Sunday Bloody Sunday by U2(1983)楽曲解説

 

1. 歌詞の概要

「Sunday Bloody Sunday」は、U2が1983年に発表したサード・アルバム『War』に収録された代表曲であり、北アイルランド紛争の中で起きた“血の日曜日事件”を背景に、暴力と憎しみの連鎖に対する怒りと悲しみを、激しいビートと訴えるようなボーカルで描いた反戦の賛歌である。

タイトルにある“Sunday Bloody Sunday”は、1972年1月30日に北アイルランドのデリー(ロンドンデリー)で実際に起きた事件に由来している。
この日、イギリス軍が平和的なデモ隊に発砲し、13人(のちに1人が死亡し計14人)が命を落とした。
U2はこの曲で、事件そのものというよりも、暴力の連鎖に巻き込まれた市民、そしてその苦しみと絶望を訴える視点からこの悲劇を語っている

歌詞は報復や政治的主張ではなく、「どうしてこのような惨劇が繰り返されるのか?」という根源的な問いかけであり、暴力に対する人間的な拒絶反応そのものが綴られている。

2. 歌詞のバックグラウンド

「Sunday Bloody Sunday」は、ギタリストのエッジ(The Edge)が失恋の痛みと社会情勢の不安を重ねて書き始めた曲であり、のちにボノがその内容を“より広義的な政治批評”へと昇華させたことで完成した。
本作が収録されたアルバム『War』は、その名の通り政治的・社会的テーマに正面から向き合った作品で、U2の“社会派ロックバンド”としての地位を確立するきっかけとなった。

バンドはこの曲を通じて、「宗教的対立、民族的報復、国家の暴力」などが市民の心に与える傷の深さを広く訴えており、あえて自分たちのスタンスを強く明言しすぎずに、“暴力そのものの無意味さ”を突きつける普遍的なメッセージを選んだ。

ライヴでは、この曲の演奏前にボノが「これは反イギリスの歌ではない」と繰り返し説明したことでも知られており、それは政治的な分断ではなく、人道的な立場からの発言であることを強調するためだった。

3. 歌詞の抜粋と和訳

以下は「Sunday Bloody Sunday」の印象的な一節。引用元は Genius Lyrics。

I can’t believe the news today
今日のニュースが信じられない

Oh, I can’t close my eyes and make it go away
目を閉じたって、現実は消えてくれない

How long, how long must we sing this song?
いつまで、私たちはこの歌を歌い続けなければならないのか?

この冒頭のフレーズは、現代に生きるすべての人に向けた問いかけであり、暴力や理不尽な死を“他人事”として見過ごせないという姿勢を強く打ち出している。

And it’s true we are immune
たしかに私たちは、(感情に)鈍くなってしまっている

When fact is fiction and TV reality
事実が作り物に、テレビが現実になってしまうこの時代に

ここでは、メディアの中で繰り返される“戦争の映像”が人々の感覚を麻痺させているという鋭い批評が込められている。
暴力が日常となってしまうことへの恐怖——それがU2の問いの核心である。

4. 歌詞の考察

「Sunday Bloody Sunday」は、政治的・宗教的対立を超えて、“流される血の痛みは誰のものでもない”という普遍的人道の視点を強く訴えた曲である。

この楽曲の革新性は、単なる出来事の報告や批判にとどまらず、“被害者が声を上げられない中で、代わりに叫ぶこと”をロックという形で体現している点にある。

また、歌詞に込められた「How long must we sing this song?(いつまでこの歌を歌い続けなければならないのか)」という問いは、変わらない現実に対する諦めと、それでも希望を持ち続けたいという切実な願いが交差する、非常に痛切な一行である。

ボノの歌声、エッジの鋭利なギターリフ、そして軍隊のマーチのようなラリー・マレン・ジュニアのドラムビートが一体となって、戦争の冷酷さと市民の怒り、そしてその中にある悲しみを、まさに身体ごと感じさせてくる。

5. この曲が好きな人におすすめの曲

  • Zombie by The Cranberries
    アイルランドのテロに対する市民の怒りを歌った、魂の叫び。女性的視点からの抗議が特徴的。
  • Masters of War by Bob Dylan
    戦争を起こす者たちへの静かな怒りを綴った、フォーク・プロテストの傑作。
  • Fortunate Son by Creedence Clearwater Revival
    ベトナム戦争と徴兵制度に対する皮肉を込めた、アメリカの反戦ロック。
  • Bullet the Blue Sky by U2
    U2によるもうひとつの“戦争と権力”をテーマにした名曲。ギターが暴力そのもののように響く。
  • Imagine by John Lennon
    国家や宗教の枠を超えた理想社会を描いた、平和への普遍的な祈り。

6. “歌うこと”が唯一の武器であるならば

「Sunday Bloody Sunday」は、U2というバンドがただのロックグループではなく、“声を持たない人々の代弁者”としての使命を担ってきたことを証明する楽曲である。

彼らがこの曲で選んだのは、過激な怒りでも、政治的な偏向でもなく、“人間としての痛み”を歌うという方法だった。
その誠実な姿勢が、40年以上経った今もこの曲を色褪せさせない最大の理由である。

「Sunday Bloody Sunday」は、戦争や憎しみの真ん中で歌われた、**希望のない時代に生まれた“希望の火”**なのかもしれない。
それは大きな力にはなれないかもしれない。けれど、声を上げることはやめない——そんなU2の“信念の証”として、この曲は今も世界中で響き続けている。

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