
1. 歌詞の概要
Life Is Suffering は、アメリカの実験的インディーロックバンド、Deerhoofが2016年に発表した楽曲である。
同年リリースのアルバム The Magic に収録されており、Bandcampの公式ページでは同作収録曲として2016年6月24日リリースと記載されている。Dorkの楽曲ページでは The Magic の4曲目、3分36秒の楽曲として紹介されている。
タイトルの Life Is Suffering は、直訳すれば「人生は苦しみである」。
かなり重い言葉だ。
仏教的な響きもある。
生きることには痛みがある。
欲望があり、喪失があり、思い通りにならない時間がある。
そのことを、ほとんど標語のように言い切っている。
ただし、Deerhoofがこのタイトルを掲げると、単なる暗い哲学にはならない。
むしろ曲は、奇妙に踊れる。
低音は粘り、リズムは跳ね、ギターはうなり、Satomi Matsuzakiの声は軽やかに言葉を置いていく。
人生は苦しみである。
でも、音楽は止まらない。
むしろ、その苦しみの上で身体が動き出す。
ここに、この曲の大きな面白さがある。
歌詞は、長い物語を語るタイプではない。
むしろ、短い言葉やフレーズが反復され、リズムの一部として機能している。
意味を一直線に説明するより、言葉そのものが音になり、ビートの中で跳ねる。
Deerhoofは、いつもそういうバンドである。
ポップなのに壊れている。
かわいいのに鋭い。
難解なのに身体で分かる。
実験的なのに、ふとした瞬間に子どもでも口ずさめそうなメロディが顔を出す。
Life Is Suffering も、その矛盾の上に成り立っている。
「人生は苦しみ」という大きなテーマを、重厚なバラードとして扱うのではない。
むしろ、ファンクのようなベースラインと、ずれたリズム、奇妙なギターの動きによって、苦しみそのものを踊れるものへ変える。
Drowned in Soundのレビューでは、この曲について、冒頭はストレートなファンクのように始まるが、少しずれた拍子のざらついたベースラインや唸るリードギター、奇妙なボーカルラインによってすぐにDeerhoofらしい領域へ戻っていくと評されている。DrownedInSound
この指摘は非常に的確だ。
Life Is Suffering は、入り口だけなら分かりやすい。
身体が自然に反応する。
でも、聴いているうちに床が少し傾いていることに気づく。
ビートは踊れるのに、完全には安定しない。
楽しいのに、不穏。
軽いのに、タイトルは重い。
そのアンバランスさが、曲の核心である。
人生は苦しみである。
でも、その苦しみは一直線に沈んでいくものではない。
時に変なリズムで跳ねる。
時に冗談のように聞こえる。
時に、苦しいからこそ笑いたくなる。
Deerhoofは、その奇妙な生命力を鳴らしている。
2. 歌詞のバックグラウンド
Life Is Suffering が収録された The Magic は、Deerhoofの14作目のスタジオアルバムである。
Pitchforkのニュース記事では、The Magic が2016年6月24日にPolyvinylからリリースされた作品であり、2014年の La Isla Bonita に続くアルバムとして紹介されている。Pitchfork
Deerhoofは、1994年にサンフランシスコで結成されたバンドである。
Life of the Recordのバンド年譜では、Rob Fiskによって結成され、その一週間後にGreg Saunierが加入し、1995年にSatomi Matsuzakiがリードボーカルとして加わったことが紹介されている。Life of the Record
このバンドの歴史を考えると、The Magic の時点で彼らはすでに20年以上活動していたことになる。
普通なら、ベテランバンドは音が落ち着いていく。
自分たちの型を固め、リスナーの期待に応える方向へ進むことも多い。
しかしDeerhoofは違う。
彼らはずっと、型を作っては壊し、ポップソングを組み立てては別の角度から崩してきた。
ギター、ベース、ドラム、声。
ロックバンドとしては基本的な編成でありながら、そこから出てくる音はまるで壊れたおもちゃ箱のように予測不能である。
The Magic というアルバムタイトルも、彼ららしい。
魔法。
ただし、きらきらしたファンタジーというより、音楽が日常の感覚を一瞬ずらすような魔法だ。
聴いていると、足元のリズムが変わる。
当たり前に思っていたポップソングの形が、急にぐにゃりと曲がる。
でも、その変形が妙に楽しい。
Life Is Suffering は、そのアルバムの中でも、かなり分かりやすく身体を動かす曲である。
ただし、分かりやすいだけで終わらない。
Drowned in Soundのレビューが指摘するように、曲はファンク的に始まりながら、すぐにDeerhoof特有のずれた世界へ入る。DrownedInSound
ここには、彼らの音楽観がよく表れている。
Deerhoofにとって、ジャンルは安住する場所ではない。
ファンクも、ロックも、ポップも、パンクも、実験音楽も、素材である。
それらを一度手に取り、少しねじり、予想外の場所につなぐ。
Life Is Suffering では、ファンクのグルーヴが出発点になる。
でも、それはきれいに整ったダンスミュージックにはならない。
拍子は微妙にずれ、ギターは奇妙に叫び、声は重たいタイトルを軽やかに扱う。
このずれは、人生そのもののずれにも似ている。
人は、きれいなリズムで生きられない。
予定通りには進まない。
楽しいときに不安が混ざり、苦しいときに笑いが出る。
整っているようで、どこかで拍が外れる。
Life Is Suffering は、その外れた拍を音楽にしている。
また、Apple Musicの楽曲情報では、Life is Suffering の作詞作曲にSatomi Matsuzaki、John Dieterich、Ed Rodriguez、Greg Saunierの名前が確認できる。Apple Music – Web Player
Deerhoofはメンバー全員のアイデアがせめぎ合うバンドであり、この曲にもその共同体的な作りが感じられる。
誰かひとりの告白というより、バンド全体がひとつの奇妙な生き物として鳴っている。
ベースが歩き、ドラムが跳ね、ギターが割り込み、声が明るく刺す。
その全部がまとまって、「人生は苦しみ」という言葉を奇妙に軽くしていく。
3. 歌詞の抜粋と和訳
歌詞の全文は著作権で保護されているため、ここでは短い範囲で抜粋する。
歌詞の確認には、Dorkの歌詞掲載ページやSpotify、Apple Musicなどの楽曲ページを参照できる。
Life is suffering
和訳:
人生は苦しみである
このフレーズは、曲のタイトルそのものであり、最も大きな入口である。
言葉だけを読むと、非常に重い。
絶望の宣言のようにも聞こえる。
生きることは痛みであり、逃れられないものだと言っているようだ。
しかし、曲の中でこの言葉は、重く沈むのではなく、リズムに乗る。
ここが大切である。
Deerhoofは、この言葉を説教のように置かない。
哲学書の一文のように荘厳に扱うのでもない。
むしろ、ポップソングのフックのように反復する。
すると、意味が少し変わる。
「人生は苦しみである」という言葉は、ただ暗い結論ではなくなる。
それは、苦しみを知ったうえで踊るための合図になる。
もうひとつ、短い言葉として重要なのは「suffering」という音そのものだ。
Suffering
和訳:
苦しみ
英語の suffering は、音としても少し長く、舌に残る。
Deerhoofの曲の中では、この言葉が意味だけでなく、リズムと音色としても機能する。
苦しみという言葉を、声で転がす。
すると、苦しみは重い概念でありながら、同時に音楽の素材になる。
これはDeerhoofらしい発想だ。
深刻な言葉を、深刻な表情だけで扱わない。
悲しい言葉を、音として遊ばせる。
しかし、その遊びは軽薄ではない。
むしろ、苦しみを正面から受け止めたうえで、それを別の形へ変えている。
引用元:Dork, Life Is Suffering Lyrics — Deerhoof
収録作:The Magic
リリース:2016年
作詞作曲:Satomi Matsuzaki、John Dieterich、Ed Rodriguez、Greg Saunier関連クレジットに基づく
歌詞著作権:各権利者に帰属
4. 歌詞の考察
Life Is Suffering の面白さは、タイトルの深刻さとサウンドの軽妙さが、まったく同じ場所に置かれていることだ。
人生は苦しみである。
この言葉は、普通なら厳粛に扱われる。
重いピアノ、暗いコード、沈んだ声。
そうした音が似合いそうな言葉だ。
しかしDeerhoofは、そうしない。
ファンク的なベースラインで始める。
ドラムは跳ねる。
ギターは奇妙に叫ぶ。
ボーカルは不思議な軽さで言葉を置く。
この時点で、曲はすでにタイトルを裏切っている。
ただし、その裏切りが本質なのだ。
人生が苦しみなら、音楽は何をするのか。
苦しみを説明するのか。
苦しみを慰めるのか。
苦しみを忘れさせるのか。
それとも、苦しみを踊れるリズムへ変えるのか。
Life Is Suffering は、最後の選択をしているように聞こえる。
この曲は、苦しみを消さない。
タイトルはずっと残る。
でも、その苦しみを重い石のように抱え込むのではなく、変な形に削り、音にして転がす。
ここに、Deerhoofの非常に重要な美学がある。
彼らの音楽は、しばしば「かわいい」と「不穏」が同時にある。
Satomi Matsuzakiの声は明るく、軽く、時には子どものようにも聞こえる。
しかし、その声が乗る曲の構造はかなり複雑で、ギターやドラムは予想外の場所で曲を壊す。
つまり、無邪気さと混乱が同居している。
Life Is Suffering でも、同じことが起きている。
「人生は苦しみ」という思想的に重い言葉が、まるで合言葉のように扱われる。
悲劇なのに、どこかコミカル。
哲学なのに、どこかダンス。
苦しみなのに、聴いていて楽しい。
この矛盾は、実はかなり現実に近い。
人間の苦しみは、いつもドラマチックな顔をしているわけではない。
本当にしんどい日に、なぜか変な曲が頭から離れないことがある。
落ち込んでいるのに、コンビニでくだらないものを買って少し笑ってしまうことがある。
世界がどうしようもなく見えるのに、身体はリズムに反応してしまうことがある。
Deerhoofは、その人間の奇妙さをよく知っている。
だから、Life Is Suffering は単なる厭世の曲ではない。
むしろ、苦しみの中にある滑稽さや身体性を鳴らしている。
曲の構造も、その考えを支えている。
Drowned in Soundが指摘するように、冒頭はファンク的なグルーヴで始まるが、そこには少しずれた拍子やざらついたベース、唸るギターが入り、すぐにDeerhoofらしい奇妙な地形へ変わっていく。DrownedInSound
これは、人生が単純な一直線のビートではないことの音楽的な表現にも聞こえる。
グルーヴはある。
でも、歩きやすい道ではない。
踊れる。
でも、足元は少し斜めだ。
この「斜めの踊り」が、Life Is Suffering の魅力である。
また、タイトルには仏教的な響きも感じられる。
仏教の四苦八苦のように、生は苦であるという考え方がある。
もちろん、この曲を宗教的な説法として読む必要はない。
しかし、「life is suffering」という英語の言い切りは、そのような思想的な背景を自然に連想させる。
ただし、Deerhoofはその思想を重々しく引用するのではなく、ポップソングの中でずらしている。
人生は苦しみである。
だからどうするのか。
悟るのか。
逃げるのか。
泣くのか。
笑うのか。
踊るのか。
この曲は、踊る方向へ向かう。
そこに、Deerhoofらしいラディカルさがある。
苦しみを否定せず、しかし苦しみに支配されない。
言葉は暗いが、身体は動く。
この分裂こそが、生きることのリアルなのだと思う。
5. この曲が好きな人におすすめの曲 5曲
- The Devil and His Anarchic Surrealist Retinue by Deerhoof
The Magic のオープニング曲であり、アルバム全体の奇妙なエネルギーを一気に提示する曲である。Dorkのアルバムページでも The Magic の1曲目として確認できる。Readdork
Life Is Suffering のずれたグルーヴや、重いテーマを軽やかに壊す感覚が好きなら、この曲のタイトルからして過剰な演劇性と、鋭いロックの破裂感も楽しめるはずだ。
- Kafe Mania!
The Magic の2曲目で、Deerhoof特有のポップさと奇妙なリズムの混ざり方を味わえる。Dorkのトラックリストでも2曲目として掲載されている。Readdork
Life Is Suffering よりもさらに軽快で、カラフルな印象を持つが、足元が少し傾いているようなDeerhoofらしさは共通している。
- Criminals of the Dream by Deerhoof
The Magic の5曲目で、Life Is Suffering の直後に置かれた楽曲である。Dorkのアルバムページでは5分の曲として掲載されている。Readdork
Life Is Suffering のファンク的な身体性のあとに、より広いサイケデリックな感覚へ進みたい人に合う。アルバム内での流れを感じるうえでも重要な曲だ。
- We Do Parties by Deerhoof
2012年のアルバム Breakup Song の代表的な楽曲で、Pitchforkのレビューでも同作の魅力を象徴する曲として触れられている。Pitchfork
Life Is Suffering の「踊れるのに変」という感覚が好きな人には、この曲のパーティー感と実験性の混ざり方も非常に相性がいい。
- My Lovely Cat!
2023年のアルバム Miracle-Level 収録曲で、Pitchforkのレビューでは同作がSatomi Matsuzakiの母語である日本語で歌われた初のアルバムであり、My Lovely Cat! が楽しい瞬間のひとつとして紹介されている。Pitchfork
Life Is Suffering の重いタイトルと軽やかな歌の対比に惹かれるなら、こちらの愛らしさと変則的なバンド感も楽しめる。Deerhoofの近年の表情を知るにも良い入口だ。
6. 人生の苦しみを、変なリズムで踊るということ
Life Is Suffering の特筆すべき点は、人生の苦しみを、暗く沈むものではなく、踊れる奇妙なエネルギーとして扱っているところにある。
この曲は、タイトルだけなら絶望的だ。
Life Is Suffering。
人生は苦しみである。
だが、実際に鳴っている音は、ただの絶望ではない。
ベースは動く。
ドラムは跳ねる。
ギターは吠える。
声は軽い。
つまり、苦しみは静止していない。
ここがとてもDeerhoofらしい。
彼らは、重いテーマを重いまま提示しない。
そのまま沈ませるのではなく、切り刻み、並べ替え、リズムに変える。
その結果、苦しみは別の姿を持つ。
それは笑いに近いかもしれない。
踊りに近いかもしれない。
子どもが不安をごまかすために変な歌を口ずさむような感じにも近い。
しかし、そこに逃避だけがあるわけではない。
むしろ、苦しみを知っているからこそ、軽くする必要がある。
重すぎるものをそのまま抱えると、身体が壊れてしまう。
だから、音楽にする。
リズムにする。
奇妙なフックにする。
Life Is Suffering は、その変換の曲である。
この曲を聴くと、Deerhoofがなぜ長く特別な存在であり続けているのかが分かる。
彼らは、ポップソングの楽しさを信じている。
でも、ポップソングをきれいに整えすぎない。
ロックバンドの爆発力を持っている。
でも、ロックの定型に収まらない。
実験的である。
でも、頭だけの音楽にならない。
いつも身体がある。
声がある。
リズムがある。
そして、笑っていいのか泣いていいのか分からない感情がある。
Life Is Suffering は、その全部を短い時間に詰め込んでいる。
冒頭のファンク的な感覚は、聴き手の身体をすぐにつかむ。
しかし、そのまま分かりやすく踊らせるのではなく、少しずつ変な場所へ連れていく。
気づけば、リズムはずれ、ギターはねじれ、ボーカルは哲学のような言葉をポップに歌っている。
この「気づいたら変な場所にいる」感じこそ、Deerhoofの魅力である。
そして、それは人生そのものにも似ている。
始まりは単純に見える。
今日はこういう日だと思っている。
この道を歩けばいいと思っている。
でも、途中で拍子が変わる。
予定が崩れる。
感情がずれる。
自分でも思っていなかった場所にいる。
人生は苦しみである。
それは確かかもしれない。
でも、人生は苦しみだけではない。
苦しみの形が変わる瞬間がある。
泣きながら笑うことがある。
絶望しながら、なぜか足でリズムを取ってしまうことがある。
Life Is Suffering は、その瞬間を音楽にしている。
この曲のタイトルが重いからこそ、サウンドの軽さが効く。
そして、サウンドが軽いからこそ、タイトルの重さも消えない。
もしタイトルも音も暗かったら、曲は分かりやすすぎただろう。
もしタイトルが軽く、音も軽かったら、曲はただの楽しい実験ポップになっていたかもしれない。
でも、この曲はそのどちらでもない。
重いタイトル。
跳ねる音。
不安定なグルーヴ。
明るい声。
ざらついたギター。
その全部が噛み合わないようで、なぜか噛み合っている。
これこそDeerhoofである。
The Magic というアルバムの中で、Life Is Suffering はタイトルの強さによって特に目を引く曲だ。
だが、実際にはアルバム全体の精神をよく表している。
魔法とは、現実を消すことではない。
苦しみをなかったことにすることでもない。
現実の見え方を一瞬変えることだ。
同じ苦しみでも、音楽が鳴ると少し違って見える。
同じ人生でも、リズムが変わると少し違って歩ける。
同じ言葉でも、Satomi Matsuzakiの声で歌われると、重さと軽さが同時に生まれる。
Life Is Suffering は、その魔法を持っている。
この曲は、救済を約束しない。
苦しみが終わるとは言わない。
人生が本当は素晴らしいとも、簡単には言わない。
でも、こう言っているように聞こえる。
人生は苦しみである。
それでも、ベースは鳴る。
ドラムは跳ねる。
ギターは変な声を出す。
人は踊ることができる。
それは小さな救いである。
大きな答えではない。
でも、音楽としては十分に力強い。
Deerhoofの Life Is Suffering は、苦しみをテーマにしながら、苦しみに従属しない曲である。
重い言葉を、重いまま固定せず、リズムの中で変形させる。
その変形の中に、奇妙な自由がある。
人生は苦しみである。
でも、その苦しみにはビートがある。
そしてDeerhoofは、そのビートを見つけて、こちらに差し出してくれる。
だからこの曲は、暗い言葉を持ちながら、聴き終わると妙に元気が残る。
それは、苦しみが消えたからではない。
苦しみを踊る方法を、ほんの少し思い出したからなのだ。

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