The Motels(ザ・モーテルズ)とは?経歴・音楽性・代表曲・アルバムを解説
イントロダクション
The Motels(ザ・モーテルズ)は、1970年代末から1980年代にかけて注目を集めたアメリカのニューウェーブ・バンドである。ロサンゼルスのシーンから登場し、「Only the Lonely」や「Suddenly Last Summer」といったヒット曲で広く知られるようになった。
中心人物は、ボーカルとソングライティングを担うMartha Davis(マーサ・デイヴィス)である。低く少しかすれた声には、強さと寂しさが同時に感じられる。明るいメロディを歌っていても、どこか夜のような暗さが残るのが特徴だ。
音楽はニューウェーブを基本としているが、単純に軽快なシンセサイザー中心のバンドではない。ギター、サックス、キーボードを使いながら、ジャズやR&Bにも通じる大人びた雰囲気を作っている。都会の夜、孤独、終わりかけた恋愛といった風景が似合う音楽である。
1980年代のポップ・バンドとしてヒットを残す一方、その前にはもっと鋭く、不安定なニューウェーブを演奏していた。この初期の緊張感と、後に身につけた洗練されたポップ感覚。その両方を持っていることがThe Motelsの面白さである。
The Motelsの背景と歴史
The Motelsの歴史は、Martha Davisが1971年にカリフォルニア州バークレーでWarfield Foxesというバンドに参加したところから始まる。バンドはその後ロサンゼルスへ移り、1975年にはThe Motelsと名乗るようになった。
しかし、最初のThe Motelsは安定した活動を続けることができず、一度解散している。1978年にDavisとギタリストのJeff Jourardを中心として再編され、Jeffの兄弟でキーボードとサックスを担当するMarty Jourard、ベースのMichael Goodroe、ドラムのBrian Glascockが加わった。
この時期のロサンゼルスでは、パンクやニューウェーブの新しいバンドが次々に登場していた。The Go-Go’sなども活動していたシーンの中で、The Motelsはライブを重ね、1979年にCapitol Recordsと契約する。同年、セルフタイトルのデビュー作 The Motels を発表した。
初期のThe Motelsは、後のヒット曲から想像するよりも尖ったバンドだった。ギターは乾いていて、リズムには落ち着かない緊張感がある。そこへサックスやキーボードが入り、Davisの低い歌声が曲をまとめていた。
デビュー作に収録された「Total Control」は、とくにオーストラリアで大きな反響を得た。続く Careful でもニューウェーブらしい鋭さを残したが、アメリカでの大きな商業的成功にはまだ届かなかった。
転機となったのが3作目の制作である。当初バンドは Apocalypso という、暗く実験的なアルバムを録音していた。しかしレコード会社はそのままの形での発売を認めず、楽曲の一部を作り直すことになる。
こうして1982年に完成した All Four One は、それまでの不安定なニューウェーブ感覚を残しながら、音の輪郭を整理した作品になった。「Only the Lonely」が全米トップ10入りし、The Motelsは一気に知名度を上げる。
翌1983年には Little Robbers を発表。「Suddenly Last Summer」が再び全米トップ10に入り、MTV時代を代表するニューウェーブ・バンドの一つとなった。
1985年の Shock ではさらに華やかなポップへ進み、「Shame」もヒットした。しかし1980年代後半にバンドとしての活動は終了し、Davisはソロ活動へ移る。その後、彼女はThe Motelsの名前を再び使ってライブ活動を行うようになり、21世紀に入ってからも新しい編成で活動を続けている。
音楽スタイルと特徴
The Motelsを理解するうえで最も重要なのは、Martha Davisの声である。
Davisは高音を派手に響かせるタイプではない。少し低めの声で、言葉を置くようにゆっくり歌うことが多い。声にはかすかなざらつきがあり、感情を激しく爆発させなくても、疲れや孤独が自然に伝わってくる。
「Only the Lonely」が典型的だ。演奏そのものは整っていて美しいが、Davisの声が入ると空気が急に暗くなる。泣き叫ぶのではなく、感情を抑えているからこそ寂しく聞こえる。
もう一つの特徴が、楽器の間に余白を残すアレンジである。初期には細く鋭いギター、動きのあるベース、サックス、キーボードが組み合わされている。すべての楽器を大音量で重ねるのではなく、それぞれの音が離れた場所から聞こえてくるような曲も多い。
そのため、The Motelsには独特の「夜」の感覚がある。これは単純に曲が暗いという意味ではない。明るい音色や覚えやすいメロディの中にも、誰もいないバーや深夜のホテルのような静けさが残っている。
リズムにはR&Bやファンクに近い感覚もある。特に初期作品ではベースがよく動き、ドラムも単純なロックのビートだけを刻んでいるわけではない。その上でギターやサックスが短いフレーズを入れるため、暗い曲でも身体が自然に動くような感覚がある。
キャリアが進むにつれて、この複雑さは整理されていった。1980年代前半にはシンセサイザーや大きなドラム音を取り入れ、ラジオやMTVに合うポップへ近づいていく。ただし、Davisの声が持つ哀愁は最後まで消えなかった。
代表曲
「Total Control」(1979)
初期The Motelsの魅力がよく分かる曲である。演奏は静かだが、ベースやギターには張りつめた感覚がある。途中からサックスが大きな役割を持ち、普通のロック・バラードとは違う夜の雰囲気を作っている。
Davisの歌も印象的だ。感情を最初から出し切らず、曲が進むにつれて少しずつ緊張を高めていく。後のヒット曲より荒さが残っており、The Motelsがもともとニューウェーブの実験的な部分を持ったバンドだったことが分かる。
「Only the Lonely」(1982)
The Motels最大の代表曲の一つであり、バンドの特徴を最も短時間で理解できる曲でもある。
ピアノやキーボードを中心とした静かな伴奏に、Davisの低い声が乗る。サビは覚えやすいが、単純に明るく盛り上がるわけではない。音が広がるほど孤独が強く感じられるという、不思議な作りになっている。
初期の鋭いニューウェーブを、洗練されたポップへ変換した曲でもある。The Motelsが持っていた暗さを失わず、幅広いリスナーへ届く形にしたことが大ヒットにつながった。
「Take the L」(1982)
「Only the Lonely」と同じ All Four One に収録された曲だが、こちらはより軽快である。
跳ねるようなリズムとキーボードが前に出ており、1980年代ニューウェーブらしい明るさがある。ただし、Davisのボーカルには少し冷めた感触が残る。ポップな曲を演奏しても完全には陽気にならないところに、The Motelsらしさがよく表れている。
「Suddenly Last Summer」(1983)
「Only the Lonely」と並ぶ代表曲で、1983年に全米トップ10入りした。
ゆっくりしたテンポと反復するキーボードが、夢の中を歩いているような感覚を作る。メロディは非常に親しみやすい。しかし曲全体には、楽しかった時間が突然過去になってしまったような寂しさが漂っている。
Davisの声とThe Motelsの「夏」は、明るい海辺よりも夏の終わりに近い。美しい記憶と喪失感を同時に聞かせるという、このバンドの特徴が最もよく出た曲である。
「Shame」(1985)
1985年の Shock から生まれたヒット曲である。
初期作品と比べると音はかなり華やかになり、ドラムやシンセサイザーも1980年代半ばらしい大きな響きを持っている。メロディもより直接的なポップへ近づいた。
それでもDavisの歌には影がある。The Motelsがニューウェーブの小さなクラブから出発し、1980年代のメインストリーム・ポップへ移っていったことが分かる一曲である。
アルバムごとの進化
The Motels(1979)
デビュー作には、後のThe Motelsより荒く、落ち着かない空気がある。
ギター、ベース、キーボード、サックスがそれぞれ独立して動き、曲によってはジャズやアート・ロックにも近づく。「Total Control」のような静かな曲にも強い緊張感があり、Davisのボーカルもすでに大きな存在感を持っている。
完成されたポップ・バンドというより、ロサンゼルスのニューウェーブ・シーンから生まれた少し変わったロック・バンドとしての姿がよく見える作品だ。
Careful(1980)
2作目ではデビュー作の冷たい感触を残しながら、曲の形が少し整理された。
ただし、後のヒット期ほど滑らかではない。ギターやリズムには角があり、キーボードも曲を華やかにするというより、不安な空気を加えるために使われることがある。
初期The Motelsのニューウェーブ色を知るうえでは重要な作品である。商業的な成功より、自分たちの音を探している時期の面白さが強く出ている。
All Four One(1982)
The Motelsのキャリアを大きく変えたアルバムである。
もともとバンドは Apocalypso という別の形のアルバムを制作していた。しかしその内容は発売を認められず、プロデューサーのVal Garayを迎えて楽曲を再構成することになった。
結果として、初期の暗さと1980年代的なポップのバランスが生まれた。音は以前より整理され、ボーカルやメロディが前に出ている。「Only the Lonely」の成功によって、The Motelsはアメリカでも広く知られる存在になった。
なお、元になった Apocalypso は長い間未発表だったが、2011年に正式発売された。両方を比べると、The Motelsがどのように実験的なニューウェーブから洗練されたポップへ移ったのかが分かりやすい。
Little Robbers(1983)
All Four One で見つけた方向を、さらに自然な形にした作品である。
「Suddenly Last Summer」を中心に、前作より柔らかく夢のようなサウンドが増えている。鋭いギターで緊張感を作る初期の方法から、キーボードや音の余韻を使って雰囲気を作る方法へと変わった。
ポップになったとはいえ、単純に明るくなったわけではない。むしろ音が美しく整ったことで、Davisの歌が持つ寂しさが以前よりはっきり聞こえるようになった。
Shock(1985)
Shock では1980年代半ばのメインストリーム・ポップへさらに接近した。
ドラムは大きく、シンセサイザーも華やかで、初期の細く乾いた音とはかなり違う。「Shame」に代表されるように、曲そのものもラジオで映える力強い作りになっている。
初期のニューウェーブらしい不安定さは薄くなったが、時代の音に合わせながらDavisの声を中心に置くという基本は変わっていない。The Motelsの1980年代における変化を知るうえで、終着点に近い作品である。
影響を受けたアーティストと音楽
Martha Davisの音楽的な背景には、ひとつのジャンルだけでは説明できない幅がある。
本人は若い頃にMotownを聴いていたことを語っており、Smokey RobinsonやFour Topsなどに代表される、強いメロディとR&Bの感覚はThe Motelsにもつながっている。ロック・バンドでありながら、ベースやリズムがしなやかに動く理由の一つとして理解できる。
David BowieやRoxy Musicの存在も重要である。Davisは、音楽と演劇的な表現を組み合わせた彼らによってロックに再び興味を持ったと語っている。The Motelsも単に曲を演奏するだけではなく、Davisの存在感や映像を含めた雰囲気作りを大切にしていた。
また、彼女はミュージカル、とくに West Side Story から強い刺激を受けたことも語っている。感情を大きなメロディで伝える感覚は、ニューウェーブだけを聴いて育ったミュージシャンとは少し違うThe Motelsの個性につながっている。
メンバーのMarty JourardもThe Beatles、The Hollies、Jr. Walker & the All Stars、Miles Davis、Trafficなど幅広い音楽からの影響を挙げている。The Motelsのサックスやキーボードが、一般的なギター中心のニューウェーブとは少し違って聞こえる背景には、こうした幅広い音楽経験もあった。
後のアーティストと音楽シーンへの影響
The Motelsは、ニューウェーブを代表する巨大なスタイルの発明者というより、その時代に存在した複数の音楽を独自の形で組み合わせたバンドとして見ると分かりやすい。
同時代のBlondieやThe Go-Go’sと同じく、女性ボーカルを前面に出したニューウェーブをアメリカのポップ市場へ広げたグループの一つだった。ただし、The Go-Go’sの明るく勢いのあるギター・ポップとはかなり印象が違う。The Motelsはテンポを落とし、孤独や不安を感じさせる空間を作ることを得意としていた。
また、シンセサイザーを使いながら完全なエレクトロニック・ポップにはならず、ギター、サックス、R&B的なリズムを残した点も特徴的である。この組み合わせは、後のオルタナティブ・ポップや、暗い雰囲気を持つ女性ボーカルのロックにもつながる感覚を持っている。
そして何より、「Only the Lonely」や「Suddenly Last Summer」が示した、華やかなポップの中に孤独を残す方法はThe Motelsの大きな個性だった。1980年代という時代の音を強く持ちながら、単なる懐かしいシンセ・ポップとして終わらない理由もそこにある。
まとめ
The Motelsは、1970年代末のロサンゼルス・ニューウェーブから登場し、1980年代前半にポップ・シーンへ進出したバンドである。
初期には鋭いギター、動くベース、サックスやキーボードを組み合わせた緊張感のある音を鳴らしていた。その後は All Four One や Little Robbers でサウンドを整理し、「Only the Lonely」「Suddenly Last Summer」のような美しく覚えやすいポップへ変わっていった。
その変化の中でも変わらなかったのがMartha Davisの声である。低く、少しかすれ、感情を抑えながら歌うその声によって、華やかな1980年代のサウンドにも孤独や喪失感が残った。
The Motelsは、ニューウェーブの冷たさとR&Bのしなやかさ、そして大人びたポップの美しさを結びつけたバンドだった。都会的で洗練されていながら、どこか寂しい。その独特のバランスが、現在でも彼らの音楽を印象深いものにしている。


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