発売日: 1973年9月
ジャンル: カントリーロック、ウェストコーストロック、アメリカーナ
概要
『The Adventures of Panama Red』は、New Riders of the Purple Sage（NRPS）が1973年にリリースした通算4作目のスタジオ・アルバムであり、彼らのキャリアの中で最も人気が高く、商業的にも成功を収めた代表作である。
その理由は、ひとえに“パナマ・レッド”というキャラクターに象徴されるような、サブカルチャーとユーモア、そしてカントリーの牧歌性が絶妙に融合した“NRPSらしさ”の極致にある。
パナマ・レッドとは、当時カリフォルニアで流通していた伝説的マリファナの俗称であり、本作のリリックではその人物を擬人化し、“自由気ままで怪しげなカウボーイ”として描かれている。
ジョン・ドーソン、デヴィッド・ネルソン、バディ・ケイジの三本柱に加え、ロバート・ハンター（グレイトフル・デッドの作詞家）が提供した歌詞も多く、NRPSの音楽性と物語性がここに結晶している。
全体的に明るくテンポも良いため、ライヴでの人気も高く、今なおファンに愛され続けているアルバムである。
全曲レビュー
1. Panama Red
表題曲にしてNRPS最大のヒット曲。
ロバート・ハンター作詞、ピーター・ローウェル作曲によるこの曲は、陽気なリズムに乗せて“パナマ・レッド”というアウトロー的存在を讃える。
軽快なギター、スティール、コーラスが絡み合い、一発で耳に残る名曲。
2. It’s Alright with Me
ジョン・ドーソンによる柔らかくポジティブなナンバー。
“君がいいなら、俺もいいよ”というシンプルなフレーズが、自由な愛と緩やかな時代の空気を象徴している。
優しさとユルさが同居した、心地よいカントリーロック。
3. Lonesome L.A. Cowboy
ピーター・ローウェル作の哀愁漂う名曲。
都会の孤独とウェスタン的美学が交差し、ロサンゼルスという現代の荒野で迷うカウボーイ像が浮かび上がる。
ペダル・スティールが胸に沁みる逸品。
4. Important Exportin Man
NRPSらしいひねりの効いたキャラクター・ソング。
メキシコとの国境をまたにかける“輸出業者”＝麻薬密売人を、コミカルに描いている。
陽気なメロディと皮肉な歌詞のバランスが絶妙。
5. One Too Many Stories
内省的でしっとりとした曲調。
“語りすぎた男”が抱える孤独と後悔を、静かに語りかけるようなアレンジで聴かせる。
ドーソンのソングライターとしての成熟が感じられる一曲。
6. Kick in the Head
少しハードなテンポとエッジの効いたリズムを持つロック寄りのナンバー。
生活の荒波に翻弄される様子を“頭への一撃”として表現し、ブルージーな緊張感を放つ。
7. You Should Have Seen Me Runnin’
恋愛の顛末をユーモアたっぷりに描いた、ライブでも人気の一曲。
NRPSの“語るような歌唱”と、カントリーロックらしい疾走感が心地よい。
8. Teardrops in My Eyes
カントリーのスタンダード曲をカバーした、涙と再生の物語。
バディ・ケイジのヴォーカルが美しく、オールドタイムなムードが漂う。
9. L.A. Lady
都会的で洗練されたカントリーポップ。
“ロサンゼルスの女性”というテーマのもとに描かれる都会と田舎の距離感が、NRPSならではの角度で表現されている。
10. Thank the Day
日常の些細なことに感謝する気持ちを素直に歌った、穏やかなクロージング・トラック。
ピアノとアコースティック・ギターの優しい響きが、アルバムの旅路を穏やかに締めくくる。
総評
『The Adventures of Panama Red』は、New Riders of the Purple Sageの音楽性、精神性、そしてユーモアがもっともバランスよく結実したアルバムである。
陽気で、緩やかで、時に皮肉も含みながら、それでも人生の断片を温かく見つめる視線が、すべての楽曲に通底している。
“カントリーは保守的な音楽”というステレオタイプを打ち破り、NRPSはカントリーの形式を借りてヒッピー的思想やカウンターカルチャーの自由を表現した。
本作はその最良の成果であり、アメリカーナの豊かさを体現した記念碑的作品といえるだろう。
“パナマ・レッド”の物語は今も、カントリーロックを愛するすべての放浪者の心に響き続けている。
おすすめアルバム（5枚）
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Grateful Dead – Wake of the Flood (1973)
同年リリースのデッド作。ロバート・ハンター作詞、アメリカーナの精神を共有。 -
The Flying Burrito Brothers – The Flying Burrito Bros (1971)
より洗練されたカントリーロック・サウンド。NRPSと並ぶ西海岸アウトローの代表格。 -
Poco – A Good Feelin’ to Know (1972)
ポップで親しみやすいカントリーロック。『It’s Alright with Me』と共鳴。 -
Commander Cody and His Lost Planet Airmen – Country Casanova (1973)
同じくユーモアとローカル感を武器にしたカントリーバンド。『Important Exportin Man』に通じる笑いのセンス。 -
Willie Nelson – Shotgun Willie (1973)
NRPSよりシリアス寄りだが、カントリーと自由精神の融合という意味で強い親和性。
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