1. 歌詞の概要
「This Magnificent Bird Will Rise(この壮麗なる鳥は、やがて舞い上がる)」は、Deerhoof(ディアフーフ)が2003年にリリースしたアルバム『Apple O’』に収録された楽曲であり、攻撃的なノイズと天上的なメロディ、そして詩的なイメージが交錯する、バンド初期の創作理念を象徴する一曲である。
タイトルにある“Magnificent Bird(壮麗な鳥)”とは、おそらく個人の自由や創造の象徴であり、それが「Will Rise(舞い上がる)」という予言のような未来形で語られている点からも、この曲が“希望”や“変容”をテーマにしていることが伝わってくる。
歌詞は非常に断片的かつ象徴的で、明確な物語を語ってはいない。それでも、抽象的な言葉の連なりからは、“何かが封じられ、やがて解放される”という力強い情感が浮かび上がる。抑圧されていたエネルギーが爆発し、混沌とした世界の中で新たな秩序や美が立ち現れる――そんな“破壊と再生”のイメージが、この楽曲全体に貫かれている。
2. 歌詞のバックグラウンド
『Apple O’』は、Deerhoofにとってそれまでのノイズ・アートロック的な実験性と、ポップメロディへの志向が大きく交差した転換点的なアルバムである。その中でも「This Magnificent Bird Will Rise」は、アルバムの後半に現れ、まるで“内側から目覚める何か”を劇的に描写するような位置づけとなっている。
グレッグ・ソーニア(Greg Saunier)の複雑なリズム構築と、ギターの鋭角的なリフ、サトミ・マツザキの柔らかくも奇妙な声が互いに呼応しあい、極めてスリリングな音の空間を作り出している。特にこの曲では、ノイズとメロディが“戦う”のではなく、“同時に存在する”というDeerhoofならではの美学が明確に示されている。
そして何より、タイトルそのものが持つ予言的な響きは、Deerhoofというバンドのあり方をも象徴している。彼らはこの曲以降、より多彩でオープンな方向へと“羽ばたいて”いくのである。
3. 歌詞の抜粋と和訳
This magnificent bird will rise
As it sings its song
The notes flood the sky
この壮麗なる鳥は、やがて舞い上がる
その歌を歌いながら
音符が空へとあふれ出す
And all will stop to listen
And all will feel the change
Something new begins
すべてが耳を傾ける
すべてが変化を感じ取る
新しい何かが始まる
※歌詞の一部は抽象的で、公式に全文公開されていない可能性があります。詳細はバンドの公式音源やライナーノーツをご参照ください。
4. 歌詞の考察
「This Magnificent Bird Will Rise」は、詩的な比喩を用いて“内的変容”を語る楽曲である。
ここで描かれている“鳥”とは、抑圧された創造性かもしれないし、感情の解放、自我の覚醒、あるいは音楽そのものかもしれない。どのように解釈しても、そこには“内に秘めていたものが外界へと放たれていく”という大きな構造が読み取れる。
歌詞は物語的でなく、むしろ瞬間の“ヴィジョン”を描いている。たとえば“notes flood the sky(音符が空にあふれ出す)”という表現は、音楽が単なる音ではなく、空間や感情を塗り替えるような力を持つことを詩的に描いている。
また、“all will feel the change(すべてが変化を感じ取る)”というラインは、音楽が持つ集合的な力への信頼を表している。つまりこの曲は、個人的な変容だけではなく、聴く人すべてが“目撃者”となるような瞬間を描いているのである。
そして何よりも、この曲の詩が放つメッセージは、徹底して希望に満ちている。それは、静かで力強い確信であり、喧騒のなかから立ち上がる“新しい声”への賛歌なのだ。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- The Birth and Death of the Day by Explosions in the Sky
変容と光をテーマにしたインストゥルメンタル。叙情的で劇的。 - Samskeyti by Sigur Rós
音が風景のように広がり、感情の輪郭をやさしくなぞるポストロックの名作。 - Blue Line Swinger by Yo La Tengo
ノイズとメロディ、静と動の緊張感が共存する、感情の爆発点のような曲。 - Milk Man by Deerhoof
童話的で不穏な世界観の中に爆発的なリズムが共鳴する、彼らの代表曲。
6. “この世界で、まだ見ぬ空へ飛ぶということ”
「This Magnificent Bird Will Rise」は、すべての“まだ飛び立っていない何か”に向けられた、優しくも激しいアンセムである。
それは声を持たない感情に、翼を与えるような音楽。
それは抑圧のなかにある希望を、美しい比喩で包み込む詩。
ディアフーフはこの曲で、言葉にならなかった“熱”を、
破裂しそうな音と、浮遊するメロディで包み込んでみせる。
そして告げる――
「その鳥は、きっと舞い上がる」
それは自分自身かもしれないし、
これを聴くあなた自身かもしれないのだ。
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