発売日: 2016年5月20日
ジャンル: インディーロック、オルタナティブロック、ローファイ
Car Seat Headrestのメジャーデビュー第2作となる「Teens of Denial」は、フロントマンのウィル・トレドが書き上げた青春の葛藤や自己探求の物語が詰まった名作である。オルタナティブロック、ローファイサウンドを基盤にしながら、ウィルは長編のリリックと緻密なサウンドアレンジで、若者の苦悩、成長、アイデンティティの模索といったテーマを率直かつ詩的に描いている。アルバム全体を通じて、ユーモアと皮肉、孤独と自己批判が混ざり合い、独特の内省的な雰囲気が漂っている。
このアルバムは、90年代のインディーロックやオルタナティブロックへのオマージュが随所に感じられる一方で、ウィルの鋭い観察眼と現代的な感性が注入され、唯一無二のサウンドを形成している。曲の構成や展開も緻密で、長尺のトラックでも聴き手を飽きさせず、エモーショナルなサウンドがリスナーの心に深く刺さる仕上がりだ。
トラックごとの解説
1. Fill in the Blank
アルバムの幕開けを飾る「Fill in the Blank」は、挑発的なギターリフとウィルの鋭いリリックが印象的な楽曲。歌詞には、周囲の期待やプレッシャーに対する反発心が込められており、リスナーを一気に青春の葛藤の世界へ引き込む。
2. Vincent
約7分にわたる「Vincent」は、スローテンポから徐々に高まる構成が特徴的で、内省的な歌詞がリスナーに訴えかける。自身のアイデンティティの揺らぎや周囲とのギャップがテーマで、パワフルなインストゥルメンタルパートが印象に残る。
3. Destroyed by Hippie Powers
「Destroyed by Hippie Powers」は、パンク的なビートと荒々しいギターが主導する楽曲で、リスナーを心の混沌の中に誘う。歌詞には、自己破壊的な思考や無力感が表現され、青春の無鉄砲さがエネルギッシュに描かれている。
4. (Joe Gets Kicked Out of School for Using) Drugs With Friends (But Says This Isn’t a Problem)
皮肉の効いたタイトル通り、この曲は友人関係と自己欺瞞をテーマにしており、シンプルなギターサウンドとエモーショナルなボーカルが共鳴する。トレドの独特のユーモアと痛烈な自己分析が光る一曲。
5. Not What I Needed
シンプルなギターメロディと重厚なリズムが組み合わさる「Not What I Needed」。ウィルの歌詞には、自分の行動が思い通りにならない苛立ちと、それを受け入れる過程が詰まっている。パワフルなサウンドとキャッチーなメロディが印象的だ。
6. Drunk Drivers/Killer Whales
アルバムのハイライトである「Drunk Drivers/Killer Whales」は、ウィルのボーカルとドラマチックなサウンド展開が感情を引き出す一曲。アルコール依存や自己破壊のテーマが描かれ、徐々に盛り上がる曲調が、自己変革への希望を感じさせる。
7. 1937 State Park
キャッチーなメロディとリズミカルなビートが印象的な「1937 State Park」。歌詞には人間関係の葛藤や自己疎外がテーマとして描かれており、内面の葛藤が浮き彫りになる。
8. Unforgiving Girl (She’s Not An)
「Unforgiving Girl」は、恋愛の複雑さや失敗を描いた楽曲。ポップなサウンドが楽観的に響く一方で、トレドの歌詞には皮肉がたっぷりと込められている。軽快なビートとキャッチーなメロディがリスナーを引き込む。
9. Cosmic Hero
9分を超える「Cosmic Hero」は、アルバムの中でも特に壮大なトラックで、トレドの内面の葛藤や孤独がテーマ。ドラマチックに展開されるサウンドとエモーショナルなボーカルが、まるで宇宙に漂うような孤独感を描き出す。
10. The Ballad of the Costa Concordia
アルバムの中で最も長い楽曲「The Ballad of the Costa Concordia」は、11分に及ぶ壮大な曲で、挫折や自己嫌悪がテーマ。船の沈没事故に自身の挫折を重ね合わせ、無力感や再生への願いが歌われている。長尺でありながらも飽きさせない構成が見事。
11. Connect the Dots (The Saga of Frank Sinatra)
アップテンポなビートと激しいギターが特徴の「Connect the Dots」。トレドの歌詞には皮肉や自嘲が込められており、勢いのあるサウンドがリスナーの心を突き動かす。
12. Joe Goes to School
アルバムのエンディングを飾る「Joe Goes to School」は、短くもノスタルジックなインストゥルメンタル。シンプルなメロディが、アルバム全体の余韻を残し、聴き手を静かに現実へと戻してくれる。
アルバム総評
「Teens of Denial」は、ウィル・トレドの深い内省と鋭い洞察が詰まった作品であり、青春の苦悩と成長、アイデンティティの模索が生々しく描かれている。荒削りなギターやパンク的な勢いが、リスナーの感情にダイレクトに響き、長尺の楽曲も飽きさせない緻密な構成が魅力だ。Car Seat Headrestはこのアルバムで、ただのインディーロックバンドではなく、個人的な体験や感情を普遍的なテーマに昇華させるアーティストとしての地位を確立した。多くのリスナーが青春の感情と向き合い、心の奥底に共鳴する体験を得ることができる一枚である。
このアルバムが好きな人におすすめの5枚
The Monitor by Titus Andronicus
壮大なストーリーテリングと激しいパンクサウンドが特徴。個人的なテーマと歴史的な比喩が「Teens of Denial」と共鳴し、ダイナミックな構成が魅力。
Twin Fantasy by Car Seat Headrest
Car Seat Headrestの初期の名作を再録音したアルバム。ウィル・トレドの感情的な歌詞と緻密なサウンドが、より鮮烈に響き、青春の苦悩が描かれる。
Slanted and Enchanted by Pavement
ローファイでエッジの効いたオルタナティブロックの名盤。「Teens of Denial」と共通するシニカルな視点と、粗削りながらも緻密なサウンドが楽しめる。
Is This It by The Strokes
シンプルでキャッチーなロックサウンドが特徴。若者の無気力やアイデンティティの迷いといったテーマが共通しており、勢いと切なさが魅力的。
In the Aeroplane Over the Sea by Neutral Milk Hotel
感情に訴えかけるリリックと独特のサウンドスケープが特徴の一枚。個人的な物語が普遍的なテーマに昇華され、「Teens of Denial」のファンに刺さる作品。
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