発売日: 1993年3月29日
ジャンル: オルタナティヴ・ロック、ハードロック、ケルトロック
概要
『The Buffalo Skinners』は、スコットランドのロックバンド Big Country による6作目のスタジオ・アルバムであり、1993年にリリースされた。
前作『No Place Like Home』でアコースティックでフォーク寄りな方向へと向かった彼らは、本作で再びロックバンドとしてのパワーとダイナミズムを全面に打ち出している。
タイトルに使われた「Buffalo Skinners(バッファローの皮剥ぎ職人)」という言葉には、アメリカ開拓時代における野蛮さとサバイバルの精神が象徴的に込められており、アルバム全体にも荒野的なサウンドと暴力性、そして魂の回復をテーマとする作品世界が広がる。
バンドの中心人物スチュアート・アダムソンが再びギターを轟かせ、楽曲はどれもエネルギッシュで切迫感があり、1990年代のオルタナティヴ・ロックの空気を吸い込みながらも、Big Countryらしいケルト的な旋律とメロディアスな叙情性は健在である。
全曲レビュー
1. Alone
オープニングからヘヴィで鋭いギターリフが炸裂する本作のキートラック。
「孤独」をテーマに、内面の荒廃と再生を真っ向から描くストレートなロックナンバー。
スチュアート・アダムソンのボーカルがかつてないほど切迫して響く。
2. Seven Waves
穏やかでリリカルな立ち上がりから、次第に熱量を高めていく構成が印象的。
「七つの波」は人生の段階、あるいは感情の波を暗示しており、象徴的なリリックと繊細なギターが絡み合う美しい一曲。
3. What Are You Working For
社会批判を真正面からぶつけた、パワフルでエッジの効いたロックソング。
“お前は何のために働いている?”という問いかけが、消費社会と労働の空虚さを鋭く突く。
アメリカの労働者階級にも通じる普遍的メッセージを持つ。
4. The One I Love
ラブソングというよりも、喪失と渇望をテーマにしたバラード。
「愛した人」への思慕が過去形で語られることで、楽曲に切なさと静かな痛みが宿っている。
ミディアムテンポながら感情の振幅が大きく、心を揺さぶる。
5. Long Way Home
放浪と帰還をテーマにした、叙情的でスケール感のあるロックナンバー。
ギターの旋律が遠くの地平を想起させ、旅と自我を重ねるアダムソンの詩世界が展開される。
タイトルが示すように、回帰は簡単ではないという諦念も滲む。
6. The Selling of America
アメリカ文化の商業主義への痛烈な批判を込めたナンバー。
アグレッシブな演奏と鋭利な言葉が噛み合い、かつての『Steeltown』的な社会派の姿勢が蘇る。
ベースラインとドラムがリズミカルに前面へ出ており、力強い。
7. We’re Not in Kansas
前作にも収録された曲の再録バージョン。
本作ではよりロック寄りのアレンジが施され、より焦燥感と緊張感が高まっている。
“ここはもうカンザスじゃない”という象徴的なフレーズが、不確かな現実の不安を代弁する。
8. Ships
アコースティックな導入から、徐々に厚みを増していく構成が印象的なバラード。
“すれ違う船”を比喩に、孤立と理解の難しさを静かに描いている。
アダムソンの優しい声が深く沁み入る名曲。
9. All Go Together
集合と分裂、連帯と孤独という対立する概念を、力強く表現したロックチューン。
サビのシンガロング的フレーズが非常に印象的で、ライブでも映えるアンセム的な一曲。
10. Winding Wind
自然と人間、時間の流れと記憶の風をテーマにした、詩的なナンバー。
ギターがまるで風そのもののように流動し、構成も自由度が高く、アルバム後半の中で実験性が光る。
11. Pink Marshmallow Moon
タイトルとは裏腹に、哀愁と不安が交錯するダークなトーンのトラック。
“ピンクのマシュマロの月”というイメージが現実逃避や夢想の象徴として機能する。
幻想的なサウンドと逆説的なリリックが融合する異色作。
12. Chester’s Farm
アルバムを締めくくる物語的な楽曲。
田園と都市、過去と現在の対比が描かれ、風景描写の中に社会的な視点も潜む。
ラストにふさわしい余韻と、静かな感情の高まりが印象的。
総評
『The Buffalo Skinners』は、Big Countryが再び“電気の轟き”とともにロックの前線に返り咲いた作品である。
80年代のケルト風ロックを継承しつつも、90年代のグランジ/オルタナティヴ以降の時代性を吸収し、よりダイレクトかつラウドなサウンドへと変貌している。
しかし、そこにあるのは単なる音量の大きさではなく、切実な叫びと誠実な問いかけだ。
社会への怒り、個人の喪失、そしてどこかにある「希望」への希求が、スチュアート・アダムソンの声と旋律に込められている。
本作は、Big Countryがかつての幻想や神話を一度脱ぎ捨て、現実の泥に足を取られながらも音楽で歩き続けた記録とも言えるだろう。
『The Buffalo Skinners』は、荒野を生き抜く者たちの歌であり、叫びであり、そして静かな祈りなのだ。
おすすめアルバム(5枚)
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Pearl Jam / Vs. (1993)
同時代のロックの緊張感と人間味、社会性が共鳴。 -
The Alarm / Raw (1991)
ケルトロックとオルタナティヴの橋渡し的サウンドが近似。 -
R.E.M. / Monster (1994)
ロックのノイジーさと内省的視点の共存。 -
Simple Minds / Real Life (1991)
80年代バンドの90年代的再定義という共通のテーマ。 -
Manic Street Preachers / Gold Against the Soul (1993)
ヘヴィなギターと詩的なリリックが共鳴するロックの進化形。
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