Little by Little by Oasis(2002)楽曲解説

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1. 歌詞の概要

「Little by Little」は、Oasisが2002年にリリースした5作目のスタジオ・アルバム『Heathen Chemistry』からのシングルであり、ノエル・ギャラガー自身がリード・ボーカルを務めたエモーショナルなバラードである。

この楽曲の主題は「不完全な自分をどう受け入れるか」という普遍的な問いにある。完璧ではないこと、過ちを犯すこと、弱さを抱えること——そうした人間の本質に向き合いながらも、少しずつ前に進もうとする意思が込められている。

「Little by little / We gave you everything you ever dreamed of」という繰り返されるラインには、誰かに全てを与えてしまった代償、あるいは自分を犠牲にして何かを守ろうとした者の苦しみと諦念が滲んでいる。

この曲は、“勝者の歌”ではない。むしろ、傷つきながらもなお生き続けようとする、名もなき人々の“日々の歌”なのだ。

2. 歌詞のバックグラウンド

「Little by Little」は、ノエル・ギャラガーがアルバム制作の中で自然発生的に書き上げた曲であり、もともとはリアムが歌う予定だったという。しかし最終的にノエル自身が歌うことになり、結果としてその内省的なトーンと詞の内容がより深くマッチする仕上がりとなった。

2002年当時、Oasisは結成から10年近くを迎え、初期の爆発的エネルギーから成熟と内省のフェーズに移行しつつあった。『Heathen Chemistry』全体も、派手さよりも心に寄り添うような表現が目立ち、「Little by Little」はその象徴ともいえる。

またこの曲のミュージック・ビデオには俳優ロバート・カーライルが出演しており、日常と非日常が交錯する寓話的な演出が、楽曲の内面的な世界観と見事に調和している。

3. 歌詞の抜粋と和訳

以下は「Little by Little」の印象的なフレーズである。引用元は Genius Lyrics。

We the people fight for our existence
僕らは、自分の存在意義のために戦っている

We don’t claim to be perfect but we’re free
完璧ではないけれど、自由ではある

We dream our dreams alone with no resistance
誰にも邪魔されず、自分たちだけの夢を見る

Fading like the stars we wish to be
なりたいと願った星のように、僕らは消えていく

Little by little
少しずつ

We gave you everything you ever dreamed of
君が夢見たものを、すべて僕らは捧げた

As little by little
ほんの少しずつ

The wheels of your life have slowly fallen off
君の人生の車輪が、ゆっくりと外れていく

このように、歌詞は小さな変化や崩壊、喪失を「少しずつ」と描きながら、深い余韻を残す。

4. 歌詞の考察

「Little by Little」は、自己否定からの再生、愛と喪失、理想と現実の隔たりといったテーマを静かに掘り下げていく楽曲である。

冒頭の「We the people fight for our existence(僕らは自分の存在のために戦っている)」という一節から、これは個人の物語であると同時に、社会の中で孤立しがちな“誰か”たちの代表として歌われていることがわかる。

この曲の美しさは、極めて現実的で痛みを伴う言葉たちが、あくまでも穏やかなトーンで歌われていることにある。「夢をすべて与えた」ことによって、「自分」が壊れていくというパラドックスには、自己犠牲と愛の矛盾が潜んでいる。

また「完璧ではないが自由である」というラインには、Oasisが90年代以降ずっと掲げてきた“自由の精神”が受け継がれており、まるでバンドの歩みそのものを象徴しているようにも見える。

ノエル・ギャラガーの歌声はここで実に控えめで、それが逆に歌詞の切実さを引き立てる。大声で叫ばなくても、静かに語りかけるだけで、人の心に届く——そんな境地にOasisが達したことを示す名唱である。

5. この曲が好きな人におすすめの曲

  • Let There Be Love by Oasis
    愛と許しをテーマにした、Oasis後期を代表するバラード。兄弟の共演が胸を打つ。

  • Songbird by Oasis
    リアムが書いた珍しいラブソング。シンプルな中に温もりが宿る。
  • The Importance of Being Idle by Oasis
    ユーモアと皮肉が混ざった大人の余裕を感じさせるミディアム・ナンバー。

  • High and Dry by Radiohead
    孤独と失望を美しく昇華させた名バラード。共通する繊細な感情の輪郭を描く。

  • Bittersweet Symphony by The Verve
    運命と抗えない現実を、壮大なオーケストレーションと共に描き出す一曲。

6. 少しずつ崩れ、少しずつ前へ進む——Oasisの成熟の証

「Little by Little」は、Oasisの楽曲の中でもひときわ内省的で、深い情感を湛えた作品である。

それはロック・スターの虚飾ではなく、人間としての弱さや迷いにフォーカスを当てたリアルなバラードだ。大声で世界を変えようとした初期のOasisとは異なり、この曲では“声を潜めながら”も“確かな真実”を語っている。

だからこそ、聴く者の人生の一場面——特に自分を見失いそうなとき、不完全な自分に苦しんでいるとき——にそっと寄り添ってくれる。

Oasisは「Little by Little」で、音楽がどれほど静かであっても、そこに“人間の本音”が宿っていれば、それは確かに人を救うということを証明してみせた。

失っても、崩れても、それでも前に進むために——
この曲は、そんなすべての人に捧げられた、小さな、でも力強い賛歌なのである。

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