1. 歌詞の概要
「Hurricanes」は、Rina Sawayamaが2022年にリリースしたセカンドアルバム『Hold The Girl』に収録された楽曲であり、嵐のような感情をそのまま突き抜けるようなサウンドと歌詞で表現した、爆発力に満ちたロック・アンセムである。
この曲の核にあるのは、「自分の中に渦巻く感情の暴風」に対する向き合い方であり、痛み、怒り、混乱といったネガティブな情動を抑圧せず、それを力として抱きしめる姿勢が描かれている。タイトルの“Hurricanes(ハリケーン)”は、まさにその感情の激しさや、コントロール不能な内的世界のメタファーとして機能している。
歌詞の中では、「私は嵐の中にいる、でも私はその嵐そのものでもある」と語るような主体性の変化があり、単に感情に翻弄されるだけでなく、それを乗りこなす決意と覚醒の力がほとばしっている。これは、自分の弱さを受け入れることがそのまま強さにつながるというRinaの哲学を象徴する一曲なのだ。
2. 歌詞のバックグラウンド
「Hurricanes」は、Rina Sawayamaのキャリアにおいても特筆すべき“エモーショナル・ロック”の展開であり、アルバム『Hold The Girl』の中でも特にダイナミックなエネルギーを放っている楽曲である。前作『SAWAYAMA』での実験的なジャンル横断から一転し、このアルバムではより“ヒーリング”と“セルフリカバリー”がテーマとなっている。
Rinaはこの曲について、「何かに耐えてきた過去の自分を抱きしめるための歌」だと語っており、特に青春期に経験した孤独や怒り、理解されない悲しみといった感情の噴出を、敢えて大仰なロック・スタイルで昇華している。
サウンド面では、ポップパンク、オルタナティブ・ロック、さらにはY2K時代のエモロックの要素が取り込まれており、ParamoreやAvril Lavigne、Kelly Clarksonといった2000年代の女性ロック・シンガーたちの系譜に連なるスタイルで仕上げられている。その一方で、歌詞にはRina特有の視点と詩的なニュアンスが色濃く反映されており、“懐かしさ”と“新しさ”が同居した独特のバランス感覚が魅力となっている。
3. 歌詞の抜粋と和訳
I’m a hurricane
私はハリケーンなのI’m bringing thunder, I’m bringing rain
雷も、雨も、私が連れてくるのI’m not sorry for the storm
嵐を起こしても、もう謝らないAnd if I’m a mess, it’s what I chose
私が“ぐちゃぐちゃ”なら、それは自分で選んだ道Let it pour, let it rage
降らせて、荒れさせてI’m finally feeling my age
ようやく、自分の“今”を感じられる
歌詞引用元:Genius Lyrics – Hurricanes
4. 歌詞の考察
「Hurricanes」の歌詞は、破壊的な感情を隠すのではなく、むしろその中に自分の“本当”を見出そうとする姿勢に満ちている。特に「I’m not sorry for the storm(嵐を起こしても謝らない)」という一節は、女性やマイノリティがしばしば「感情的になること」を批判されてきた社会構造に対する力強いカウンターでもある。
また、「Let it rage(荒れ狂わせていい)」という言葉には、感情の解放、癒し、そしてそれを“恥ずかしいこと”ではなく“誇るべきこと”として受け入れるという、成熟した自己理解が込められている。
この楽曲は、感情の波に流される無力な存在から、自らの内側の嵐を乗りこなす“嵐そのもの”へと変わっていく物語でもあり、特に自分を過小評価してきた人、過去の痛みに蓋をしてきた人にとっては、その蓋をそっと外してくれるような力を持っている。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- Decode by Paramore
感情の迷路を生き抜く強さと脆さを同時に描いた、エモーショナル・ロックの代表曲。 - Fighter by Christina Aguilera
過去の傷を糧に成長する過程を、高らかに歌い上げた力強いバラード。 - Girlfriend by Avril Lavigne
Y2K時代のポップパンクのアイコン的存在。女性の“強さ”と“楽しさ”を同時に表現。 - Flowers by Miley Cyrus
自己肯定とセルフ・ヒーリングをテーマにした、近年のパーソナル・アンセム。
6. “感情の嵐”を肯定するアンセム
「Hurricanes」は、Rina Sawayamaの楽曲の中でもとりわけ“自分の感情を全面的に受け入れる”ことをテーマにした、カタルシスと解放の楽曲である。抑えてきた痛み、怒り、混乱――それらを“恥ずかしいもの”として隠すのではなく、“私を形作る嵐”として愛する。それは、自己破壊ではなく、自己変容のプロセスなのである。
この曲が放つ力強さは、聴く者それぞれの中にある“嵐”を肯定し、それがあっていいのだと教えてくれる。感情の嵐に揺さぶられた経験があるすべての人に、「そのままで美しい」と語りかける「Hurricanes」は、ただのロックチューンではない。心の奥に嵐を抱えるすべての人のための、エモーショナル・アンセムなのだ。
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