1. 歌詞の概要
「True Blue」は、Phoebe Bridgers、Lucy Dacus、Julien Bakerの3人からなるインディ・ロック・スーパートリオboygenius（ボーイジーニアス）が2023年に発表したフルアルバム『the record』に収録された楽曲であり、深い信頼、過去の痛み、そして無条件の愛に対する受容を、穏やかでありながら情熱的に描いた一曲である。
“True Blue”というタイトルは、直訳すれば「真実の青」だが、英語圏では「誠実で真っ直ぐな人」「裏切らない愛」を象徴する表現でもある。本楽曲ではその意味通り、誰よりも自分を理解してくれる人、でも簡単には愛せない人、だからこそ本物だとわかる——そんな関係性が描かれている。
語り手は、かつて築いた関係を振り返りながら、「あなたに会うと、私は本当の自分に戻ってしまう」と語る。それは傷でもあり、癒しでもあり、誤魔化しの効かない感情の起点なのだ。
この曲が描くのは、恋愛というよりもむしろ**“魂の深い結びつき”と、それをどう扱っていいのか分からないまま過ぎていった時間への静かな理解と感謝**である。
2. 歌詞のバックグラウンド
「True Blue」はLucy Dacusが主にリードを務め、彼女のソロ作でも顕著な内省的で地に足のついた語り口が楽曲全体を包み込んでいる。
本作は、特定の恋愛関係ではなく、長年の友人、または複雑に絡み合った過去の誰かに対する想いとして語られているとも解釈されており、その曖昧さがむしろ親密さのリアルさを浮かび上がらせている。
この曲の制作背景には、boygeniusの3人が音楽的だけでなく個人的にも深い絆で結ばれているという事実があり、「True Blue」はその信頼のあり方を音楽というかたちで記録したような存在でもある。
シンプルなバンドアレンジ、感情に寄り添うコード進行、そして三人のハーモニーが、語られていない言葉をも“聴かせる”ような構造になっている。
3. 歌詞の抜粋と和訳
You said you wanted to feel alive
So we went to the beach
「生きてるって感じたい」ってあなたが言ったから
私たちは海に行ったね
I wanna live somewhere in the space
Between your heart and your mind
あなたの“心”と“頭”のあいだにある
そのどこかに私は住んでいたい
You’ve never done me wrong
Except for that one time
あなたは私を裏切ったことがない
あの一度を除けば
It feels good to be known so well
I can’t hide from you like I hide from myself
私をこんなに理解してくれる人がいるって、心地いい
あなたの前じゃ、自分自身から隠れることすらできない
And it feels good to be known so well
I can’t hide from you like I hide from myself
（リフレイン）
私をこんなに知ってくれる人がいるって、やっぱりうれしい
あなたの前だけは、自分を偽れない
歌詞引用元：Genius – boygenius “True Blue”
4. 歌詞の考察
「True Blue」は、boygeniusの作品のなかでも最も穏やかで、そして最も誠実な“愛”を描いた楽曲である。
この曲に出てくる“あなた”は、単に恋人や元恋人ではない。おそらくは人生のなかで最も深く関わった存在であり、それゆえに「今はもういない」と思わせるような距離感が漂っている。
この曲が美しいのは、許しがいっさい声高に語られていない点である。語り手は「一度だけ傷つけられた」と言いつつ、それでも「あなたは誠実だった」と肯定する。そして、その人に“見られてしまう”ことによって、自分の本質が炙り出されてしまう——その暴かれ方すら、今は受け入れられるようになっている。
また、「心と頭のあいだのどこかに住みたい」というラインは、愛や信頼がどこに位置するのか分からないまま、それでも存在し続けていることの比喩として、極めて詩的でありながら現実的でもある。
これは“過去形の愛”ではない。むしろ、「もう関係は変わってしまったけど、感情はまだここにある」——そんな、変化を受け入れたうえで続いていく情のかたちを描いている。
「True Blue」とは、だからこそ強くもあり、脆くもある言葉なのだ。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- Night Shift by Lucy Dacus
別れた相手との複雑な感情の残り火を、多層的に描いた叙情的名曲。 - Scott Street by Phoebe Bridgers
再会した相手との距離感と、過去に引き戻される感情の不器用さを描いたバラード。 - Rejoice by Julien Baker
信仰と自罰的感情のなかで、それでも自分を赦そうとする自己回復の祈り。 -
I Know the End by Phoebe Bridgers
終わりと再生が同時に起こる瞬間のカタルシスを、壮大なビルドアップで描く楽曲。 -
Your Best American Girl by Mitski
自分らしさと愛され方が一致しないジレンマを、鮮烈なギターで放つ感情の爆発。
6. “わかりあえてしまうこと”の静かな痛みと救い
「True Blue」は、“本当に分かり合えてしまう”ということが、時にどれほど優しくて、どれほど痛いかを、淡々と語る一曲である。
人は他者の前では、少し嘘をついたり、よく見せたりしてしまう。でも、なぜか一部の人の前では、それができない。
その人の目は、何よりも正確にこちらを見抜いてしまう。そして、そういう関係こそが、「本物」だったのかもしれない——そう思わせてくれるのが、この「True Blue」なのだ。
この曲は、過去の自分を見つめ直すとき、「あの人だけは、私をちゃんと見てくれていた」と思い出す人がいるすべての人に向けて歌われている。
それは未練でも執着でもない。ただ、静かな感謝と、自分が少しだけ“成長した”と感じられるような肯定の感情。
「True Blue」とは、強さではない。むしろ、**壊れたあとでもそこに残る“やさしさの証拠”**なのかもしれない。boygeniusはこの曲を通して、そんな柔らかい記憶のなかにいる“誰か”と、そして“過去の自分”と、そっと手をつなごうとしている。
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