
発売日: 2014年10月14日
ジャンル: エレクトロ・ポップ、シンセポップ、インディー・ロック、アート・ロック
概要
『Hungry Ghosts』は、OK Goが2014年に発表した4枚目のスタジオ・アルバムであり、バンドのヴィジュアル美学と音楽的野心が完全に融合した“視覚と音のトータルアート”としての完成形とも言える作品である。
アルバムのタイトル「Hungry Ghosts(飢えた亡霊たち)」は、仏教や道教における欲望の象徴的存在から取られており、“満たされないものへの欲求”をテーマにしたコンセプトが全体を貫いている。
サウンド面では、前作『Of the Blue Colour of the Sky』で見せたエレクトロニック路線をさらに洗練させ、80年代風のシンセサイザー、ファンクビート、きらびやかなプロダクションを駆使。
プロデューサーにはDave Fridmann(The Flaming Lips、MGMTなど)を再び起用し、OK Goらしい実験性とポップさのバランスを高い次元で成立させている。
また、各楽曲のミュージックビデオも圧倒的な創造性で話題を集め、音楽と映像が切っても切れない関係性を築き上げた作品でもある。
全曲レビュー
1. Upside Down & Inside Out
アルバム冒頭を飾る、躍動感と浮遊感が同居するシンセ・ポップ。
無重力空間で撮影されたMVと連動し、「感情の浮き沈み」を視覚的にも表現。
音楽的には80sファンクの影響も感じさせる。
2. The Writing’s on the Wall
ポスト・ブレイクアップソングとして機能する一曲。
視覚錯覚を駆使したワンカットMVでも知られ、リリックの“ずれ”と映像の“視点の変化”がシンクロしている。
ビートは軽快ながら、切なさが滲む構成。
3. I Won’t Let You Down
日本のホンダと共同制作したMVで話題を呼んだダンス・ポップ曲。
80年代のディスコサウンドを現代的にアップデートし、OK Goらしいカラフルな美学が炸裂。
「君を失望させない」というリフレインが高揚感を与える。
4. The One Moment
“一瞬”の中にすべてを詰め込むというMVコンセプトが象徴的。
音楽的にはシンフォニックな展開とエレクトロニックなビルドアップが融合し、ポップでありながら崇高な印象を残す。
5. Obsession
プリンターを駆使した超緻密なMVで話題となったテクニカル・トラック。
シーケンス的なビートとレイヤーの多いサウンドは、視覚と聴覚の“情報量”を意図的に一致させている。
タイトル通り“執着”を音でも映像でも描いている。
6. I’m Not Through
内省的なバラード。
サイケデリックな音処理が施されたボーカルと、ビートの浮遊感が印象的で、アルバム中でも異色の落ち着きを持つ楽曲。
7. Bright As Your Eyes
親密さとロマンスをテーマにしたミディアム・ナンバー。
タイトル通り、誰かの瞳の輝きのような温もりがメロディ全体を包んでいる。
8. Turn Up the Radio
クラブ向けのビートと反復するサビが中毒性を持つ、ダンス・トラック。
OK Goの中でも最も“外向き”なエネルギーを感じさせる一曲であり、ライヴでの盛り上がりも想像に難くない。
9. Another Set of Issues
リズムとメロディの“噛み合わなさ”が魅力の楽曲。
タイトルが示すように、“次なる問題”に直面する不安と皮肉を、軽快なグルーヴで包み隠している。
10. Lullaby
アルバムを穏やかに締めくくるドリーミーなバラード。
“子守唄”というタイトル通り、浮遊するシンセとゆったりとしたテンポが、エレクトロニック時代のラストトラックにふさわしい余韻を残す。
総評
『Hungry Ghosts』は、OK Goというバンドが“音楽”と“映像”を並列に扱うアーティスト集団であることを決定づけた作品である。
音楽だけでなく、視覚的な体験を前提とした構成は、ストリーミング時代の音楽表現における先駆的な試みといえるだろう。
一方で、映像を抜きにしても本作のサウンドは非常に緻密であり、80年代ポップ、ファンク、エレクトロニカといった要素を巧みに再構築した楽曲群は、バンドの成熟と革新性を同時に物語っている。
それは“視覚のトリック”に頼らずとも、耳で聴くだけで伝わってくる豊かな音のデザインとメッセージ性を兼ね備えている。
つまり『Hungry Ghosts』は、OK Goにとっての“最高に美しく、最高にポップな亡霊”なのだ。
おすすめアルバム(5枚)
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Phoenix / Wolfgang Amadeus Phoenix
同じくエレガントで洗練されたエレクトロ・ポップ。軽やかながら重層的な音作りが共通点。 -
Empire of the Sun / Walking on a Dream
視覚的世界観とサウンドの融合という点でOK Goと強い親和性を持つ。 -
MGMT / Little Dark Age
レトロ・フューチャーな感覚と実験性がOK Goの本作と重なる。 -
Foster the People / Torches
ダンサブルかつコンセプチュアルなポップアルバム。現代的な感性が近い。 -
Hot Chip / In Our Heads
UKエレクトロ・ポップの名作。インテリジェントで感情豊かな音がOK Goと呼応する。
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