発売日: 2021年11月25日
ジャンル: インディーポップ、サイケデリックポップ
概要
『Bar & Grill』は、Royel Otisが2021年にリリースしたデビューEPであり、彼らの音楽キャリアのスタート地点となる重要な作品である。
Royel MaddellとOtis Pavlovicによるオーストラリア・シドニー発のデュオ、Royel Otisは、このEPで初めて公式にシーンに登場し、独自の脱力感あふれるポップスタイルを提示した。
ソフトで甘いヴォーカル、ドリーミーなギターリフ、そしてどこかサイケデリックな浮遊感を持つアレンジが彼らの特徴であり、早くも注目を集めた。
『Bar & Grill』というタイトルが象徴するのは、肩の力が抜けた日常感と、そこに漂うささやかな郷愁。
リリース当時、Mac DeMarcoやMild High Clubに通じる「緩やかでありながら美しいポップ感覚」が評価され、インディーリスナーの間でじわじわと話題となった。
このEPは、Royel Otisの「何気ない時間の中にある魔法」を捉えるセンスを、すでにしっかりと示していたのである。
全曲レビュー
1. Only One
ドリーミーなギターとふわりとしたヴォーカルが絡み合うオープニング。
恋人への一途な想いを、リラックスしたムードで歌い上げる。
2. Oysters in My Pocket
のちに『Sofa Kings』にも収録された人気曲。
奇妙でユーモラスなタイトルながら、恋愛の微妙な機微を絶妙なバランスで描く。
爽やかながら少し翳りのあるメロディラインが印象的だ。
3. Without U
脱力感あふれるギターと、控えめなビートが心地よい。
失恋後のぼんやりとした喪失感を、淡々と描き出す。
4. Big Ciggie
ミディアムテンポのポップチューン。
日常の倦怠感と、そこに潜む小さな幸福感をテーマにしている。
タイトルは「一服の煙草」になぞらえて、逃避のひとときを象徴している。
総評
『Bar & Grill』は、Royel Otisという存在が初めて提示された作品であり、その時点ですでに彼らの魅力は明確だった。
それは、**「大きな声ではないけれど、確かに心に届く音楽」**ということだ。
彼らのサウンドは、インディーポップ、ドリームポップ、サイケデリックポップといった要素を緩やかに溶かし合わせたものであり、リスナーに静かに寄り添う優しさを持っている。
また、無理にドラマティックにしようとしないその自然体のスタンスが、逆に強いリアリティと親密さを生んでいる。
このEPに収録された楽曲たちは、何気ない日常の一コマを、どこか切なく、そして優しく彩ってくれる。
『Bar & Grill』は、忙しない日常に疲れた心をふっと解きほぐしてくれるような、小さな、しかし確かな贈り物なのである。
おすすめアルバム（5枚）
- Mac DeMarco『2』
緩やかで人懐っこいギターサウンドと、脱力系ポップセンスが共通する。 - Mild High Club『Skiptracing』
サイケデリックでドリーミーな質感を共有する作品。 - Real Estate『Days』
緩やかなギターと郷愁を誘うメロディラインが近い。 - Faye Webster『Atlanta Millionaires Club』
肩の力の抜けたポップと、繊細な感情表現が重なる。 - Men I Trust『Oncle Jazz』
滑らかなドリームポップと自然体のボーカルが心地よい。
制作の裏側（Behind the Scenes）
『Bar & Grill』の制作は、シドニー郊外の小さなスタジオで行われた。
デビューEPながら、制作にあたってはプロデューサーを入れず、RoyelとOtis自身がほぼ全工程をセルフプロデュースで手がけたという。
レコーディングでは、ヴィンテージギターと小型のチューブアンプを中心に使用。
また、あえてプロツールスなどの最新のデジタル編集技術を最小限に抑え、「その場の空気感」を残すことが意識された。
この方針が、EP全体に漂う「肩肘張らない自然体の美しさ」を生み出しており、リスナーにとっても、まるで友人の家で鳴っている音楽をそっと聴いているかのような親密さを感じさせるのである。
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