発売日: 1999年11月2日
ジャンル: ラップメタル、オルタナティヴ・ロック、ファンクメタル
Rage Against the Machine（以下RATM）の3作目となるアルバム『The Battle of Los Angeles』は、デビュー以来続くバンドの社会的・政治的闘争をさらに深化させた作品である。このアルバムは、彼らの持つ鋭いメッセージ性とエネルギッシュなサウンドを維持しながらも、より洗練されたアレンジと緻密な構成を特徴としている。リリース後、批評家やファンから絶賛され、全米アルバムチャートで1位を獲得。2001年にはグラミー賞の「ベストロックアルバム」にノミネートされるなど、RATMの集大成的な作品と評価されている。
アルバムタイトルは、詩人ウォルター・スティールの詩から引用されており、政治的抑圧や資本主義体制への反抗というテーマを象徴している。ザック・デ・ラ・ロッチャの詩的で怒りに満ちた歌詞、トム・モレロの革新的なギターテクニック、ティム・コマーフォードとブラッド・ウィルクによるタイトなリズムセクションが見事に融合したこのアルバムは、1990年代を代表するオルタナティヴロックの傑作である。
本作では、デビュー作や2作目『Evil Empire』で築かれたサウンドをさらに押し進めつつ、モレロのギターエフェクトや実験的なサウンドデザインが際立っている。曲ごとに異なるリズムと展開を持ちながらも、アルバム全体としての統一感は非常に強い。RATMが持つ社会的メッセージが音楽と一体となり、聴く者に深いインパクトを与える作品である。
トラックごとの解説
1. Testify
アルバムのオープニングを飾る、エネルギッシュな楽曲。トム・モレロのリフは不穏さと攻撃性を兼ね備えており、ザックの「Who controls the past now controls the future」という歌詞が、ジョージ・オーウェルの『1984年』へのオマージュを感じさせる。政治的な洗脳に対する鋭い批判が込められている。
2. Guerrilla Radio
アルバムの代表曲で、RATM最大のヒット曲の一つ。キャッチーなリフとザックのラップが楽曲をドライブし、特に「It has to start somewhere」という歌詞が象徴的だ。メディアや情報操作への怒りを描いた内容で、今なお抗議のアンセムとして知られている。
3. Calm Like a Bomb
静と動を織り交ぜた構成が特徴的。ミニマルなベースラインから始まり、一気に爆発するようなサウンドが印象的だ。歌詞では資本主義や帝国主義への痛烈な批判を展開しており、緊張感のあるリフが曲全体を支配している。
4. Mic Check
リズミカルでグルーヴィーな楽曲。ザックの低音域のラップと、モレロのギターエフェクトが楽曲に独特の雰囲気を与えている。「War is my destiny」というフレーズが印象的で、アルバム全体のテーマに深く結びついている。
5. Sleep Now in the Fire
商業資本主義とアメリカの帝国主義への批判をテーマにした楽曲。モレロのギターがサイレンのような音を生み出し、楽曲全体の緊張感を高めている。この曲のミュージックビデオは、マイケル・ムーア監督によるもので、ニューヨーク証券取引所前で撮影された歴史的なパフォーマンスが話題となった。
6. Born of a Broken Man
感情的でメランコリックなトラック。個人の苦悩と抑圧がテーマで、モレロのギターが楽曲にドラマチックな雰囲気を加えている。ザックの歌詞は個人的な経験に基づいた内容とされ、バンドの中でも異色の存在感を放つ。
7. Born as Ghosts
アップテンポで緊張感のある楽曲。タイトルが示すように、社会的に「見えない存在」とされた人々をテーマにしており、鋭い歌詞とモレロのリフが絡み合う。
8. Maria
移民労働者の苦境を描いた楽曲。ザックの歌詞は、移民の現実を鮮烈に描写しており、モレロのギターは楽曲の物語性を高めている。シンプルながら感情に訴えかける一曲。
9. Voice of the Voiceless
マルコムXへのオマージュを込めた楽曲。ミディアムテンポで進むトラックは、モレロのエフェクトギターとザックの力強いラップが調和している。アメリカの人種問題がテーマとなっている。
10. New Millennium Homes
明るめのリフで始まる楽曲だが、歌詞には社会の不平等や環境破壊が描かれている。ティム・コマーフォードのベースラインがリズムセクションを引き締め、グルーヴ感を強調している。
11. Ashes in the Fall
静かなイントロから爆発的な展開へと移行するドラマチックな楽曲。歌詞は抽象的で詩的だが、壊れゆく社会のビジョンを描いている。モレロのギターが全体の不安感を増幅させる。
12. War Within a Breath
アルバムの締めくくりにふさわしい、激しくも情熱的な楽曲。ザックのラップは、南米の社会問題に焦点を当てており、歌詞の「Everything can change on a new year’s day」というフレーズが希望を示唆している。最後まで緊張感を維持したまま幕を閉じる。
アルバム総評
『The Battle of Los Angeles』は、RATMが社会的・政治的メッセージを音楽に昇華させる能力を最大限に発揮した作品である。楽曲ごとに異なるテーマが描かれ、リスナーを圧倒する力強いメッセージとサウンドが融合している。モレロのギター、ザックのラップ、そしてバンド全体の一体感が生むエネルギーは、今なおロック史上の金字塔として輝き続けている。
このアルバムが好きな人におすすめの5枚
Evil Empire by Rage Against the Machine
RATMの2作目で、ファンクとラップメタルがさらに深化。政治的メッセージが鋭い楽曲が揃っている。
Toxicity by System of a Down
過激なメッセージと多様な音楽性が特徴。RATMの影響を感じさせるヘヴィなサウンドが魅力的。
Mezmerize by System of a Down
攻撃的なサウンドと風刺的な歌詞が共通しており、抗議ソングの真髄が楽しめる。
Ten by Pearl Jam
政治的テーマを持つ歌詞と、エネルギッシュなパフォーマンスがRATMファンにも刺さる。
The Real Thing by Faith No More
ラップとメタルを融合させた先駆的なアルバム。ジャンルの境界を超えた革新性が魅力。
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