
- イントロダクション:文学青年がギターを持ったとき、ポップは少しだけ苦くなる
- アーティストの背景と歴史:グラスゴーで生まれた文学的ギターポップ
- 音楽スタイルと影響:ジャングルポップ、文学性、都会の孤独
- 代表曲の楽曲解説
- アルバムごとの進化
- Rattlesnakes:文学青年の夢と毒を閉じ込めたデビュー作
- Easy Pieces:成功への接近とプロダクションの光沢
- Mainstream:大人のポップへ向かった最後のアルバム
- 1984–1989:短いキャリアを総括する編集盤
- 影響を受けたアーティストと音楽
- 影響を与えたアーティストと音楽シーン
- 同時代アーティストとの比較:The Smiths、Aztec Camera、Prefab Sproutとの違い
- ライブと近年の再評価:Commotionsの影は今も続く
- ファンと批評家の評価:気障さと美しさのあいだ
- Lloyd Cole and the Commotionsの魅力:抒情を知性で包むポップ
- まとめ:80年代ポップの紳士録に刻まれた、若き知性の肖像
- 関連レビュー
イントロダクション:文学青年がギターを持ったとき、ポップは少しだけ苦くなる
Lloyd Cole and the Commotionsは、1980年代のイギリス・インディーポップ/ギターポップを語るうえで欠かせないバンドである。中心人物は、イングランド出身のシンガーソングライターLloyd Cole。バンドはグラスゴーで結成され、1984年のデビューアルバムRattlesnakesによって、知的で文学的な歌詞、抑制されたギターサウンド、都会的なメランコリーを併せ持つ存在として一気に注目を集めた。Official Chartsによれば、RattlesnakesはUKアルバムチャートで最高13位、30週チャートインしている。オフィシャル チャート
彼らの音楽は、派手なニューウェーブでも、粗いパンクでも、単純な青春ギターポップでもない。そこには、Lou Reed、Bob Dylan、Television、The Byrds、Velvet Underground、そしてフランス映画やアメリカ文学の影がある。Lloyd Coleの歌詞には、Norman Mailer、Simone de Beauvoir、Grace Kelly、Eva Marie Saintといった固有名詞が自然に現れる。彼は恋愛を歌うときでさえ、単なる感情ではなく、引用、視線、自己演出、階級意識、若者の知的な背伸びを同時に描く。
Lloyd Cole and the Commotionsの魅力は、まさにその“背伸び”にある。20代前半の青年が、文学、映画、音楽、恋愛を抱え込みながら、自分を少し格好よく見せようとする。その姿は時に気障で、時に滑稽で、しかし非常に切実だ。「Perfect Skin」や「Are You Ready to Be Heartbroken?」を聴くと、恋をしているのは相手に対してだけではなく、“恋をしている自分”にも酔っていることが分かる。その自己意識の揺れが、彼らの音楽を80年代ポップの中でも特別なものにしている。
アーティストの背景と歴史:グラスゴーで生まれた文学的ギターポップ
Lloyd Cole and the Commotionsは、1980年代前半のグラスゴーで結成された。メンバーはLloyd Cole、ギタリストのNeil Clark、キーボードのBlair Cowan、ベースのLawrence Donegan、ドラムのStephen Irvine。グラスゴーは、Orange Juice、Aztec Camera、Josef Kなど、ポストパンク以降の知的でメロディアスなギターポップを育んだ土地でもある。Lloyd Cole and the Commotionsは、その流れの中にいながら、より文学的で、より大人びたポップソングを作った。
1984年、デビューアルバムRattlesnakesをリリース。アルバムはPaul Hardimanがプロデュースし、ロンドンのThe Gardenで録音された。発売は1984年10月12日で、ジャンルとしてはジャングルポップ、カレッジロック、フォークロックなどに位置づけられることが多い。
このアルバムは、当時のイギリス音楽シーンにおいて異質な輝きを放った。シンセポップがチャートを席巻し、ニューロマンティックの華やかさも残る時代に、Lloyd Cole and the Commotionsは、クリーンなギター、文学的な言葉、都会的な抒情を武器にした。AllMusicは後年、Rattlesnakesを「スマートでアイロニックな歌詞とフォークロックを基盤にしたメロディを持つカレッジロックの傑作」と評している。
1985年にはセカンドアルバムEasy Piecesを発表し、UKアルバムチャートで最高5位を記録。1987年にはサードアルバムMainstreamをリリースし、こちらもUKアルバムチャートで最高9位に入った。Official Chartsの記録では、Easy Piecesは18週、Mainstreamは20週チャートインしており、バンドが80年代半ばの英国ポップシーンで確かな商業的存在感を持っていたことが分かる。オフィシャル チャート
しかし、バンドとしての活動は長くは続かなかった。1989年にはコンピレーション1984–1989がリリースされ、その後Lloyd Coleはソロアーティストとして歩み始める。だが、Commotions時代の3枚のアルバムは、80年代英国ギターポップの中でも独自の輝きを放つ作品として今も聴き継がれている。
音楽スタイルと影響:ジャングルポップ、文学性、都会の孤独
Lloyd Cole and the Commotionsの音楽は、ジャングルポップ、フォークロック、インディーポップ、カレッジロックの要素を持つ。ギターは過度に歪まず、軽やかに鳴る。リズムは派手ではないが、曲の輪郭をしっかり支える。キーボードは控えめに色を添え、Lloyd Coleの声は少し低く、乾いたユーモアと繊細な傷を同時に含んでいる。
彼らのサウンドを支える重要人物が、ギタリストNeil Clarkである。彼のギターは、Lloyd Coleの文学的な言葉を、過剰にドラマチックにせず、透明な風景へ変える。The SmithsのJohnny Marrほど華麗に前へ出るわけではないが、Clarkのギターには、曲の感情を静かに照らす品のよさがある。
Lloyd Coleの歌詞は、80年代ポップの中でも特に文学的だ。だが、それは単に難しい単語を並べるという意味ではない。彼の歌詞には、若者が本や映画を通じて世界を理解しようとする感覚がある。The Guardianの「Rattlesnakes制作回想」でColeは、多くの曲が18〜19歳の頃にロンドンで法律を学んでいた時期に基づいており、実際の旅というより、本や映画から得た想像上の風景がアルバムの背景だったと語っている。
ここが非常に重要である。Rattlesnakesの世界は、リアルなドキュメントでありながら、同時に空想のヨーロッパであり、文学青年の頭の中にある映画的な風景でもある。彼は恋人を見つめながら、その背後にGrace KellyやNorman Mailerを見ている。つまり、現実の恋愛と文化的な引用が一体化しているのだ。
代表曲の楽曲解説
「Perfect Skin」
「Perfect Skin」は、Lloyd Cole and the Commotionsの代表曲であり、デビュー作Rattlesnakesの入口として非常に重要な楽曲である。UKシングルチャートでは最高26位を記録した。
この曲の主人公は、恋をしている。しかし、その恋は素朴ではない。相手の美しさを見つめながら、自分の知識、趣味、言葉遣いを通して相手を意味づけようとする。曲名の「Perfect Skin」は、一見すると単純な賛美のようだが、実際には相手をイメージとして消費してしまう危うさも含んでいる。
ギターは軽快で、メロディは明るい。しかし、歌詞にはどこか自己意識の過剰さが漂う。Lloyd Coleの魅力は、恋愛をロマンティックに描きながら、そのロマンティックさを少し斜めから見ているところだ。「Perfect Skin」は、80年代ギターポップの名曲であると同時に、若い知性が恋愛の前で少し滑稽になる瞬間を描いた曲でもある。
「Rattlesnakes」
「Rattlesnakes」は、バンドのデビューアルバムのタイトル曲である。シングルとしてはUKチャートで最高65位を記録した。
この曲には、Lloyd Coleの文学的世界観が凝縮されている。タイトルの“ガラガラヘビ”は、危険、誘惑、予感、逃げられない運命を思わせる。曲の中で描かれる女性像は、現実の人物であると同時に、映画や文学の中にいるような存在だ。
音楽的には、ギターの鋭さとメロディの滑らかさが共存している。The Smithsほど皮肉に満ちているわけではなく、Aztec Cameraほど透明でもない。Lloyd Cole and the Commotionsは、その中間にある。少し乾いていて、少し知的で、しかし感情は確かに揺れている。
「Forest Fire」
「Forest Fire」は、Rattlesnakesに収録された重要曲であり、シングルとしてUKチャート最高41位、ニュージーランドでは25位を記録した。
この曲は、タイトル通り“森の火事”のような情熱を描いている。ただし、Lloyd Coleの火は、ハードロックの炎のように燃え上がるものではない。もっと内側で広がる火である。気づかないうちに感情が燃え移り、やがて自分では止められなくなる。その静かな危険が曲全体に漂う。
メロディは抑制されているが、サビでは感情が広がる。Neil Clarkのギターも美しく、曲の抒情性を支えている。Lloyd Cole and the Commotionsの楽曲の中でも、特に“知性と感情のバランス”が優れた一曲である。
「Are You Ready to Be Heartbroken?」
「Are You Ready to Be Heartbroken?」は、Lloyd Coleの代表曲として長く愛されている楽曲である。タイトルだけで、すでに名曲の風格がある。「傷つく準備はできているか?」という問いは、恋愛だけでなく、青春そのものへの問いにも聞こえる。
この曲の魅力は、問いかけの形を取りながら、どこか自分自身にも向けられているところだ。相手に聞いているようで、本当は自分がすでに傷つく準備をしている。恋愛を始めることは、失恋の可能性を引き受けることでもある。その苦さを、Lloyd Coleは美しいメロディに乗せる。
2025年のThe Guardianのライブレビューでは、現在のLloyd Coleがこの曲を歌う場面について、年齢を重ねた声がより温かく豊かになり、時間が曲の魅力を損なっていないと評している。ガーディアン 若い頃に書かれた曲が、年齢を重ねることで別の深みを持つ。「Are You Ready to Be Heartbroken?」は、その典型である。
「Brand New Friend」
「Brand New Friend」は、1985年のセカンドアルバムEasy Piecesを代表するシングルである。Official Chartsによれば、同曲はUKシングルチャートで最高19位、9週チャートインした。オフィシャル チャート
この曲は、Lloyd Cole and the Commotionsがより大衆的なポップへ接近した瞬間を示している。メロディは明快で、サウンドも前作よりラジオ向きだ。しかし、歌詞には相変わらずColeらしい距離感がある。新しい友人、新しい関係、新しい自分。そのどれもが希望であると同時に、どこか空虚にも感じられる。
Easy Pieces期の彼らは、初期の文学的な鋭さを保ちながら、より大きなポップグループになろうとしていた。「Brand New Friend」は、その試みが最も成功した曲のひとつである。
「Lost Weekend」
「Lost Weekend」もまた、Easy Piecesを代表する楽曲である。Official ChartsではUKシングルチャート最高17位を記録し、バンドにとって最も高いチャート成績を残したシングルのひとつとなった。オフィシャル チャート
タイトルは、Billy Wilderの映画The Lost Weekendを思わせる。つまり、週末の失われた時間、酒、後悔、逃避、自己破壊のイメージがある。だが、曲はそこまで暗く沈まない。むしろ軽快なポップソングとして進む。このギャップがLloyd Coleらしい。
「Lost Weekend」には、80年代中盤の洗練されたギターポップの空気がある。サウンドは明るく、コーラスも印象的だ。しかし、歌われている感覚は、楽しい週末の後に残る虚しさに近い。遊び、恋愛、知性、退屈。そのすべてが、少しだけ苦いポップに変わっている。
「Cut Me Down」
「Cut Me Down」は、Easy Pieces期のもうひとつの重要曲である。Official ChartsではUKシングルチャート最高38位を記録した。オフィシャル チャート
この曲では、Lloyd Coleのメランコリックな側面がより強く出ている。タイトルの「切り倒してくれ」という言葉には、自己嫌悪、疲労、関係性の終わりがにじむ。だが、曲は過度に悲劇的ではなく、静かなポップソングとして聴ける。
Lloyd Cole and the Commotionsの音楽は、感情を叫ばない。むしろ、少し距離を取って眺める。その距離感が、悲しみをより長く残す。「Cut Me Down」は、彼らの抑制された悲しみがよく表れた曲である。
「My Bag」
「My Bag」は、1987年のサードアルバムMainstreamからのシングルで、Official ChartsではUKシングルチャート最高46位を記録した。オフィシャル チャート
この曲は、Lloyd Cole and the Commotionsの中でもファンクやソウルの要素が感じられる作品である。初期のギターポップ的な繊細さから、よりリズミックで大人びたサウンドへ進もうとする意志が見える。
タイトルの「My Bag」には、自分の趣味、自分のスタイル、自分の抱えたものというニュアンスがある。80年代後半の彼らは、もはや文学青年のギターポップだけではなく、より広いポップフィールドへ向かおうとしていた。「My Bag」は、その変化の象徴である。
「Jennifer She Said」
「Jennifer She Said」は、Mainstream期の代表曲であり、Official ChartsではUKシングルチャート最高31位を記録した。オフィシャル チャート
この曲には、Commotions後期の洗練と哀愁がある。タイトルに女性名が入っている点もLloyd Coleらしい。彼の曲に登場する女性たちは、しばしば現実の恋人であると同時に、文学や映画の登場人物のような距離を持つ。Jenniferもまた、具体的でありながら象徴的な存在だ。
サウンドは前作までよりも大きく、プロダクションも80年代後半らしい光沢を帯びている。しかし、Coleの声には相変わらず乾いた孤独がある。「Jennifer She Said」は、バンドが終わりへ向かう時期に生まれた、成熟したポップソングである。
アルバムごとの進化
Rattlesnakes:文学青年の夢と毒を閉じ込めたデビュー作
1984年のRattlesnakesは、Lloyd Cole and the Commotionsの最高傑作として語られることが多い。Official ChartsではUKアルバムチャート最高13位、30週チャートイン。デビュー作としては非常に強い存在感を示した。オフィシャル チャート
このアルバムには、若い知性のきらめきと危うさが詰まっている。「Perfect Skin」、「Rattlesnakes」、「Forest Fire」、「Are You Ready to Be Heartbroken?」。どの曲にも、恋愛と引用、抒情と皮肉、若さと背伸びが同居している。
The Guardianの制作回想でColeが語ったように、アルバムの風景は実際の旅よりも、本や映画から生まれた想像上のものだった。ガーディアン それがこの作品を特別にしている。Rattlesnakesは、リアルな青春の記録ではなく、青春が自分を映画の中に置こうとする瞬間の記録なのだ。
AllMusicが「80年代最高のデビュー作のひとつ」と位置づけたように、このアルバムは知的なギターポップのひとつの理想形である。ウィキペディア シンプルなバンドサウンドでありながら、言葉の密度と感情の陰影が深い。80年代英国ポップの紳士録を開くなら、最初のページに置くべき作品だ。
Easy Pieces:成功への接近とプロダクションの光沢
1985年のEasy Piecesは、Lloyd Cole and the Commotionsがより広いポップフィールドへ進んだアルバムである。UKアルバムチャートでは最高5位を記録し、バンド最大級の商業的成功を収めた。オフィシャル チャート
この作品には、「Brand New Friend」、「Lost Weekend」、「Cut Me Down」などが収録されている。前作よりもプロダクションは大きく、サウンドはよりラジオ向きになった。メロディも明確で、バンドとしての自信が感じられる。
一方で、Rattlesnakesの持っていた文学的な鋭さや、初期衝動の透明感を好むリスナーにとっては、やや整いすぎていると感じられるかもしれない。だが、これは単なる妥協ではない。バンドがポップソングの力をより意識し、80年代中盤の音楽シーンで生き残るために変化した結果である。
Easy Piecesは、Lloyd Cole and the Commotionsが“知的なインディーバンド”から“チャートで戦えるポップバンド”へ進もうとした作品だ。その試みは完全に成功したわけではないかもしれないが、「Lost Weekend」のような楽曲には、彼らならではの知性とポップセンスが見事に結びついている。
Mainstream:大人のポップへ向かった最後のアルバム
1987年のMainstreamは、Lloyd Cole and the Commotionsの3枚目にして最後のスタジオアルバムである。Ian Stanleyがプロデュースし、1987年10月26日にリリースされた。UKではPolydor、アメリカではCapitolから発売され、UKアルバムチャートでは最高9位を記録した。
このアルバムのタイトルは、どこか皮肉めいている。Mainstream、つまり主流。Lloyd Cole and the Commotionsが本当にメインストリームへ向かおうとしたのか、それともその言葉自体を少し斜めから見ていたのか。おそらく、その両方である。
「My Bag」、「Jennifer She Said」、「From the Hip」などでは、サウンドがより大きく、リズムも洗練され、80年代後半のポッププロダクションに近づいている。だが、初期の透明なギターと文学的な緊張感はやや薄れ、バンドとしての方向性も揺れていたように感じられる。
Wikipedia系の整理では、MainstreamはUKで9位に達した一方、アメリカではチャート入りせず、批評的にも全員が歓迎したわけではなく、Commotionsのアルバムの中で唯一アメリカで10万枚以上売れなかった作品とされている。ウィキペディア つまり、このアルバムは成功と停滞の両方を抱えていた。
結果的に、Mainstreamはバンドの終章となった。だが、終わりの作品として聴くと興味深い。そこには、若い文学青年のギターポップから、大人のポップへ進もうとした努力と、その難しさが刻まれている。
1984–1989:短いキャリアを総括する編集盤
1989年にリリースされた1984–1989は、Lloyd Cole and the Commotionsの活動を総括する編集盤である。Official Chartsによれば、同作はUKアルバムチャートで最高14位、7週チャートインした。オフィシャル チャート
この編集盤を聴くと、彼らのキャリアがいかに短く、しかし濃密だったかが分かる。Rattlesnakesの文学的な輝き、Easy Piecesのポップな拡大、Mainstreamの成熟と迷い。わずか5年ほどの間に、バンドは明確な変化を遂げた。
Lloyd Cole and the Commotionsは、長寿バンドではなかった。だが、短いからこそ美しい種類のバンドでもある。彼らの音楽には、20代の知性と恋愛が持つ一瞬の輝きが封じ込められている。その輝きは、長く続ければ薄まってしまったかもしれない。
影響を受けたアーティストと音楽
Lloyd Cole and the Commotionsの音楽には、Bob Dylan、Lou Reed、Leonard Cohen、The Velvet Underground、Television、The Byrds、そして60〜70年代のフォークロックやアートロックの影響が感じられる。
特にLou Reed的な語り口は重要である。Coleの歌は、感情をただ吐露するのではなく、人物、場所、引用、態度を通して物語を作る。Bob Dylanからは言葉の密度と皮肉を、The Byrdsからはギターの透明な響きを、Televisionからは都会的な緊張感を受け継いでいるように聞こえる。
また、音楽以外の影響も大きい。Norman Mailer、Simone de Beauvoir、映画スター、文学、フランス的なロマンティシズム。Cole自身がThe Guardianで語ったように、彼のイメージは本や映画から大きく作られていた。ガーディアン だから彼の曲は、ポップソングでありながら、短編小説や映画のワンシーンのようにも響く。
影響を与えたアーティストと音楽シーン
Lloyd Cole and the Commotionsは、80年代以降の知的なギターポップ、カレッジロック、インディーポップに大きな影響を与えた。彼らのように、文学的な歌詞とメロディアスなギターサウンドを結びつける方法は、後の多くのソングライターにとって重要なモデルになった。
Belle and Sebastian、The Divine Comedy、Trashcan Sinatras、The Sundays、Prefab Sprout、さらには一部のアメリカン・カレッジロック系アーティストにも、Lloyd Cole的な知性と抒情の影を見ることができる。特に、恋愛をただ感傷的に歌うのではなく、文化的な引用や自己意識を通じて描く方法は、インディーポップの重要な語法になった。
また、Lloyd Coleのソロ活動も長く続いており、2023年のOn Painなど近年の作品も発表されている。Official Chartsでは、ソロ名義のOn Painが2023年にUKアルバムチャートで最高80位を記録したことが確認できる。オフィシャル チャート Commotions解散後も、彼のソングライティングは形を変えながら続いている。
同時代アーティストとの比較:The Smiths、Aztec Camera、Prefab Sproutとの違い
Lloyd Cole and the Commotionsを同時代の英国インディーポップ勢と比較すると、その立ち位置がより鮮明になる。
The Smithsと比べると、どちらも文学性とギターポップを結びつけたバンドである。しかし、Morrisseyが労働者階級的な孤独、性的曖昧さ、ユーモア、自己憐憫を劇的に歌ったのに対し、Lloyd Coleはより大陸的で、映画的で、知的なポーズを取る。The Smithsが北イングランドの曇天なら、Lloyd Cole and the Commotionsは本と煙草とカフェの午後である。
Aztec Cameraと比べると、Roddy Frameの音楽はより透明で、若い感性の純度が高い。一方、Lloyd Coleはより皮肉っぽく、文学的な装飾を好む。Aztec Cameraが澄んだ青春なら、Lloyd Coleは少し背伸びした青春だ。
Prefab Sproutと比較すれば、Paddy McAloonはより作曲家肌で、ポップソングを精巧な小宇宙として作る。一方、Lloyd Coleは言葉とキャラクターの人である。彼の曲には、登場人物の視線、服装、読んでいる本、喋り方まで見えてくる。そこが彼の独自性だ。
ライブと近年の再評価:Commotionsの影は今も続く
Lloyd Coleは現在もライブ活動を続けている。公式サイトでは、2025年も「troubadour mode」、つまり一人で巡る形のツアーを行っていることが語られている。そこでは、2023年のOn Painリリース後に久しぶりにバンドを組んだこと、2023年後半から2024年初頭にかけてバンドで演奏したことにも触れられている。lloydcole.com
また、2023年には元CommotionsのBlair CowanとNeil Clarkを含む編成でツアーを行ったことも報じられている。charleshutchpress.co.uk さらに2025年のThe Guardianのライブレビューでも、Neil ClarkとBlair Cowanがバンドに加わっていることに触れられ、Commotions時代の楽曲が今も重要な意味を持っていることが示されている。
この事実は大きい。Lloyd Coleはソロアーティストとして長いキャリアを築いたが、Commotions時代の曲は今も彼のライブの中心にある。しかもそれは単なる懐メロではない。「Are You Ready to Be Heartbroken?」のような曲は、年齢を重ねた声で歌われることで、若い頃とは別の意味を持つ。
ファンと批評家の評価:気障さと美しさのあいだ
Lloyd Cole and the Commotionsは、批評家から高く評価される一方で、その気障さや文学的な引用の多さを苦手とする人もいる。実際、Rattlesnakesの後年の評価でも、Mojoが「時代を超えたポップアルバム」と称賛する一方、Qは「苛立たしくも魅力的」と評したことが紹介されている。
この“苛立たしさ”は、Lloyd Coleの魅力と表裏一体である。彼は時に知的すぎる。時に気取りすぎる。だが、それがなければLloyd Coleではない。彼の歌の主人公は、自分が何を読んでいるか、どんな映画を知っているか、どんな服を着ているかを意識している。その自己意識が、若さの滑稽さと美しさを同時に生む。
ファンにとって、Lloyd Cole and the Commotionsの曲は、単なる80年代の思い出ではない。本を読みすぎた若者が、恋愛に失敗しながらも、なお美しい言葉を探そうとする記録である。その姿は、時代が変わっても古びにくい。
Lloyd Cole and the Commotionsの魅力:抒情を知性で包むポップ
Lloyd Cole and the Commotionsの最大の魅力は、抒情を知性で包むところにある。感情をそのまま叫ぶのではなく、引用、比喩、距離感、皮肉を通して表現する。だから彼らの曲は、聴いた瞬間に泣かせるというより、あとからじわじわ効いてくる。
「Perfect Skin」には恋の眩しさがある。「Rattlesnakes」には危険な女性像がある。「Forest Fire」には静かに広がる情熱がある。「Are You Ready to Be Heartbroken?」には、失恋を予感しながら恋に向かう若さがある。
彼らの音楽は、派手に踊らせるものではない。だが、心の中で長く鳴る。まるで、読み終えた小説の一節が何日も頭から離れないように、Lloyd Coleの歌詞とメロディは、時間をかけてリスナーの中に残る。
まとめ:80年代ポップの紳士録に刻まれた、若き知性の肖像
Lloyd Cole and the Commotionsは、知性と抒情が揺れる80年代ポップの紳士録である。1984年のRattlesnakesで、彼らは文学的な歌詞と透明なギターサウンドを結びつけ、英国ギターポップの中に独自の場所を作った。Easy Piecesではより大きなポップへ接近し、Mainstreamでは大人のサウンドへ進もうとした。そして短い活動期間の後、Lloyd Coleはソロとして長い道を歩むことになる。
彼らの音楽は、単純な青春ポップではない。そこには本、映画、恋愛、自己演出、皮肉、孤独がある。若者が世界を理解するために、文学や映画の言葉を借りながら、それでも自分の感情に追いつけずにいる。その姿が、Lloyd Cole and the Commotionsの曲には刻まれている。
「Are You Ready to Be Heartbroken?」という問いは、今も有効だ。恋をすること、音楽を聴くこと、青春を思い出すこと。それらはすべて、少し傷つく準備を必要とする。Lloyd Cole and the Commotionsは、その傷を美しいギターポップに変えたバンドである。知的で、気障で、少し不器用で、そして忘れがたい。彼らは80年代ポップの中で、今も静かにページをめくられ続ける紳士録なのだ。

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