発売日: 2017年3月10日
ジャンル: ポストパンク、パンクロック
IDLESのデビューアルバム「Brutalism」は、鋭い社会批判と個人的な苦悩がむき出しのエネルギーで表現された作品で、パンクロックの持つ反抗精神を全開にした一枚だ。バンドのフロントマンであるジョー・タルボットの叫ぶようなボーカルは、痛みと怒り、そして悲しみが詰まった力強いメッセージを放ち、マーク・ボウエンの鋭いギターと、重厚なリズムセクションがサポートしている。「Brutalism」というタイトルが示す通り、アルバム全体を通して無駄をそぎ落とした直球の表現が特徴で、IDLESのスタイルを確立する作品として高く評価された。
このアルバムは、タルボットが母親の死という深い悲しみを抱えながら制作されており、曲の中でその喪失感や苦悩がエモーショナルに表現されている。また、現代社会に対する怒りや皮肉が込められたリリックは、IDLESのポストパンク的な批判精神が存分に発揮されている。パンクの持つ攻撃性を全面に押し出しながらも、ユーモアやアイロニーが随所に見られ、IDLESの個性と視点を強烈に印象づける作品である。
トラックごとの解説
1. Heel/Heal
アルバムの幕開けを飾る「Heel/Heal」は、激しいギターリフと怒りに満ちたボーカルが印象的なトラックで、自己の傷と癒しをテーマにしている。鋭いサウンドが、リスナーに強烈な印象を残す。
2. Well Done
「Well Done」は、シンプルでありながらも鋭い皮肉が込められた楽曲で、社会的な成功へのプレッシャーや偽善を批判している。キャッチーなリフとユーモラスな歌詞が絶妙なバランスを保っている。
3. Mother
タルボットの母親への思いが込められた「Mother」は、母親を失った悲しみと怒りを描いた一曲で、最もエモーショナルなトラックの一つ。重く反復的なビートが、感情の波を増幅させる。
4. Date Night
「Date Night」は、シンプルでアグレッシブなサウンドが特徴の楽曲で、恋愛にまつわる葛藤や苛立ちがテーマ。短いながらもエネルギッシュで勢いのあるトラックだ。
5. Faith in the City
「Faith in the City」は、社会や都市の無情さや孤独を描いたトラックで、現代の都市生活への皮肉が込められている。疾走感のあるサウンドと冷徹な歌詞が印象的。
6. 1049 Gotho
「1049 Gotho」は、メンタルヘルスとその孤独について歌われた楽曲で、重厚なビートとタルボットの切実なボーカルが、深い痛みと共感を呼び起こす一曲。
7. Divide & Conquer
医療制度や社会の分断をテーマにした「Divide & Conquer」は、IDLESの政治的な側面が強く表れている。力強いギターリフと怒りに満ちたリリックが社会への不満を訴える。
8. Rachel Khoo
「Rachel Khoo」は、ポップカルチャーと自己矛盾についての皮肉が込められた楽曲。ユーモラスでありながらも、鋭い批判精神が感じられる。
9. Stendhal Syndrome
「Stendhal Syndrome」は、美術館での体験を題材に、芸術や美に対する複雑な感情を歌った曲。シンプルながらも中毒性のあるリフが、曲全体のテンションを高めている。
10. Exeter
「Exeter」は、地元での閉塞感や疎外感を描いたトラックで、パンクらしい攻撃的なサウンドが特徴。タルボットのボーカルが特に激しく、怒りを前面に出している。
11. Benzocaine
「Benzocaine」は、孤独と不安について歌われた一曲で、反復的なビートがその感情を増幅させる。タルボットの感情的なボーカルが聴き手に強く響く。
12. White Privilege
「White Privilege」は、人種や社会的な特権についての鋭い考察が歌われた楽曲。複雑なテーマをストレートに表現しており、バンドの社会的メッセージ性が際立っている。
13. Slow Savage
アルバムのラストを飾る「Slow Savage」は、ゆったりとしたテンポと内省的なリリックが特徴で、アルバム全体の余韻を残す静かなエンディングトラック。タルボットの切実なボーカルが印象深い。
アルバム総評
「Brutalism」は、IDLESがパンクロックに社会的なメッセージ性と個人的な感情を融合させた、鋭く力強いデビューアルバムである。ジョー・タルボットのボーカルは、母親の死という喪失感や、現代社会への怒りと失望が見事に表現されており、彼の歌詞にはアイロニーとユーモアが絶妙に混ざり合っている。IDLESはこのアルバムで、痛みや怒りといった負の感情を「力」に変える術を提示し、ポストパンクシーンに新たな息吹をもたらした。シンプルでありながらも深いメッセージが込められた「Brutalism」は、リスナーに強烈な印象を与え、IDLESの未来を予感させる重要な作品である。
このアルバムが好きな人におすすめの5枚
Songs for the Deaf by Queens of the Stone Age
激しく鋭いロックサウンドとダークなユーモアが特徴のアルバムで、IDLESのファンにも刺さる作品。シンプルな構成ながらもエネルギーがみなぎっている。
Joy as an Act of Resistance by IDLES
IDLESのセカンドアルバムで、「Brutalism」から引き継いだ怒りとエネルギーに、さらに共感や自己受容のテーマが加わった作品。
Entertainment! by Gang of Four
ポストパンクの名盤で、政治的メッセージと批判精神が共通する一枚。IDLESの鋭い視点と通じる部分が多い。
Rema Rema by Rema Rema
シンプルでパワフルなサウンドと、荒削りながらも強烈な印象を残すポストパンクの名作。IDLESの初期サウンドに近いスタイルが楽しめる。
Turn On the Bright Lights by Interpol
内省的で感情的なリリックと、ポストパンクのエッセンスが詰まった一枚。「Brutalism」の持つエネルギーとは異なるが、深い余韻が楽しめる。
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