発売日: 1994年11月1日
ジャンル: オルタナティヴ・ロック、アコースティック
MTV Unplugged in New Yorkは、ニルヴァーナが1993年11月に収録したアコースティックライブで、カート・コバーンの最後の音楽的メッセージとなった。通常の「MTVアンプラグド」シリーズとは異なり、バンドはヒット曲をほとんど演奏せず、むしろ彼らの影響を受けたカバー曲や、通常ライブではあまり演奏しなかった楽曲を中心に構成した。このアルバムには、荒々しいグランジサウンドを一時的に置き去りにし、コバーンの繊細で痛みを伴った歌声が、簡素でシンプルなアレンジの中に深く響いている。コバーンの哀愁と絶望がそのまま音に込められたこのライブは、彼の死後にリリースされ、彼の存在を象徴する遺作として今も多くの人々に愛されている。
各曲解説
About a Girl
Bleach収録のこの楽曲をアコースティックで披露することで、新たな一面が引き出されている。シンプルなメロディが際立ち、コバーンの声が曲の切なさをさらに強調。ニルヴァーナのエネルギーが凝縮されたオープニングトラックだ。
Come as You Are
Nevermindからのヒット曲で、アコースティックギターの響きが深みを増し、歌詞の「ありのままで」というメッセージが一層強調されている。コバーンのリラックスした歌声が聴き手に優しく語りかけ、ライブならではの温かみが感じられる。
Jesus Doesn’t Want Me for a Sunbeam
ヴァセリンズのカバーで、憂鬱さと皮肉が同居する一曲。アコーディオンが加わり、独特な味わいが生まれている。カートの歌声が哀愁を帯び、聴く者の心に静かに沁み込む。
The Man Who Sold the World
デヴィッド・ボウイのカバーとして特に人気のある一曲。コバーンの静かなボーカルとアコースティックギターの音色が、曲の持つ不安と孤独を一層引き立てている。ボウイのオリジナルとは異なる解釈が際立ち、ニルヴァーナのアンプラグドならではの名演だ。
Pennyroyal Tea
アルバムIn Uteroからの楽曲で、内面の苦悩が剥き出しになっている。このライブバージョンは特に静けさが際立ち、コバーンの低く抑えた声が、曲の痛々しいテーマを増幅させている。
Dumb
ストリングスを控えめに加えたアレンジで、曲の切なさと柔らかさが際立つ。コバーンのシンプルなボーカルが、内省的で自嘲的な歌詞にリアリティを与え、静かな感動を呼ぶ。
Polly
アコースティックアレンジがそのまま生かされた「Polly」は、曲の持つ暗く冷たいテーマをより明確に伝える。観客の静寂が曲の緊張感を高め、コバーンのボーカルがリスナーの心に鋭く響く。
On a Plain
軽快なテンポながら、アコースティックによって一層メロディが引き立ち、歌詞の不条理さが浮かび上がる。コバーンのカジュアルな歌声が曲のユニークさを増幅し、ライブのムードを少し和らげている。
Something in the Way
静寂の中でコバーンが紡ぐこの曲は、ニルヴァーナの深い絶望と孤独を表現している。演奏の隙間に漂う静けさが、そのテーマをさらに強調し、アルバム全体のメランコリックな雰囲気を形作っている。
Plateau
ミート・パペッツのカバーで、ゲストとしてオリジナルバンドのメンバーが参加。アメリカ南部の風景を思わせるカントリー調のメロディが新鮮で、コバーンのボーカルが異なる一面を見せている。
Oh, Me
同じくミート・パペッツのカバーで、夢幻的なサウンドが印象的。独特のリズムと簡素なアレンジが、深い内省の世界を作り出している。
Lake of Fire
「人は死んだらどこへ行くのか？」と問いかける歌詞が印象的で、ミート・パペッツのカバー。暗いテーマにも関わらず、バンドの一体感が際立ち、ライブの盛り上がりを感じさせる。
All Apologies
In Uteroからの楽曲で、シンプルなギターと心の奥底からの歌声が、聴く者に深い余韻を残す。コバーンの「太陽の中でひとつになれる」というリフレインが心に染み渡り、痛みと救済が同居する象徴的な曲だ。
Where Did You Sleep Last Night
ブルースの巨人リード・ベリーによるフォークソングのカバーで、アルバムの最後を締めくくる名演。コバーンのボーカルが切迫感を増し、最後の叫びで完全に燃え尽きるように終わる。カートの苦悩とエネルギーが音楽として最高潮に達し、リスナーの心を震わせる。
アルバム総評
MTV Unplugged in New Yorkは、ニルヴァーナの楽曲を新たな視点で再発見できる傑作ライブアルバムだ。コバーンの歌声には、彼の葛藤と苦悩、そして一瞬の安らぎが感じられ、聴く者を彼の心の奥深くへと誘う。アコースティックなアレンジによって、荒削りなサウンドが消え去り、ニルヴァーナの内面がよりクリアに伝わってくる。彼が生前最後に残したライブパフォーマンスとして、MTV Unplugged in New Yorkはそのまま彼の遺作であり、永遠に輝き続ける作品だ。
このアルバムが好きな人におすすめの5枚
Alice in Chains – MTV Unplugged
シアトル・グランジシーンの代表バンドであるアリス・イン・チェインズのアンプラグドライブ。レイン・ステイリーの哀愁漂うボーカルが、コバーンの声に共鳴する。
Pearl Jam – MTV Unplugged
パール・ジャムの貴重なアコースティックライブで、エディ・ヴェダーの力強い歌声が印象的。ニルヴァーナのファンにも楽しめる。
The Smashing Pumpkins – Adore
スマッシング・パンプキンズのアコースティックなアルバムで、メランコリックなトーンが特徴。カートの内省的な一面に共感できるリスナーにおすすめ。
Eric Clapton – MTV Unplugged
エリック・クラプトンによるアンプラグドの名盤。シンプルで温かみのある演奏が特徴で、ニルヴァーナのライブとは異なるが、アコースティックファンに響く。
Neil Young – Harvest
ニール・ヤングのフォークロックの名盤で、カート・コバーンに多大な影響を与えた。内省的でシンプルな美しさが、MTV Unplugged in New Yorkと共通している。
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