発売日: 1970年10月
ジャンル: サンシャインポップ、フォークロック、ガレージポップ
概要
『Wooden Head』は、ザ・タートルズが1970年に発表した編集アルバムであり、
彼らが1965〜66年頃にレコーディングしていた未発表曲やBサイドを集めた作品である。
当時すでにタートルズは事実上解散状態にあり、
このアルバムは彼らの全盛期初期――
『It Ain’t Me Babe』や『You Baby』時代の録音を中心に構成されている。
そのため『Wooden Head』には、
ザ・タートルズの初期フォークロックとガレージポップの瑞々しいエネルギーがそのまま封じ込められており、
のちの『Happy Together』期の洗練されたポップセンスとはまた違った、
若さと勢いに満ちた生々しさが魅力となっている。
本作は、
タートルズの隠れた側面――
**荒削りだが愛すべき”ロックバンドとしての顔”**を垣間見せる貴重な記録なのである。
全曲レビュー
1. I Can’t Stop
シンプルでストレートなフォークロックナンバー。
恋愛の衝動を無邪気に歌う、初期タートルズらしいエネルギッシュな楽曲。
2. She’ll Come Back
失恋の痛みと再会への期待をテーマにしたメロディアスなバラード。
ハーモニーの美しさが光る。
3. Get Away
疾走感あふれるガレージポップナンバー。
若さ特有の逃避願望と自由への憧れを軽快に描く。
4. Wrong from the Start
切ないメロディが胸を打つ、メランコリックなラブソング。
ボーカルの繊細な表現が印象的。
5. I Get Out of Breath
ポップでありながら、どこかほろ苦い恋の焦燥感を歌う、キャッチーなナンバー。
6. We’ll Meet Again
1939年のヴェラ・リンの名曲をカバー。
第二次世界大戦期の哀愁を、
フォークポップスタイルで柔らかく再解釈している。
7. On a Summer’s Day
青春の一瞬を切り取った、爽やかでロマンティックな一曲。
タートルズ特有の晴れやかなムードが満載。
8. Come Back
シンプルながら力強いミッドテンポのロックナンバー。
再会への切なる想いがストレートに伝わる。
9. Say Girl
ティーンポップ的な甘酸っぱさに満ちた、愛らしいラブソング。
10. Tie Me Down
自由を求めつつも、
愛に縛られることへの戸惑いを歌ったガレージ色濃いナンバー。
総評
『Wooden Head』は、ザ・タートルズの
**洗練される前の”生の魅力”**を感じられるアルバムである。
後の彼らの代表作に比べれば、
サウンドはやや粗く、楽曲の完成度もばらつきがある。
だが、その分、
**初期1960年代アメリカンロックバンド特有の”未完成のきらめき”**が眩しく光っている。
とりわけ、ハワード・カイランとマーク・ヴォルマンの
まだ飾り気のないコーラスハーモニーは、
タートルズの原点を雄弁に物語っている。
『Wooden Head』は、
タートルズというバンドのもうひとつの顔――
陽気で、衝動的で、少しだけ不器用な青春の記録なのだ。
おすすめアルバム
- The Byrds / Preflyte
デビュー前のザ・バーズによる、荒削りなフォークロックデモ集。 - The Lovin’ Spoonful / Do You Believe in Magic
同時代に活動していたフォークポップバンドの名作。 - The Monkees / The Monkees
ティーンポップとフォークロックを絶妙にミックスしたデビュー作。 - The Beau Brummels / Introducing The Beau Brummels
初期アメリカンフォークロックの隠れた名盤。 -
The Zombies / Begin Here
ザ・ゾンビーズの初期作品。ブリティッシュビートとフォークの香りを併せ持つ。
歌詞の深読みと文化的背景
1965〜66年――
アメリカはフォークロックブームの真っただ中にあり、
ボブ・ディラン、ザ・バーズ、ラヴィン・スプーンフルらが
新たな若者文化を牽引していた。
ザ・タートルズもまた、
そうした時代の波に乗りながら、
『Wooden Head』に収められた楽曲たちで、
自由、恋愛、青春の喜びと不安を、
等身大で表現している。
『Wooden Head』は、
完璧であることを求めない。
むしろ、
**未完成だからこそ響く”リアルな青春の音”**を、
鮮やかに封じ込めたアルバムなのである。
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