発売日: 2010年10月12日
ジャンル: エレクトロポップ、アヴァンギャルド・ポップ、インディーロック
Sufjan Stevensの6作目となるアルバム『The Age of Adz』は、それまでのフォークやバロックポップを中心としたスタイルを大胆に離れ、エレクトロニカや実験的なアプローチを取り入れた意欲作である。本作は、視覚芸術家ロイヤル・ロバートソンのアートと彼の妄想的な世界観に触発されて制作された。これまでの壮大で叙情的なストーリーテリングから一転、より個人的かつ内面的な感情にフォーカスし、愛、孤独、心の葛藤をテーマにしたアルバムとなっている。
『The Age of Adz』のサウンドは、シンセサイザー、オートチューン、エレクトロニックビート、ノイズが特徴的で、従来のアコースティックなアレンジとは一線を画す。しかし、スフィアンの特徴である感情的な歌詞と繊細なメロディはしっかりと根付いており、テクノロジーと人間らしさが融合した、深く感動的な作品となっている。全体を通じて、混沌と美しさ、脆さと力強さが同居する、スフィアンの音楽的冒険の到達点ともいえる一枚だ。
トラック解説
1. Futile Devices
アルバムの幕開けを飾る、静かなアコースティックギターと繊細なボーカルによる曲。シンプルながらも深い感情が込められた歌詞で、親密さと儚さが美しく描かれている。電子的な要素が控えめで、アルバム全体の多様性を予感させる一曲。
2. Too Much
シンセサイザーとエレクトロニックビートが炸裂する楽曲で、本作の新しい方向性を明確に示している。反復されるリズムと高揚感のあるメロディが混ざり合い、スフィアンが従来のスタイルを大胆に進化させたことが伝わる。
3. Age of Adz
アルバムのタイトル曲で、複雑なアレンジと不穏なムードが印象的。ロイヤル・ロバートソンのアートに影響を受けたこの曲は、狂気と啓示をテーマにしており、混沌としたサウンドスケープが心に強く残る。
4. I Walked
シンセポップ調のバラードで、失恋と喪失感をテーマにした歌詞が胸を締め付ける。エレクトロニックなビートとスフィアンの柔らかなボーカルが絶妙にマッチし、悲しみの中に美しさを見出すような感覚を与える。
5. Now That I’m Older
ゆったりとしたテンポと、エコーのかかったボーカルが特徴的な曲。内省的な歌詞と瞑想的なサウンドが、成長と喪失をテーマにした深い感情を引き出している。
6. Get Real Get Right
アップテンポで不協和音の多い楽曲。ロイヤル・ロバートソンの狂気じみたビジョンが色濃く反映されており、電子音と重厚なホーンが混ざり合う複雑な構成が印象的だ。
7. Bad Communication
短いインタールード的な楽曲で、シンプルな構成ながらも切迫感のあるサウンドが特徴的。アルバム全体の中で静かなアクセントを提供する。
8. Vesuvius
アルバムの中でも特にドラマチックなトラックで、火山にたとえた自己破壊的な感情を描いている。シンセサイザーとストリングスが調和し、壮大で感情的なクライマックスを迎える一曲だ。
9. All for Myself
静かでメランコリックなバラードで、スフィアンの内面的な葛藤を描いている。繊細なピアノとシンセサウンドが楽曲を包み込み、リスナーに深い余韻を残す。
10. I Want To Be Well
アップテンポなリズムが際立つ一曲で、アルバム全体のテーマである「癒し」に焦点を当てている。繰り返される「I’m not fucking around」という歌詞が印象的で、スフィアンの決意と怒りが感じられる。
11. Impossible Soul
アルバムのクライマックスとなる25分の大作。複数のセクションに分かれ、スフィアンの音楽的探求が存分に発揮されている。エレクトロニックなビート、オートチューンを駆使したボーカル、壮大なストリングスが入り混じり、愛、葛藤、自己受容のテーマを壮大に描く。聴き終えた後には深いカタルシスを感じる、アルバムを締めくくるにふさわしい楽曲だ。
アルバム総評
『The Age of Adz』は、Sufjan Stevensがこれまでの音楽性を進化させ、エレクトロニックな要素と感情的な深みを融合させた大胆な挑戦作である。従来のアコースティックなフォークサウンドから離れたことで一部のリスナーに衝撃を与えたが、それ以上に新しい音楽的地平を切り開いたことは明白だ。ロイヤル・ロバートソンの狂気とスフィアン自身の内面的な葛藤が重なり合い、混沌の中にも美しさと救済の光が見える。このアルバムは、聴き手にとって感情的で挑戦的な体験を提供する一方、Sufjan Stevensがアーティストとして限界を超えた瞬間を記録した名作である。
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Illinois by Sufjan Stevens
従来のバロックポップスタイルが楽しめる代表作。ストリングスやホーンの美しいアレンジとストーリーテリングが魅力的。
Kid A by Radiohead
エレクトロニカと実験的なサウンドが融合した名盤。『The Age of Adz』と同じく大胆な音楽的挑戦が感じられる。
Blackstar by David Bowie
エレクトロニカやジャズの要素を取り入れたラストアルバム。実験的で感情に訴える音楽性が『The Age of Adz』と共通する。
Veckatimest by Grizzly Bear
複雑で緻密なアレンジと感情的な楽曲が特徴。フォークとエレクトロの融合が美しい。
Carrie & Lowell by Sufjan Stevens
スフィアンが再びフォークサウンドに回帰した作品だが、内省的で感情的なテーマが『The Age of Adz』と重なる部分が多い。
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