発売日: 2010年5月25日
ジャンル: ガレージロック、サイケデリックロック、ローファイ
2010年にリリースされたTy Segallのアルバム「Melted」は、彼の名前を一躍シーンに広めるきっかけとなった作品である。ガレージロックとサイケデリックロックの粗削りな要素を融合させ、そこに彼特有のポップ感覚を添えたサウンドは、聴く者に激しい音の波を浴びせつつも、どこか甘美なメロディを秘めている。2000年代後半から勢いを増していたローファイサウンドとDIYの精神を体現するこのアルバムは、スピーカー越しに音が直接耳に届くような感覚を与え、その生々しさと未完成感が逆に魅力となっている。
プロデュースはTy Segall自身が手がけ、低予算で録音されたという背景がサウンドに独特のフィルターをかけている。録音の際に、フィードバック音や歪みを惜しげもなく取り入れ、鋭く刺さるギターリフや無骨なドラムビートが混然一体となって炸裂するこのアルバムは、リスナーに一種の狂騒的なエネルギーを提供する。曲ごとに形を変えるアグレッシブなアプローチに支配されつつも、彼の繊細なメロディメイキングは決して埋もれることなく、どこかノスタルジックでアナログな温かみを感じさせる。Ty Segallの荒々しいヴォーカルと、予測不能な展開が繰り広げられる曲構成により、「Melted」はエッジの効いた中毒性のある作品に仕上がっている。
トラックごとの解説
1. Finger
アルバムの幕開けを飾る「Finger」は、重厚なドラムとギターリフが印象的なナンバー。粗い歪みとサイケデリックなメロディが混ざり合い、リスナーを一気にTy Segallの世界へ引き込む。特に終盤にかけて加速するギターソロは、耳をつかんで離さない緊張感を生み出す。
2. Caesar
軽快なリズムとポップなメロディが特徴の「Caesar」。荒々しい中にもキャッチーさが光るこの曲は、Ty Segallの作曲の多様性を感じさせる。歌詞には刹那的な感情が込められ、タイトルの通りローマの英雄「シーザー」のイメージと自己の葛藤を重ね合わせているようだ。
3. Girlfriend
「Girlfriend」は、愛する人への気持ちが歪んだサウンドと共に表現された楽曲だ。シンプルなコード進行に激しいフィードバック音が重なり、リスナーに不安と興奮が入り混じる体験を与える。歌詞は未熟な恋愛の苦さと甘さを描写しており、青春時代の葛藤を思い出させる。
4. Sad Fuzz
その名の通り、悲しみを感じさせるファズが効いたギターが特徴的な「Sad Fuzz」。ノスタルジックなメロディとローファイの質感が、どこか物悲しい情景を浮かび上がらせる。短いながらも、心に残る不穏な余韻を残す一曲だ。
5. Melted
アルバムのタイトル曲である「Melted」は、狂気とエネルギーが凝縮されたインストゥルメンタル・トラック。混沌としたギターとドラムの掛け合いが圧倒的な迫力を持ち、次々と展開される音の波が、まるで溶けるように混ざり合っていく。Ty Segallのクリエイティブな実験精神が詰まった一曲である。
6. Mike D’s Coke
リズムとグルーヴが際立つ「Mike D’s Coke」は、ローファイな音作りに一筋のファンク要素が加わったユニークなトラック。セガールのヴォーカルは、どこか気だるいながらも挑戦的なトーンで、曲の持つアナーキーな雰囲気を引き立てている。
7. Imaginary Person
不穏でありながらどこか夢幻的なムードを持つ「Imaginary Person」は、リバーブのかかったギターとボーカルが幻想的な世界観を作り出す。人間関係の葛藤をテーマにした歌詞が、繊細で不安定なサウンドと共鳴し、アルバムの中でもひときわ感傷的な一曲だ。
8. My Sunshine
「My Sunshine」は、従来のローファイスタイルに加え、サイケデリックロックの要素が色濃く反映されたナンバー。スローテンポで展開される曲調に、エフェクトのかかったヴォーカルが重なり、蜃気楼のように揺らぐサウンドスケープを生み出している。
9. Bees
「Bees」は、騒々しいノイズとともに激しいエネルギーを放つパンク調の曲で、エレキギターがとにかく前面に出ている。Ty Segallの攻撃的なサウンドが最も色濃く反映されており、ライブのような臨場感が伝わってくる。
10. Mrs.
最後のトラック「Mrs.」は、これまでの騒がしさが一段落し、落ち着いたテンポで終わる。歌詞には、かつての恋人や母親のイメージが暗示的に織り込まれており、アルバム全体の感情的なカタルシスを提供する。切なさと安堵が交錯するこの曲は、静かだが深い余韻を残すフィナーレにふさわしい。
アルバム総評
「Melted」は、荒削りであるがゆえの魅力と、中毒性のあるサウンドが詰まったアルバムだ。Ty Segallはこの作品で、ガレージロックに新たな命を吹き込み、ローファイの可能性を押し広げた。ジャンルの枠にとらわれずに実験的なアプローチを試みながらも、どこか懐かしい感情を引き起こさせるメロディが随所に見られ、彼の音楽が単なる騒音で終わらないことを証明している。エネルギッシュでカオスな音の中にある繊細さに触れたとき、リスナーはこのアルバムに一種の美しさを見出すだろう。
このアルバムが好きな人におすすめの5枚
Goodbye Bread by Ty Segall
自身のアルバムながら、少し落ち着いたアプローチで繊細な一面が垣間見える。ローファイサウンドと親しみやすいメロディが共通する一作。
Carrion Crawler/The Dream by Thee Oh Sees
同時期のガレージロックシーンで活躍するThee Oh Seesの作品。サイケデリックとガレージロックの混じり合った狂気的なサウンドが、Meltedのファンにぴったり。
MCII by Mikal Cronin
Ty Segallの仲間であるMikal Croninのソロ作品。ガレージロックにポップなメロディが重なり、Meltedの持つ荒削りな魅力と甘美さが共鳴する。
Primary Colours by The Horrors
ダークでサイケデリックなサウンドが、Meltedの不穏で幻想的な雰囲気と通じる。独特な音響効果と不思議な美しさが魅力。
Psychic Ills by Hazed Dream
ゆったりとしたサイケデリックサウンドと、ローファイ感が融合したアルバム。Meltedのサウンドが好きなリスナーには、心地よい揺らぎが感じられる一枚。
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