoney『Superfuzz Bigmuff』
グランジ以前/周辺のガレージ感覚とノイズの荒っぽい快楽を知るうえで最適。L7の初期衝動と近い手触りがある。
– The Gits『Frenching the Bully』
パンク/ロックの荒さと切迫した生々しさを持つ重要作。L7の持つ“音そのものの説得力”を別角度から感じられる。

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