アルバムレビュー：Waves by NewDad

発売日: 2021年2月26日
ジャンル: ドリームポップ、インディー・ロック、シューゲイザー

概要
全曲レビュー
総評
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概要

『Waves』は、アイルランド・ゴールウェイ出身のインディー・ロック・バンドNewDadが2021年にリリースしたデビューEPであり、メランコリックなギター、内省的な歌詞、そして揺らぐような音像で、静かな衝撃を与えた作品である。

当時まだ10代〜20代前半だったメンバーたちによって作られたこのEPは、青春の混乱と孤独、そして微かな希望を、夢の中に漂うようなサウンドで描き出している。
タイトルの「Waves」は、感情のうねり、日常の繰り返し、あるいは押し寄せる不安と癒しの波を象徴しており、全体として“心の潮流”を音楽として可視化したような作品に仕上がっている。

NewDadはこのEPで、その後の『Blue』や『Madra』につながるサウンドの原型を提示し、ドリームポップ〜シューゲイザーの流れを新しい世代の文脈で捉え直した。

全曲レビュー

1. Drown

穏やかなギターアルペジオから始まる、沈黙のように美しいオープニング。
“沈む”というタイトル通り、感情が水中へ引きずり込まれるような感覚を描写している。
ボーカルのJulie Dawsonの囁くような声が、息苦しさと安堵を同時に表現する。

2. Blue

のちに同名EPにも再収録された代表曲。
メロウなギターと浮遊するサウンドスケープの中に、静かで深い“青”のイメージが広がる。
感情をあえて語らず“にじませる”ような表現が、バンドの美学を象徴している。

3. Cry

感情が溢れそうなギリギリのラインで保たれている、静かな激情のようなナンバー。
「泣きたいけど泣けない」という若者の抑圧された感情がリフと共に少しずつ爆発する。
ギターがノイズ一歩手前で揺らぐ瞬間に心が震える。

4. I Don’t Recognise You

タイトルが示す通り、“変わってしまった誰か”との距離感を描いたインディー・ロック。
サビでは一気に感情のボリュームが上がり、パーソナルな混乱が普遍的な響きを持つ。
ギターの分厚いレイヤーとドラムのうねりが、心のざわめきを視覚化する。

5. Waves

アルバムタイトル曲。
波のように寄せては返す感情の動きを、ミニマルなメロディと抑制された展開で表現。
「Some days I feel everything / some days I feel nothing」というフレーズが胸に残る。
感情の“鈍さ”と“繊細さ”が同居するNewDadらしい名曲。

総評

『Waves』は、NewDadの出発点でありながら、その完成度と感性の豊かさにおいてすでに突出していた作品である。
このEPでは、言葉にならない不安や孤独、誰にも伝わらないような微かな感情を、サウンドと歌のレイヤーで丁寧に描き出している。

そこには叫びもなければ、解決もない。
ただ、波のように揺れながら日々をやり過ごす、そんな誰かのリアルがある。
それこそが、NewDadが“夢の中の現実”を鳴らすバンドであることの証左であり、このEPの普遍的な魅力なのである。