アルバムレビュー：Oh Boy (EP) by Maya Delilah

発売日: 2020年6月26日
ジャンル: ネオソウル、インディー・ポップ、ジャズ・ポップ、R&B

概要
全曲レビュー
総評
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概要

『Oh Boy』は、ロンドン出身のシンガーソングライター／ギタリスト、Maya Delilah（マヤ・デリラ）が2020年にリリースしたデビューEPであり、ジャジーでしなやかなギター・サウンドと、等身大の恋愛観が融合した“洗練と親密さ”の詰まった作品である。

10代の頃からYouTubeなどを通じて注目を集めていた彼女は、ブルージーなギタープレイとスムースな歌声を武器に、新世代のネオソウル〜ジャズ・ポップの文脈で一気に頭角を現した。
本作ではその才能が余すところなく発揮されており、ベッドルーム・ポップ的な温もりと、都会的な洗練が同居する“マヤ・デリラらしさ”がすでに確立されている。

タイトルの「Oh Boy」は、恋愛の始まりや揺らぎの中でこぼれる心のつぶやきのようでもあり、全編を通して、感情の軽やかさと深さが見事に共存している。

全曲レビュー

1. Oh Boy

EPのタイトル曲にしてオープナー。
軽快なジャズコードとスキップするようなビートに乗せて、“恋の始まり”の戸惑いや期待が歌われる。
彼女特有のギター・フレージングがボーカルと掛け合うように展開し、耳にも肌にも心地よい1曲。

2. Breakup Season

明るいサウンドとは裏腹に、別れの予感を感じさせるリリックが切ないポップナンバー。
“別れが流行る季節”というユーモラスな視点がユニークで、ポジティブさの中に苦みを含ませるバランス感覚が光る。
Mayaのヴォーカルはあくまで柔らかく、痛みをやさしく包む。

3. Moonflower

EPの中でも最もジャズ色が濃い1曲。
夜の街角、または静かな部屋で聴きたくなるような、スローテンポのバラードである。
“月下の花”という象徴的なタイトル通り、可憐さと妖艶さを併せ持ったトラックで、ギターとウッドベースの対話が特に美しい。

4. Tangerine Dream

“みかん色の夢”というタイトルが示す通り、ノスタルジックでビターなラブソング。
リズムはやや跳ね気味で、浮遊するシンセが彼女のギターに寄り添うように広がる。
甘酸っぱい恋の記憶が音として香るような、小品ながら印象的な楽曲である。

5. Bitter Taste

EPの締めくくりにふさわしい、“後味”をテーマにした楽曲。
恋が終わった後の虚しさと、それでも忘れられない感覚を静かに描く。
エレクトロニックな要素が控えめに入り、これまでの生楽器的アプローチとのコントラストが際立つ。
ギターは語り手そのもののように寄り添い、余韻とともに静かに幕が下りる。

総評

『Oh Boy』は、Maya Delilahというアーティストの個性を鮮やかに提示する名刺代わりの一枚であり、恋愛のきらめきと痛み、そしてその余白までを、ギターと歌で描ききったコンセプチュアルなEPである。

ジャズ、ネオソウル、インディー・ポップの交差点に立ちながらも、決して気取りすぎず、日常の延長線上にあるような自然体の美しさを持っている。
特筆すべきはやはり彼女のギターであり、ヴォーカルとギターが“二人の会話”のように響き合う構成は、現代のソングライティングの中でも稀有な完成度を誇る。

この作品の魅力は、何よりその“さりげなさ”にある。
深く刺さる言葉も、複雑なコードも、すべてが呼吸のようにナチュラルで、Maya Delilahの音楽は“リスナーの部屋にそっと置かれる花束”のような存在なのだ。