アルバムレビュー：Stand Up by Jethro Tull

アルバムレビュー

2025.04.21

発売日: 1969年7月25日
ジャンル: フォークロック、ブルースロック、ジャズロック、初期プログレッシブ・ロック

“立ち上がれ”という宣言——Jethro Tullが本当の自分を見つけたアルバム
全曲レビュー
総評
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“立ち上がれ”という宣言——Jethro Tullが本当の自分を見つけたアルバム

『Stand Up』は、Jethro Tullにとって2作目のスタジオ・アルバムであり、
イアン・アンダーソンの個性が本格的にバンドを支配し始めた転機の作品である。

前作『This Was』ではブルース色の強いサウンドが中心だったが、ギタリストのミック・エイブラハムス脱退により、
そのブルース志向は解体され、代わって加入したマーティン・バレのギターが新しい音の土台となった。
さらに、アンダーソンのフォークやクラシック、バロック音楽への傾倒が如実に表れ始めたことで、
Jethro Tullは本作を境に“唯一無二の音楽性”を獲得することになる。

アルバムジャケットのポップアップ・デザインや、ツアーでの評価も高く、
全英チャート1位を記録したことで、Tullは名実ともにシーンの先端へと躍り出た。

全曲レビュー

1. A New Day Yesterday

ブリティッシュ・ブルースの残り香を残しつつも、
ベースリフ主導のグルーヴとアンダーソンのフルートが新時代の胎動を感じさせる。
歌詞は苦悩と希望の狭間を描く。

2. Jeffrey Goes to Leicester Square

アコースティック・ギターとフルートのアンサンブルによる小品。
“ジェフリー”という架空の人物を通して、都会の混沌と郷愁を描く、フォーク的感性が光る。

3. Bouree

バッハの「リュート組曲」より「ブーレ」をジャズアレンジで再構築したインストゥルメンタル。
クラシックとジャズ、ロックを自在に横断するTullの象徴曲であり、
フルート・ロックという新たな地平を切り拓いた。

4. Back to the Family

メロウなアコースティックから突然轟音が押し寄せる、ダイナミクスの妙が際立つナンバー。
家庭と自由の間で揺れる青年の心象が描かれる。

5. Look into the Sun

アンダーソンの静謐なギターとソフトなヴォーカルが心に沁みるバラード。
“太陽を見つめて”という祈りのようなメッセージが胸を打つ。

6. Nothing Is Easy

本作中もっとも攻撃的なロック・チューン。
変拍子と即興性を内包した構成は、プログレッシブ・ロックへの布石とも言える。
“人生に簡単なことなどない”というテーマを、挑発的なグルーヴで叩きつける。

7. Fat Man

インドのパーカッション（バラフォンやタブラ）とアンダーソンのマンドリンが交錯する異色作。
“太った男”というユーモラスなテーマに、皮肉と人間賛歌が込められた。

8. We Used to Know

後にイーグルスの「Hotel California」に影響を与えたとされるギターフレーズが登場。
過ぎ去った日々への追憶と諦念が、美しい旋律に滲む、Tull流のフォーク・バラード。

9. Reasons for Waiting

オーケストラとアコースティックの融合が美しい、初期Tullの抒情性の極み。
アンダーソンの私的な愛情表現が、やさしく音楽に昇華されている。

10. For a Thousand Mothers

アルバムを締めくくる、怒りと反逆のエネルギーに満ちたロックナンバー。
母たちへ向けた一種の皮肉とも祝福ともとれるタイトルと、荒々しい演奏が対比を成す。

総評

『Stand Up』は、Jethro Tullがブルースロックから脱却し、独自の音楽的宇宙に“立ち上がった”記念碑的作品である。
イアン・アンダーソンの個性が全面に出ることで、
ここにはブルースの炎、フォークの温もり、クラシックの構造美、そしてロックの暴力性が絶妙なバランスで混在している。

本作は、バンドがやがて到達する『Aqualung』や『Thick as a Brick』といった大作志向の原点にして、
最も聴きやすく、最も瑞々しい“Jethro Tullらしさ”が詰まったアルバムでもある。