
発売日:1980年2月4日
ジャンル:パンク・ロック/ポップ・パンク/ロックンロール/パワー・ポップ
概要
Ramonesの5作目『End of the Century』は、バンドのキャリアの中でも特に議論を呼ぶアルバムである。1976年のデビュー作『Ramones』で、彼らはニューヨーク・パンクの最重要バンドとして登場した。短い曲、速いテンポ、単純化されたコード進行、反復されるフレーズ、革ジャンとジーンズという記号性。Ramonesは、1970年代半ばの肥大化したロックに対する反動として、ロックンロールを最小限の要素へ削ぎ落とした存在だった。
しかし『End of the Century』では、そのミニマルなパンク・サウンドに大きな変化が加えられている。最大の要因は、プロデューサーにPhil Spectorを迎えたことである。Spectorは1960年代ポップスにおける「ウォール・オブ・サウンド」の創始者として知られ、The Ronettes、The Crystals、Ike & Tina Turner、The Righteous Brothersなどの作品で、巨大で重層的な音響を作り上げた人物である。Ramonesの簡潔で荒いパンクと、Spectorの壮麗で濃密なポップ・プロダクション。この組み合わせ自体が、本作の最大の特徴であり、同時に矛盾でもある。
Ramonesはデビュー以来、批評家から高い評価を受けながらも、アメリカ本国では大規模な商業的成功には届いていなかった。彼らの楽曲にはもともと1960年代ガール・グループ、サーフ・ロック、バブルガム・ポップの影響が強く存在しており、Joey Ramoneの歌唱にも、甘く切ないポップ・メロディへの志向があった。そのため、Phil Spectorとの仕事は表面的には意外に見えても、バンドの深層にあったポップ性を拡大する試みとして理解できる。
本作は、Ramonesがパンクの速度と粗さを保ったまま、より広いリスナーへ届くポップ・アルバムを作ろうとした作品である。ただし、その結果は単純な成功ではない。Spectorのプロダクションは、Ramonesの楽曲に厚みとドラマを与える一方で、初期作品にあった乾いた勢いや即発性を弱めてもいる。Johnny Ramoneのギターは、これまでのような一直線のノイズの壁ではなく、より整理され、時に重層的なサウンドの一部として扱われる。Marky Ramoneのドラムも、初期の衝動的な突進だけでなく、楽曲ごとの構成感を支える役割を担う。
歌詞の面では、RamonesらしいB級映画的なユーモア、疎外感、恋愛への不器用さ、反社会的な衝動、ポップ文化への愛着が引き続き存在する。しかし本作では、それらがより大きなスタジオ・サウンドの中に置かれることで、奇妙なコントラストが生まれている。壊れた若者たちの歌が、60年代ポップの栄光を思わせる壮麗な音響で包まれる。この違和感こそが『End of the Century』の魅力である。
音楽史的には、本作はパンクとポップの関係を考えるうえで重要なアルバムである。Ramonesはしばしばパンクの原型として語られるが、彼らの音楽の根底には常にポップ・ソングへの愛があった。後のポップ・パンク、メロディック・パンク、パワー・ポップ系のバンドは、Ramonesのこの側面を受け継いでいく。『End of the Century』は、そのポップ性を最も露骨に拡大した作品であり、Green Day、The Queers、Screeching Weasel、The Mr. T Experienceなど、後続のメロディックなパンク勢を理解するうえでも重要な位置にある。
日本のリスナーにとって本作は、初期Ramonesの荒々しさとは異なる入口になりうるアルバムである。「Do You Remember Rock ’n’ Roll Radio?」のようなノスタルジックなロック賛歌や、「Baby, I Love You」のような異色のバラードは、パンクに馴染みが薄いリスナーにも聴きやすい。一方で、初期の切れ味を求めるリスナーには過剰に装飾的に感じられる可能性もある。つまり『End of the Century』は、Ramonesの本質を歪めた作品であると同時に、彼らの隠れた本質を照らし出した作品でもある。
全曲レビュー
1. Do You Remember Rock ’n’ Roll Radio?
アルバム冒頭を飾る「Do You Remember Rock ’n’ Roll Radio?」は、『End of the Century』の方向性を最も明確に示す楽曲である。サックス、キーボード、厚いコーラス、派手なプロダクションが加えられ、従来のRamonesのシンプルなギター・パンクとは大きく異なる音像が提示される。これは単なるパンク・ナンバーではなく、ロックンロール史へのラブレターである。
歌詞では、ラジオを通じてロックンロールを聴いていた時代への郷愁が語られる。Jerry Lee Lewis、John Lennon、T. Rexなど、過去のロック/ポップ文化を想起させる名前や感覚が散りばめられ、Ramonesが自分たちを突然変異的なパンク・バンドではなく、1950年代から60年代のロックンロールの延長線上に置いていたことが分かる。彼らにとってパンクとは、伝統の破壊であると同時に、ロックンロールの原初的な興奮を取り戻す運動でもあった。
音楽的には、Phil Spectorの影響が非常に強い。厚い音の壁、祝祭的なホーン、ドラマティックな展開は、Ramonesの普段の切り詰められた音楽とは対照的である。しかし、曲の核にあるメロディは明快で、Joey Ramoneの声はその中で独特の切なさを放つ。彼の歌唱には、懐かしさだけでなく、かつてのロックンロールの輝きが失われてしまったことへの不安も含まれている。
この曲は、1980年という時代にも深く関わっている。1970年代のパンクの爆発はすでに過ぎ、ロックはニューウェイヴ、ポストパンク、アリーナ・ロック、ディスコなど多様な方向へ分裂していた。その中でRamonesは、過去のロックンロール・ラジオの記憶に立ち返る。これは懐古であると同時に、ロックの原点を再確認する宣言でもある。
2. I’m Affected
「I’m Affected」は、Ramonesらしいシンプルなパンク・ロックの骨格を持ちながら、本作特有の厚い音作りによって仕上げられた楽曲である。タイトルの“I’m Affected”は、自分が何かに影響され、揺さぶられ、正常ではいられない状態を示している。Ramonesの歌詞では、心の不安定さや社会への不適応がしばしばユーモラスに描かれるが、この曲にもその感覚がある。
サウンドは比較的ストレートで、ギターのリフとドラムの推進力が中心となる。ただし初期作品に比べると音は丸く、スタジオで磨かれている。Johnny Ramoneのギターは、荒く突き刺すというよりも、重ねられた音響の中で厚みを形成する役割を担っている。これは本作全体に共通する特徴であり、パンクの即効性とポップ・プロダクションの密度がせめぎ合っている。
歌詞は多くを説明しないが、何かに取り憑かれたような状態、外部からの刺激に過敏に反応してしまう感覚を伝える。Ramonesの魅力は、複雑な心理分析を行わず、短いフレーズと単純な反復によって、若者の落ち着かなさや神経質なエネルギーを表現する点にある。この曲もその方法論を維持している。
「I’m Affected」は、アルバムの中で比較的従来のRamonesに近い楽曲でありながら、音像の違いによって本作ならではの質感を持っている。初期の衝動とSpector流の音響が完全には融合しきらない、その微妙な違和感も含めて興味深い一曲である。
3. Danny Says
「Danny Says」は、『End of the Century』の中でも特にメロディアスで、Joey Ramoneの繊細な歌唱が際立つ楽曲である。タイトルの“Danny”は、バンドのマネージャーであったDanny Fieldsを指すとされ、歌詞にはツアー生活の疲労、移動、待機、孤独が描かれる。Ramonesのイメージには、単純で騒がしいパンク・バンドという側面が強いが、この曲はその裏にある疲れと寂しさを静かに浮かび上がらせる。
歌詞では、ロサンゼルス、ロンドン、ニューヨークなどを移動するバンドの生活が断片的に描かれる。表面的には華やかに見えるロック・バンドのツアーも、実際には退屈な待ち時間、孤独なホテル、繰り返される移動の連続である。Ramonesはここで、ロックンロールの夢の裏側にある日常的な消耗を歌っている。
音楽的には、パンクの速度を抑えたポップ・バラードに近い。メロディは非常に美しく、Joeyの声には少年のような儚さがある。Phil Spector的な音の厚みは、ここでは曲の切なさを支える方向に働いている。過度に激しくならず、むしろ淡々と進むことで、ツアー生活の空虚さがよく伝わる。
「Danny Says」は、Ramonesが単なる高速パンク・バンドではなく、優れたメロディを書くバンドであったことを証明する重要曲である。後に多くのファンやアーティストから高く評価されるのも、この曲がRamonesの隠れた叙情性を最も美しく表しているからである。
4. Chinese Rock
「Chinese Rock」は、Ramonesの楽曲の中でも特にドラッグ文化と都市の退廃を強く感じさせる曲である。この曲はDee Dee RamoneとRichard Hellに関連する楽曲として知られ、ニューヨーク・パンクの暗い側面を反映している。タイトルの“Chinese Rock”はヘロインを指す俗語として使われ、歌詞には薬物依存の現実が非常に直接的に描かれる。
音楽的には、重く粘りのあるリフが印象的で、Ramonesの中でも特にダークな感触を持つ。初期の明るく馬鹿馬鹿しいパンク・ナンバーとは異なり、この曲には逃げ場のない閉塞感がある。テンポは極端に速いわけではないが、ギターの反復とボーカルの投げやりな響きが、依存状態の単調さと絶望を表している。
歌詞では、部屋に閉じこもり、薬物に支配される生活が描かれる。Ramonesの歌詞はしばしば漫画的、B級映画的に誇張されるが、この曲はより生々しい。ニューヨーク・パンク・シーンの周辺にあったドラッグ、貧困、疎外、自己破壊が、短いフレーズの中に凝縮されている。
Phil Spectorの厚いプロダクションは、この曲に奇妙な重さを与えている。初期Ramonesのような乾いた音で演奏されていれば、もっと荒々しいストリート感が前面に出たかもしれない。しかし本作の音像では、曲がより鈍く、暗く、閉じた空間の中で鳴っているように聴こえる。そのため「Chinese Rock」は、アルバムの中でも特に不穏な存在感を放っている。
5. The Return of Jackie and Judy
「The Return of Jackie and Judy」は、初期Ramonesらしいポップでコミカルなキャラクター性を持つ楽曲である。タイトルからも分かるように、過去の楽曲「Judy Is a Punk」に登場するような人物像を想起させ、Ramonesが作り上げた架空のパンク・ユース文化の続きを感じさせる。
サウンドは比較的軽快で、短く、明快で、勢いがある。Ramonesの魅力の一つは、複雑なストーリーを展開せずとも、名前や短いフレーズだけで奇妙なキャラクターを立ち上げる点にある。JackieやJudyは詳細に描かれる人物ではなく、パンク的な自由、無鉄砲さ、若者の反抗心の記号として機能している。
音楽的には、Spectorのプロダクション下でもRamones本来のスピード感が比較的残っている。ギターは直線的で、リズムもシンプルに前進する。曲の短さと反復性は、初期作品の方法論を受け継いでおり、アルバムの中で軽快なアクセントになっている。
歌詞の内容は深刻ではないが、Ramonesの世界観を理解するうえでは重要である。彼らのパンクは政治的理論や高度な社会批評よりも、奇妙な若者たち、B級映画、ラジオ、恋愛、退屈な郊外生活といった素材から成り立っていた。この曲は、その漫画的でポップな側面を再確認させる楽曲である。
6. Let’s Go
「Let’s Go」は、タイトル通り極めて単純な衝動を持ったロックンロール・ナンバーである。Ramonesの楽曲において「行こう」「やろう」といった命令形のフレーズは重要であり、それは深い説明を拒否する行動の音楽としてのパンクを象徴している。この曲も、複雑な物語や心理描写よりも、瞬間的な勢いを重視している。
サウンドはストレートで、ギター、ベース、ドラムが一体となって前へ進む。『End of the Century』の中では比較的パンク色が強く、初期のRamonesに近い感触を持つ。ただし、音はやはり厚く、乾いたスピード感よりも、スタジオで整えられた重みがある。
歌詞は反復的で、言葉の意味よりもリズムと掛け声として機能する。Ramonesにとって歌詞は、時に詳細なメッセージを伝えるものではなく、音の一部として曲のエネルギーを増幅するものだった。「Let’s Go」という言葉は、その最も単純な形であり、聴き手を考える前に動かす。
この曲は、アルバム内でSpector的な装飾が強い楽曲群の間に、Ramones本来の即効性を取り戻す役割を果たしている。大きな代表曲ではないが、バンドの基本的なパンク衝動を確認できる楽曲である。
7. Baby, I Love You
「Baby, I Love You」は、『End of the Century』最大の異色曲であり、Phil Spectorの影響が最も露骨に表れた楽曲である。The Ronettesの楽曲をカバーしたこの曲は、ほとんどRamonesのパンク・ロックというより、1960年代ガール・グループ・ポップの再現に近い。ストリングス、厚いコーラス、ドラマティックなアレンジが前面に出ており、Johnny Ramoneのギター主体のバンド・サウンドは大きく後退している。
歌詞は非常にシンプルなラブソングである。相手への愛を率直に伝える内容であり、Ramonesの皮肉やB級感、奇妙なユーモアはほとんど見られない。しかし、Joey Ramoneが歌うことで、この曲には独特の不器用さと切実さが生まれる。彼の声は甘くもあり、どこか孤独でもあり、完璧なポップ・バラードの中に異物感を残す。
この曲は、Ramonesのファンの間でも評価が分かれやすい。初期のパンク・サウンドを期待するリスナーにとっては、あまりに装飾的で、バンドの本質から離れているように感じられる。一方で、Ramonesがもともと60年代ポップに強い影響を受けていたことを考えれば、このカバーは彼らのルーツを正面から示したものともいえる。
「Baby, I Love You」は、Ramonesのアルバムに収められた楽曲としては異例だが、『End of the Century』という作品の性格を理解するうえでは欠かせない。パンクと60年代ポップの距離が、実は想像以上に近かったことを示す楽曲であり、同時にその融合がどれほど危ういものであるかも示している。
8. I Can’t Make It on Time
「I Can’t Make It on Time」は、Ramonesらしい焦燥感と不器用な感情が表れた楽曲である。タイトルは「時間に間に合わない」という意味だが、単なる遅刻の歌としてだけでなく、人生や恋愛、社会的期待に追いつけない感覚としても読める。Ramonesの楽曲では、こうした日常的な失敗感がパンクのエネルギーへ変換されることが多い。
音楽的には、比較的メロディアスで、ポップ・パンク的な要素が強い。ギターはシンプルなコード進行を刻み、リズムは軽快に進む。Joeyのボーカルは、焦っているようでありながら、どこか諦めたような響きも持つ。この曖昧な感情が、曲にユーモアと切なさを与えている。
歌詞のテーマは、現代的な時間感覚とも結びつく。何かに追われ、予定に遅れ、期待に応えられない。Ramonesの主人公たちは、しばしば社会の速度や規範にうまく適応できない存在として描かれる。この曲でも、その不適応が大げさな悲劇ではなく、短くキャッチーなポップ・ソングとして表現される。
「I Can’t Make It on Time」は、アルバムの中で目立つ大曲ではないが、Ramonesの本質的な魅力である「失敗する若者のポップ・ソング」をよく示している。後のポップ・パンクに通じるメロディ感覚も感じられる一曲である。
9. This Ain’t Havana
「This Ain’t Havana」は、Ramonesらしい皮肉と勢いを持った楽曲である。タイトルは「ここはハバナじゃない」という意味で、具体的な政治的主張というより、場所や状況に対するズレた反応、あるいは混乱した現実感を表すフレーズとして機能している。Ramonesの歌詞には、地名や固有名詞が唐突に登場し、B級映画的な世界を作ることが多いが、この曲もその一例である。
サウンドは比較的ハードで、ギターの押し出しが強い。テンポもよく、アルバム後半に勢いを与えている。Spectorのプロダクションによって音は厚くなっているが、曲の骨格はシンプルなパンク・ロックである。短いフレーズを繰り返しながら前進する構造は、Ramonesの基本形に近い。
歌詞は明確な物語を追うというより、断片的なイメージと語感の面白さで進む。Ramonesの魅力は、意味の深さだけにあるのではない。言葉の響き、馬鹿馬鹿しさ、勢い、記号としての地名や人物名が、曲のエネルギーを作る。この曲でも、意味を説明しすぎないことで、独特のユーモアと混乱が生まれている。
「This Ain’t Havana」は、Ramonesのパンク的な荒さと、本作の厚い音作りが比較的うまく噛み合った楽曲である。アルバム全体の中では地味ながら、バンドの奇妙な言語感覚とロックンロールの勢いを味わえる。
10. Rock ’n’ Roll High School
「Rock ’n’ Roll High School」は、Ramonesの代表的なポップ・パンク・アンセムであり、同名映画との関わりでも知られる楽曲である。タイトルから分かる通り、学校、退屈な規律、若者の反抗、ロックンロールによる解放という、Ramonesの基本的なテーマが非常に分かりやすく表現されている。
歌詞では、学校の勉強や規則よりもロックンロールこそが重要だという、シンプルで反抗的なメッセージが歌われる。これは高度な政治性を持つパンクではないが、若者文化としてのパンクの本質を突いている。Ramonesにとってロックンロールは、社会を理論的に変えるものというより、退屈な日常を破壊する即効性のある手段だった。
音楽的には、非常にキャッチーで、サビの高揚感も強い。初期Ramonesの高速感と、ポップ・ソングとしての分かりやすさが見事に結びついている。Spectorのプロダクションは、この曲により大きなスケール感を与えており、映画的な明るさとも相性がよい。
「Rock ’n’ Roll High School」は、Ramonesのパンクが持つユーモア、反抗心、ポップ性を凝縮した曲である。深刻な怒りではなく、馬鹿馬鹿しく、楽しく、しかし確実に大人の秩序に背を向ける。その姿勢は、後のポップ・パンクや青春パンクに大きな影響を与えた。
11. All the Way
「All the Way」は、アルバム終盤に置かれたストレートなロック・ナンバーである。タイトルが示すように、最後まで突き進む、やり切るという前向きな衝動が中心にある。Ramonesの楽曲では、複雑な迷いよりも、単純な行動原理がしばしば重要になる。この曲も、その衝動を短く分かりやすい形で表している。
サウンドはシンプルで、ギターの反復とリズムの推進力が中心である。『End of the Century』の中では、比較的パンク色が強く、余計な装飾も少なめに感じられる。もちろん初期作品ほどの乾いた粗さはないが、曲の骨格はRamonesらしい。
歌詞は、説明的ではなく、掛け声に近い。Ramonesの音楽では、言葉がスローガンのように機能することが多い。短いフレーズが繰り返されることで、聴き手は意味を考えるよりも、そのリズムと勢いに乗ることになる。「All the Way」も、そうした身体的なパンク・ソングとして成立している。
この曲は、アルバム内で大きな物語を担うわけではないが、Ramonesの基本的なエネルギーを保つ役割を果たしている。ポップ化された本作の中で、バンドの原点を思い出させる楽曲である。
12. High Risk Insurance
アルバムの最後を飾る「High Risk Insurance」は、社会風刺的なニュアンスを含んだパンク・ナンバーである。タイトルは「高リスク保険」を意味し、現代社会における不安、制度、危険、管理される生活を皮肉るような響きを持つ。Ramonesは政治的なバンドとして語られることは少ないが、彼らの歌詞には時に社会への不信や冷笑が表れる。
音楽的には、比較的攻撃的で、アルバムの終盤を引き締める。ギターは直線的で、リズムも勢いを持つ。Spectorの厚い音作りの中でも、曲自体のパンク的な鋭さは残っている。アルバムを華やかなポップ・サウンドだけで終わらせず、Ramonesらしい不満と毒を最後に提示している点が重要である。
歌詞では、危険を管理しようとする社会、保険や制度によって生活が分類される感覚が背景にある。Ramonesの表現は理論的な批判ではなく、短いフレーズと勢いによる違和感の提示である。彼らは社会の仕組みを詳細に分析するより、その中で生きる若者の苛立ちや馬鹿馬鹿しさを音にする。
「High Risk Insurance」は、『End of the Century』の締めくくりとして、Ramonesのパンク的な本能を改めて示す楽曲である。ポップ化、装飾化、Spector的音響の中を通過しても、バンドの根底にある反抗的な衝動は消えていないことを示している。
総評
『End of the Century』は、Ramonesのディスコグラフィーの中で最も異色であり、同時に最も興味深い作品の一つである。初期の『Ramones』『Leave Home』『Rocket to Russia』で確立された、短く速く単純なパンク・ロックの方法論は、本作ではPhil Spectorの重厚なポップ・プロダクションによって大きく変化している。そのため、純粋なパンクの勢いを求めるリスナーにとっては、過剰に装飾され、丸められた作品に聴こえるかもしれない。
しかし、本作を失敗作として片づけることはできない。Ramonesの音楽には、もともと60年代ポップやロックンロールへの強い憧れがあった。彼らはパンクの創始者として語られる一方で、実際にはThe Beach Boys、The Ronettes、The Shangri-Las、The Beatles、初期ロックンロールなどの影響を受けた、非常にメロディ志向のバンドでもあった。『End of the Century』は、そのポップ性を極端に拡大した作品である。
本作の最大の魅力は、相性がよいとは言い切れない要素同士が衝突している点にある。Ramonesのシンプルで不器用な曲、Joey Ramoneの孤独で甘い声、Johnny Ramoneのミニマルなギター、Dee Dee Ramoneの壊れたユーモア。そしてPhil Spectorの壮麗で過剰な音響。それらが完全に融合しているわけではない。むしろ、しばしば軋んでいる。だが、その軋みこそが本作を独特なものにしている。
楽曲単位では、「Do You Remember Rock ’n’ Roll Radio?」がアルバムの理念を象徴し、「Danny Says」がJoey Ramoneの叙情性を際立たせる。「Rock ’n’ Roll High School」はRamonesらしい青春パンクの楽しさを示し、「Chinese Rock」はニューヨーク・パンクの暗部を刻む。「Baby, I Love You」は賛否が分かれるが、Ramonesのポップ志向とSpectorの美学が最も極端に接近した瞬間である。
歌詞のテーマは、ロックンロールへの郷愁、ツアー生活の疲労、ドラッグ、若者の反抗、恋愛、時間に追いつけない焦燥感など多岐にわたる。だが、すべてに共通するのは、社会や大人の世界にうまく適応できない者たちの視点である。Ramonesは、政治的な理論で世界を語るのではなく、失敗し、遅刻し、依存し、退屈し、ラジオから流れるロックンロールに救いを求める人物たちを歌った。その視点は、本作の豪華な音響の中でも失われていない。
音楽史的に見ると、『End of the Century』はパンクの商業化、ポップ化、そしてルーツ回帰が交差した作品である。1970年代後半にパンクがロックの既成概念を破壊した後、1980年代を迎えるにあたり、パンク・バンドは次の方向性を模索する必要があった。Ramonesはその答えの一つとして、1960年代ポップの巨匠Phil Spectorと組んだ。この選択は、時代への迎合というより、彼らがもともと持っていたロックンロール愛を大きな音で鳴らす試みだった。
日本のリスナーにとって本作は、Ramones入門としては少し特殊な位置にある。初期の原始的なパンクを知るにはデビュー作や『Rocket to Russia』の方が適している。しかし、Ramonesのポップ性、メロディの良さ、60年代音楽とのつながりを理解するには、『End of the Century』は非常に重要である。特にポップ・パンクやパワー・ポップが好きなリスナーには、本作のメロディアスな側面が聴き取りやすい。
総じて『End of the Century』は、Ramonesが自分たちの限界を広げようとしたアルバムである。その試みは完全な成功ではなく、初期の鋭さを犠牲にした部分もある。しかし、ここにはRamonesが単なる高速パンクの記号ではなく、ロックンロールとポップ・ミュージックの歴史を背負ったバンドだったことが刻まれている。粗さと甘さ、反抗と郷愁、パンクとウォール・オブ・サウンドがぶつかり合う本作は、Ramonesの矛盾を最も鮮やかに示したアルバムである。
おすすめアルバム
1. Ramones『Rocket to Russia』
Ramones初期の完成形ともいえる3作目。短く速いパンク・ロックと、60年代ポップ由来のメロディが最も自然に融合している。『End of the Century』のポップ性を、より簡潔で荒い形で聴きたいリスナーに適している。
2. Ramones『Road to Ruin』
『End of the Century』の直前に発表された4作目で、バンドがパンクの速度だけでなく、ミドル・テンポやポップな楽曲へ幅を広げ始めた作品。「I Wanna Be Sedated」などを収録し、本作への橋渡しとして重要である。
3. The Ronettes『Presenting the Fabulous Ronettes』
Phil Spectorのウォール・オブ・サウンドを代表するガール・グループ作品。『End of the Century』における「Baby, I Love You」や厚いプロダクションの背景を理解するうえで欠かせない。Ramonesが憧れた60年代ポップの美学を確認できる。
4. The Dictators『Go Girl Crazy!』
ニューヨーク・パンク前夜の重要作。ハードロック、ガレージ、コミック的なユーモア、若者文化への偏愛が混ざり合っており、RamonesのB級感覚やロックンロールの単純化と通じる部分が多い。パンクが成立する直前の空気を知るのに適している。
5. Green Day『Dookie』
1990年代にポップ・パンクを大衆化した代表作。Ramonesが持っていた短い曲、明快なメロディ、若者の不満とユーモアは、Green Dayの音楽にも強く受け継がれている。『End of the Century』のポップ化されたパンクの流れを後年の形で聴ける作品である。

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