
楽曲の概要
「XS」は、Rina Sawayamaが2020年3月3日に発表した楽曲で、同年4月発売のデビュー・アルバム『SAWAYAMA』に2曲目として収録された。作詞・作曲にはSawayamaのほかKyle Shearer、Nate Campany、Chris Lyonが参加し、プロデュースはSawayama、Clarence Clarity、Shearerが担当している。追加ギターにはThe 1975のAdam Hann、追加ドラムにはFreddy Sheedが参加した。
曲名の「XS」は衣服の「extra small」を思わせる一方、発音すれば「excess=過剰」とほぼ同じ響きになる。その言葉遊びの通り、題材はぜいたく品や消費への際限のない欲望である。しかしSawayamaは消費社会を外から説教するのではなく、高級車、宝石、豪邸などをもっと欲しがる人物を自分自身が演じる。滑らかな2000年代風R&Bと突然割り込むヘヴィメタルのギターを衝突させることで、「欲しい」という快感と、その欲望を支える社会への嫌悪を同時に聞かせる曲になっている。
歌詞の概要
歌詞の語り手は、とにかく「もっと欲しい」と要求し続ける。欲しいものは必要最低限の生活用品ではなく、高級ブランド、ジュエリー、Tesla、カリフォルニアの富裕層の街を思わせる生活など、社会的な成功を目に見える形で示す商品や環境である。しかも語り手は、それらを欲しがる自分を恥じない。自分にはそれだけの価値があり、ぜいたくを手にする資格があるという態度を取る。
ここでSawayama本人と歌詞の語り手を同一視する必要はない。Sawayama自身は「XS」について、地球環境が危機的な状態にある一方で、ブランドが次々に新商品を出し、富裕層が豪邸を見せながら環境問題への悲しみも表明するような矛盾を風刺した曲だと説明している。つまり歌詞に登場する過剰な消費者像は、肯定される主人公ではなく、現代社会の欲望を誇張して演じる人物なのである。
曲が面白いのは、消費を単純に「悪いもの」として描いていない点だ。高価な商品を手に入れることには確かに楽しさがあり、広告やポップカルチャーはその楽しさを魅力的に見せる。「XS」の語り手も、その誘惑に完全に浸っている。だからこそ、聴き手は歌詞を批判として理解しながら、同時にサビのぜいたくな響きや購買欲を刺激する言葉にも引きつけられる。批判する側も消費社会の外部にはいない、という矛盾まで含んだ曲として読むことができる。
制作背景・時代背景
『SAWAYAMA』は、Sawayamaが2017年のミニアルバム『RINA』で見せていたY2K期のポップやR&Bへの関心をさらに広げ、ニューメタル、オルタナティブ・ロック、ダンス・ポップなどを大胆に組み合わせた作品である。「XS」は「STFU!」「Comme Des Garçons (Like The Boys)」に続いて公開され、アルバムが一つのジャンルに収まらないことを早い段階で示した。公式リリースでは『SAWAYAMA』の2曲目に置かれており、冒頭の重厚な「Dynasty」から一転して、明るいポップへ移る役割も持っている。
Sawayamaはこの時期、楽曲ごとに歌詞やメロディが求めるジャンルを選んだと説明している。「XS」では、滑らかなR&Bのプロダクションと突然のメタル・ギターを組み合わせた。NMEも、この曲を富裕層のInstagram的なライフスタイルへの批判として取り上げ、そのR&Bとメタルの急激な切り替えに注目している。
背景にあるのは、単なるブランド批判だけではない。Sawayamaが曲について語った時点では、気候変動やオーストラリアの森林火災などが広く話題になる一方、SNSでは豪邸や新商品の消費を見せる文化も加速していた。環境への不安と大量消費への憧れが同じタイムラインに並んでいること自体が、「XS」の出発点になっている。
歌詞の抜粋と和訳
「XS」では、「もっと欲しい」という要求が繰り返されることが重要である。何かを手に入れれば満足するのではなく、手に入れた直後から次のものを欲しがる。その終わりのない感覚が、「extra small」と「excess」を重ねたタイトルへつながっている。
歌詞に登場するCartier、Tesla、Calabasasなども単なる固有名詞ではない。どれも商品そのものの実用性より、富や成功を他人に見せる記号として機能している。語り手が求めているのは物だけではなく、それを所有している自分が価値のある人間だと証明できる状態なのである。
サウンドと歌詞の考察
「XS」の最大の特徴は、二種類の音楽がほとんど喧嘩するように同居していることだ。曲の主要部分は2000年代初頭のR&Bやメインストリーム・ポップを思わせる。軽く跳ねるビート、滑らかなベース、きらびやかな音色の上で、Sawayamaは余裕のある声でぜいたくへの欲望を歌う。耳当たりは非常に良く、広告や高級ブランドの映像にも似合いそうな洗練された質感がある。
ところが、その流れを切断するように極端に歪んだギターが突然飛び込んでくる。ギターは曲全体を支える伴奏ではなく、短時間だけ異物として現れるため、その瞬間だけ表面の光沢が破れる。美しく整った消費社会の広告映像へ、別の現実が強制的に割り込んでくるような聞こえ方である。追加ギターとしてAdam Hannがクレジットされているが、楽曲全体ではこのギターの「量」よりも、どこで登場するかが重要になっている。
この構成によって、歌詞の皮肉を説明しなくても曲の矛盾が耳で理解できる。R&B部分は「もっと買いたい」「もっと豊かになりたい」という欲望の楽しさを担当し、メタル部分はその欲望の裏にある暴力性や不安を連想させる。Sawayama自身が語っているように、『SAWAYAMA』ではジャンルを歌詞の意味に合わせて利用しており、「XS」はその方法が特に分かりやすい。
サビのメロディも巧妙である。Sawayamaは消費主義を批判しているにもかかわらず、「欲しい」というフレーズを非常に覚えやすく、気持ちよく歌える形にしている。その結果、聴き手自身も語り手と一緒になって「もっと」と歌いたくなる。批判対象の欲望を、不快なものとして遠ざけるのではなく、まず魅力的に感じさせるわけだ。消費社会が成立するのも、欲望がただ苦しいからではなく、商品を選び、手に入れ、見せる行為が楽しいからである。「XS」はその快感を音楽そのものへ組み込んでいる。
Sawayamaのボーカルも、風刺を分かりやすく誇張しすぎない。怒りを前面に出した「STFU!」とは異なり、ここでは滑らかで自信に満ちたポップスターの声を使う。そのため語り手は「消費主義に騙されている可哀想な人物」ではなく、自分の欲望を誇らしげに語る人物として聞こえる。自分には高級品を所有する資格があるという態度が強いほど、歌詞の価値観は現実の広告やインフルエンサー文化と区別しにくくなる。
音量差の使い方も大きい。滑らかな部分からギターが入る瞬間には、実際の音量以上に曲が巨大化したように感じられる。これはニューメタルでよく使われる「静かな部分から一気に重くなる」快感を、短い断片としてポップ・ソングへ移植したものだ。しかも、その快感自体も「もっと大きく、もっと派手に」という過剰さを持っている。消費の「excess」を批判する曲が、サウンドでも意図的に過剰になるという二重構造がある。
一方で、「XS」は実験性を前面に出しすぎず、3分少々の非常にまとまりのよいポップ・ソングとして成立している。ジャンルの切り替えは派手だが、サビの強いメロディと一定のビートが曲全体をつないでいる。そのためR&Bとメタルを混ぜた珍しさだけで終わらず、歌詞のテーマ、声の演技、プロダクションがすべて「魅力的すぎる過剰」という同じ方向を向いている。『SAWAYAMA』が高く評価された理由の一つである、過去のポップ文化を引用しながら現在の問題を語る方法が凝縮された曲である。
この曲が好きな人におすすめの曲 5曲
「STFU!」 by Rina Sawayama
同じ『SAWAYAMA』でニューメタルをさらに前面へ出した曲。「XS」が甘いR&Bとメタルの衝突で社会批判を表すのに対し、こちらは差別的なマイクロアグレッションへの怒りを直接的なヘヴィサウンドへ変えている。
「Comme Des Garçons (Like The Boys)」 by Rina Sawayama
自信に満ちた人物像を演じながら、その裏側にあるジェンダーや成功の価値観を観察する曲。「XS」と同様、表面上は華やかなクラブ・ポップとして楽しめる一方、歌詞には明確な批評性がある。
「Paradisin’」 by Rina Sawayama
Y2K期のポップやゲーム音楽を思わせる明るさを使い、Sawayama自身の若い頃の反抗心を描く。「XS」ほどヘヴィではないが、懐かしいポップの語彙を現代的に再構成する方法が共通している。
「Celebrity Skin」 by Hole
派手でキャッチーなオルタナティブ・ロックの内側に、名声や美しさをめぐる皮肉を忍ばせた曲。「XS」とジャンルは異なるものの、魅力的なポップ性そのものを使って華やかな文化を批評する点でつながる。
「Money Machine」 by 100 gecs
過剰に加工されたポップ、巨大な低音、攻撃的なギターを意図的にぶつける楽曲。「XS」より混沌としているが、2000年代的な俗っぽさを隠さず引用し、それ自体を現代のポップへ変える感覚が近い。
まとめ
「XS」は、消費社会への批判を禁欲的な音楽ではなく、むしろ欲望を最大限に刺激するポップとして作ったところに特徴がある。高級品を欲しがる語り手をSawayama自身が堂々と演じ、滑らかなY2K風R&Bでその快感を聴かせた直後、歪んだメタル・ギターが光沢のある世界を切り裂く。「extra small」と「excess」を重ねたタイトルのように、曲全体が小ささと過剰、快楽と危機、批判と誘惑という矛盾でできている。『SAWAYAMA』におけるジャンル横断が単なる懐古趣味ではなく、歌詞の意味を音そのもので伝える方法だったことを最も鮮明に示した一曲である。
参照元
- Dirty Hit
- Rina Sawayama公式ディスコグラフィー
- NME
- The Line of Best Fit
- Pitchfork
- MusicBrainz

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