発売日: 2019年10月11日
ジャンル: インディーフォーク、オルタナティブロック
Big Thiefの4作目となる「Two Hands」は、同年5月にリリースされた「U.F.O.F.」とは対照的な作品であり、より生々しく荒々しいサウンドでバンドの持つ原始的なパワーを全面に押し出した作品である。「U.F.O.F.」がドリームポップ的な幻想性と静謐さを追求した一方、「Two Hands」では乾いた砂漠の空気感や大地の重みを感じさせる土臭いロックサウンドが展開されている。ボーカルのエイドリアン・レンカーは、魂を揺さぶるような声で愛、喪失、人間関係といったテーマを深く掘り下げており、彼女の感情が剥き出しで表現されている。
このアルバムは、テキサス州エルパソの砂漠に囲まれたスタジオでライブ録音されており、自然の音が感じられるシンプルで力強い演奏が印象的だ。Big Thiefは、ここで一切の装飾を削ぎ落とし、シンプルな編成の中で、純粋な感情とエネルギーを詰め込んだ楽曲を届けている。「Two Hands」は「U.F.O.F.」の姉妹作として対をなす存在でありながら、バンドの新たな一面を示し、自然や生々しい感情とのつながりを描いた作品となっている。
トラックごとの解説
1. Rock and Sing
アルバムの幕開けを飾る「Rock and Sing」は、シンプルなギターとエイドリアンのささやくような歌声が特徴的。静かな導入がこのアルバムのテーマを暗示しており、素朴な優しさが漂う。
2. Forgotten Eyes
「Forgotten Eyes」は、アルバムの中でも特に強烈なインパクトを持つ一曲で、社会の疎外された存在や見過ごされがちな人々に焦点を当てた歌詞が印象的。力強いギターとエイドリアンのエモーショナルなボーカルが、聴く者に深いメッセージを伝える。
3. The Toy
「The Toy」は、軽快なリズムに乗せて自己探求や内面の葛藤が歌われる。エイドリアンの歌声が穏やかに響きながらも、どこか物悲しい雰囲気が漂う。
4. Two Hands
タイトル曲「Two Hands」は、優しく包み込むようなギターと、エイドリアンの心に染み入るボーカルが心地よい。愛と支えの象徴としての「手」をテーマにしており、シンプルでありながらも深い感情が表現されている。
5. Those Girls
「Those Girls」は、静かで内省的な楽曲で、過去の記憶や人間関係の微妙な感情が描かれている。控えめなギターとエイドリアンの囁くような歌声が、心に残る切なさを醸し出している。
6. Shoulders
「Shoulders」は、力強いギターリフとエイドリアンの激情が込められたボーカルが印象的で、暴力や葛藤に関するテーマを扱っている。切迫感のあるサウンドが、まるで感情の嵐を表現しているかのような一曲。
7. Not
アルバムのハイライトとも言える「Not」は、エイドリアンの圧倒的な歌唱力とバンドの生々しい演奏が際立つ6分を超える楽曲。怒りや不満、自己のアイデンティティの模索が歌われ、最後のギターソロは圧巻の迫力で聴く者を圧倒する。
8. Wolf
「Wolf」は、自然とのつながりや人間の原始的な側面をテーマにしており、ギターのアルペジオが穏やかに響くトラック。シンプルながらも深い情緒が込められている。
9. Replaced
「Replaced」は、メロディアスで穏やかなトラックで、変化や別れに対する想いが描かれている。切ないメロディとエイドリアンの歌声が調和し、聴き手に静かな感動を与える。
10. Cut My Hair
アルバムのラストを飾る「Cut My Hair」は、シンプルな構成ながらも感情が溢れ出すような楽曲で、自己の変化や新たな決意がテーマ。アルバム全体の余韻を残しつつ、静かに締めくくられる。
アルバム総評
「Two Hands」は、Big Thiefがフォークロックの枠を超えて、より力強く生々しいサウンドに挑戦した作品である。「U.F.O.F.」の夢のようなサウンドと対照的に、「Two Hands」は地に足がついたリアルな世界を描いており、エイドリアン・レンカーの深い歌詞と感情的なボーカルがさらに際立っている。音楽的にはシンプルで無駄がなく、バンドの一体感が感じられるライブ録音のようなダイナミズムが魅力。このアルバムは、Big Thiefがフォークとオルタナティブの垣根を超えて、新たな音楽的境地に到達した作品と言えるだろう。
このアルバムが好きな人におすすめの5枚
Stranger in the Alps by Phoebe Bridgers
エモーショナルで内省的なリリックが特徴で、「Two Hands」の持つリアルで感情的な雰囲気と共通する部分が多い。
Burn Your Fire for No Witness by Angel Olsen
深い感情が込められたボーカルと荒々しいサウンドが特徴のアルバム。Big Thiefの持つ生々しいエネルギーと共鳴する作品。
Sound & Color by Alabama Shakes
ブルース、ソウル、ロックが融合した豊かなサウンドで、力強いボーカルと感情的な表現が印象的。「Two Hands」のファンにも刺さる作品。
All Mirrors by Angel Olsen
アンビエントなサウンドと、深みのあるリリックが特徴的。愛や喪失をテーマにし、感情の深みが「Two Hands」と共鳴する。
Carrie & Lowell by Sufjan Stevens
繊細で詩的なフォークアルバム。家族や愛についての深い洞察が込められており、エイドリアン・レンカーの詩的な世界観と共通する。
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