
1. 歌詞の概要
「No Excuses」は、Alice in Chainsが1994年にリリースしたEP『Jar of Flies』の収録曲であり、同年にシングルとしてもリリースされた。BillboardのMainstream Rock Tracksチャートでバンド初の1位を記録した曲であり、ハードなイメージの強い彼らにとって、より柔らかくメロディアスな側面を提示する転機となった作品でもある。
タイトルの「No Excuses(言い訳はしない)」は、**人間関係のもつれや摩擦において、“自分の非を認めたうえで相手と向き合おうとする姿勢”**を象徴している。
歌詞には、失われかけた信頼、誤解、自己矛盾、そしてそれを乗り越えようとする努力が、淡々とした語り口で描かれている。
Cantrellは語り手として、怒りや後悔を声高に語るのではなく、内にこもった反省と受容の感情を淡々と吐露する。これにより、リスナーの心に静かに浸透するような感覚を生み出している。
2. 歌詞のバックグラウンド
この曲は、ギタリストのJerry Cantrellが、当時のバンドのフロントマンLayne Staleyとの関係について書いたとされている。二人は公私にわたるパートナーでありながら、音楽的・個人的な距離がしばしば問題となっていた。特にStaleyの薬物依存の悪化は、バンドの活動そのものに影響を与えるほど深刻だった。
「No Excuses」は、そうした関係の中で「言い訳せずに付き合い続けること」「許すこと」「見守ること」の難しさと美しさを描いたものといえる。Cantrell自身がメイン・ボーカルを務めており、友への静かな訴えのようにも響く。
『Jar of Flies』自体が、バンドがスタジオに入ってから数日間の即興的なセッションで完成したという逸話を持つ作品であり、全体としてリラックスしたムードと透明感ある音像が特徴的。本曲でもその空気感は色濃く現れている。
3. 歌詞の抜粋と和訳
以下に、歌詞の印象的な一節を抜粋し、対訳を掲載する。
It’s alright / There comes a time
大丈夫さ 誰にでもそんな時があるGot no patience to search for peace of mind
心の安らぎを探す余裕も 今はもうないんだLayin’ low / Want to take it slow
目立たずにいよう 少しゆっくり進みたいだけNo more hiding or disguising truths I’ve sold
もう隠したりごまかしたりしない 自分で売ってきた“真実”を
出典:Genius.com – Alice in Chains – No Excuses
歌詞には自己認識と他者への思いやりが入り混じっており、**「もう隠し立てはしない」「過去の言動を悔いている」**という姿勢が静かに語られる。
4. 歌詞の考察
「No Excuses」は、Alice in Chainsの他の代表曲――たとえば「Down in a Hole」や「Rooster」など――に比べると、感情の“爆発”ではなく、“整理”がなされている楽曲である。
語り手は誰かを責めることも、自分を過剰に卑下することもしない。過去を振り返りながらも、「こうするしかなかった」「これが自分たちだ」というどこか達観した目線が印象的だ。
特に「No more hiding or disguising truths I’ve sold(もう真実を偽ることはしない)」という一節には、過去に口にしてきた“半分の真実”をようやく直視しようとする強さが感じられる。この“言い訳しない”というスタンスは、個人としての成熟を感じさせると同時に、バンドとしての次のフェーズを予感させた。
この楽曲は友情、信頼、自己変容の物語であると同時に、**「関係を続けるには何を手放し、何を抱え直さねばならないか」**という普遍的な問いを含んでいる。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- Brother by Alice in Chains
肉親との距離感と癒えぬ心の傷を歌った、優しさと痛みが混在するバラード。 - Over Now by Alice in Chains
終わりを受け入れることの難しさと、そこに潜む清々しさを描いた曲。 - Elderly Woman Behind the Counter in a Small Town by Pearl Jam
過去の自分と向き合いながら、“今”を生きようとする、静かで力強い歌。 - Disarm by The Smashing Pumpkins
過去の傷や親との関係を巡る感情を、繊細かつ壮大に表現した名曲。
6. “言い訳のない優しさ” ― グランジの中の静かな人間賛歌
「No Excuses」は、グランジというジャンルが持つ“怒り”や“絶望”の要素から一歩離れ、“優しさと赦し”という人間の本質的なテーマへと踏み込んだ作品である。
それは弱さの肯定であり、痛みの共有であり、何よりも「言葉にできなかったことをようやく語れるようになった瞬間」の記録である。
**「No Excuses」**は、関係が壊れそうになったとき、
その場に残って“もう一度向き合う勇気”を選んだ人間のための歌である。
騒がしくないけれど、
この曲には、人生を変えるほどの静かな強さが確かに宿っている。
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