発売日: 2015年7月17日
ジャンル: サイケデリックポップ、シンセポップ、エレクトロポップ
Tame Impalaの3作目となるアルバム「Currents」は、ケヴィン・パーカーがこれまで築き上げてきたサイケデリックロックのスタイルに、エレクトロニカやシンセポップの要素を取り入れ、大胆な音楽的進化を遂げた作品である。前作「Lonerism」ではサイケデリックロックに焦点を当て、ギターとエコーの効いたボーカルが特徴的だったが、本作ではシンセサイザーやドラムマシンを多用し、80年代のシンセポップの影響が色濃く感じられる。また、内省的なテーマと、愛や自己変革についてのパーカーの個人的な思いが込められ、アルバム全体を通して成熟した感情の旅が描かれている。
「Currents」では、パーカーが全楽器とプロダクションを手掛けており、細部にまでこだわったサウンドメイキングが施されている。サイケデリックな雰囲気を保ちながらも、より洗練され、ポップで聴きやすいトラックが揃っており、Tame Impalaのキャリアの中でも最も商業的に成功した作品でもある。
各曲解説
1. Let It Happen
アルバムの幕を開けるこの曲は、7分以上にわたる壮大なトラック。繰り返されるビートとシンセが催眠的な効果を生み出し、ケヴィン・パーカーのボーカルがリスナーを深いサイケデリックな旅へと導く。サビの「Just let it happen」というフレーズには、コントロールを手放し、流れに身を任せるというメッセージが込められている。
2. Nangs
短いながらもインパクトのあるトラックで、浮遊感のあるシンセが特徴的。タイトルはオーストラリアの俗語で「亜酸化窒素」を意味し、歌詞のテーマは現実逃避や虚無感といった内容を暗示している。幻想的な音が、心地よい夢のような雰囲気を作り出す。
3. The Moment
「The Moment」は、恋愛の終わりをテーマにした一曲で、シンセサウンドが生むアップビートなリズムが心地よい。明るいメロディとは裏腹に、別れの悲しみと成長を描いた歌詞が胸に響く。楽曲が持つ開放的なエネルギーが、切なさと前向きさを同時に感じさせる。
4. Yes I’m Changing
パーカーが自身の変化と過去の関係への別れを歌った感動的なバラード。シンセが優しく包み込むように響き、静かな決意が歌詞に込められている。パーカーの変化を受け入れる心境が、美しくメランコリックな音に表現されている。
5. Eventually
浮遊感のあるシンセサウンドと穏やかなビートが絡む楽曲で、痛みを伴う別れのプロセスが描かれている。タイトルが示すように「最終的には良くなる」というメッセージが込められており、悲しみと希望が交錯するメロディが印象的だ。
6. Gossip
インストゥルメンタルで、アルバム全体の中で次への架け橋となる短いトラック。シンセが静かに漂い、リスナーをさらに深い音の旅へと誘う。
7. The Less I Know the Better
「Currents」を代表する一曲で、ファンキーなベースラインとキャッチーなメロディが特徴。恋愛における未練と嫉妬心をテーマにしており、「知らなければ楽になれる」という皮肉を含んだ歌詞が共感を呼ぶ。80年代のディスコファンクを彷彿とさせるサウンドが新鮮だ。
8. Past Life
ボーカルエフェクトを駆使したこの曲は、過去の恋愛がテーマ。パーカーの内なる対話が表現され、過去の記憶と現実が交錯する。エフェクトが加えられた低音ボーカルが、夢と現実の狭間でさまよう感覚を生み出している。
9. Disciples
短くもエネルギッシュなトラックで、恋愛と人間関係に対する複雑な感情が表現されている。明るいリズムと甘いメロディが、淡く切ない感情を引き出している。
10. ‘Cause I’m a Man
「男だから」という言葉に皮肉を込め、弱さや無責任さをテーマにした楽曲。スローテンポでソウルフルなメロディが特徴的で、シンセサウンドが楽曲を柔らかく包み込む。パーカーの繊細なボーカルが浮き彫りにされ、複雑な感情が丁寧に描かれている。
11. Reality in Motion
自分の中で湧き起こる変化を受け入れ、現実と向き合う心境がテーマ。軽快なリズムがリスナーを引き込み、パーカーの成長が感じられるポジティブなトラックだ。
12. Love/Paranoia
タイトル通り、愛と疑念が入り混じる複雑な心境を描いた一曲。シンセサウンドが柔らかく漂い、パーカーのボーカルが不安と愛情の狭間を歌い上げる。サウンドと歌詞が感情の微妙な揺れを美しく表現している。
13. New Person, Same Old Mistakes
アルバムの締めくくりを飾るこの曲は、新たな自分を探し求めるも、同じ過ちを繰り返してしまう人間の矛盾を描いた一曲。ドラムマシンとシンセが生む緊張感あるサウンドが、内面の葛藤を象徴している。反復されるリズムが、中毒性のある余韻を残す。
アルバム総評
「Currents」は、Tame Impalaのサウンドが進化を遂げ、よりポップで洗練された音楽性が際立つ一枚だ。パーカーは、シンセサイザーやエレクトロニカの要素を大胆に取り入れ、内省的で感情的なテーマを描きつつも、キャッチーで心地よいサウンドに仕上げている。「Currents」は、恋愛、自己変革、成長をテーマにしたパーカーの個人的な旅路を描いたものであり、現代のサイケデリックポップの金字塔といえるだろう。
このアルバムが好きな人におすすめの5枚
Lonerism by Tame Impala
「Currents」の前作で、パーカーのサイケデリックな音楽性が本格的に確立された作品。ギターサウンドがメインだが、テーマの内省性は共通している。
Awaken, My Love! by Childish Gambino
ファンクとソウルを融合したアルバムで、「The Less I Know the Better」などのファンキーな要素が好きな人におすすめ。
A Moon Shaped Pool by Radiohead
内省的なテーマとシンセサウンドが共通し、現代的なサイケデリック感が感じられる作品。
Bloom by Beach House
ドリーミーなサウンドとエフェクトが心地よいアルバム。エレクトロニカとサイケデリックポップの融合が楽しめる。
Modern Vampires of the City by Vampire Weekend
テーマ性や音楽的な成熟が感じられるアルバムで、「Currents」と同様に新しい方向性を模索している。
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