Brassneck by The Wedding Present（1990）楽曲解説

1. 歌詞の概要
2. 歌詞のバックグラウンド
3. 歌詞の抜粋と和訳
4. 歌詞の考察
5. この曲が好きな人におすすめの曲
6. “もう二度と傷つかない”という誓いの、危うさ
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1. 歌詞の概要

「Brassneck」は、ザ・ウェディング・プレゼント（The Wedding Present）が1990年にリリースしたアルバム『Bizarro』に収録され、同年シングルとして再録・再リリースされた楽曲である。プロデュースはスティーヴ・アルビニ（Steve Albini）。
その攻撃的なギター・リフ、繰り返されるビート、吐き捨てるようなヴォーカルが融合し、バンド史上屈指の“怒りと諦念が同時に噴き出すロックナンバー”となっている。

タイトルの「Brassneck（図々しさ、厚かましさ）」という言葉からもわかるように、この曲の語り手は、誰かに対する苛立ちと冷笑を抑えきれずにいる。相手はおそらく元恋人、あるいは未練を断ち切れない存在。
彼女から「傷つけたくなかった」と告げられた語り手は、それを「ありふれた言い訳」だと一蹴する。彼は彼女の態度に幻滅し、怒りを爆発させながらも、その感情の裏には明らかな未練と自己嫌悪がにじむ。

この曲は、失恋の“痛み”というよりも、むしろ「もう一度傷つくことへの拒絶」として描かれている。
愛情はまだ残っているのに、再び裏切られるくらいなら、自分から終わらせてしまいたい――その“プライドと哀しみ”のせめぎ合いが、すべての言葉と音に込められている。

2. 歌詞のバックグラウンド

「Brassneck」は、ザ・ウェディング・プレゼントが“ノイズと感情の爆発”を完全にコントロールし始めた時期の楽曲であり、彼らのサウンドがより重く、鋭くなっていく過渡期に生まれた一曲である。

特筆すべきは、1990年に再録音されたシングル版が、アメリカのプロデューサー、スティーヴ・アルビニの手によって作られた点だ。彼はその後ピクシーズやニルヴァーナなどのプロデュースでも知られるようになり、当時から「感情の荒さをそのまま音にする」名手として評価されていた。
そのため「Brassneck」では、演奏の粗さとテンションの高さが、録音レベルで極限まで引き出されており、アルバム版と聴き比べても、より生々しく暴力的な質感が際立っている。

この曲が人気を博した背景には、当時のリスナーが抱えていた「恋愛や人間関係に対する倦怠感」「感情表現の不器用さ」「傷つきたくないという自己防衛」のような感情と強くリンクしていたことが挙げられる。

3. 歌詞の抜粋と和訳

以下に、「Brassneck」の印象的な一節を紹介する。引用元：Genius

No, I don’t want to see you
いや、もう君に会いたくない

I don’t want to talk to you
話をするつもりもない

I don’t even want to hear you think aloud
君が何を考えてるのか、独り言すら聞きたくないんだ

語り手は明確に“距離”を取ろうとしているが、続くセクションではその理由が語られる。

And it might not be true, but I’m inclined to think
本当かどうかはわからないけど、僕にはそう思えてしまうんだ

It’s unlikely that I’m going to let myself be hurt again
もう二度と、傷つきたくはないって

これは、強がりではなく“ギリギリの自己防衛”。「君のことはまだ好きだ、でももう信じられない」――そんな複雑な心境が露わになる。

4. 歌詞の考察

「Brassneck」は、失恋ソングという枠を超えた、**“怒りの感情を自己の防御手段として昇華したロックナンバー”**である。

語り手は、恋人から「傷つけるつもりじゃなかった」というありきたりな言い訳を受け取るが、それを受け入れるどころか真っ向から拒絶する。
この拒絶は、単なる意地ではない。彼はまだ彼女を忘れていないし、言葉の端々には「愛していた自分」の痕跡が滲んでいる。
だが、だからこそ彼は、それ以上の痛みを受ける前に、関係を完全に断ち切ろうとしている。

この曲が非常に人間的なのは、**「相手を拒絶することで、かろうじて自分を保っている」**その姿勢にある。強く聞こえる言葉の裏には、脆く崩れそうな心がある。
そしてその心の動きを、デイヴィッド・ゲッジはあくまで「詩」ではなく「会話」に近い語り口で表現する。だから聴き手は、そのまま感情の渦に巻き込まれてしまうのだ。