City of Blinding Lights by U2(2004)楽曲解説

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1. 歌詞の概要

「City of Blinding Lights」は、U2が2004年に発表したアルバム『How to Dismantle an Atomic Bomb』に収録された楽曲であり、過ぎ去った青春、信じていた理想、そして“世界のまばゆさ”に心を奪われた若き日の記憶と、それに対する今の視点を交錯させる、詩的かつ叙情的な名曲である。

タイトルの“City of Blinding Lights(目もくらむ光の街)”とは、ボノが初めて訪れたニューヨーク、あるいはロンドン、あるいはパリかもしれない。
それは物理的な都市であると同時に、理想、希望、夢、憧れといった“光に満ちた世界”の象徴でもある
そしてこの曲では、そうしたまばゆいものに圧倒されていた若き日々と、成熟した今の自分との対話が、情熱と哀愁を帯びたメロディとともに描かれている。

「あなたは美しい」「かつて僕はそれを信じていた」——その繰り返されるフレーズには、世界への憧れ、そして自分がそれをどう受け取ってきたかへの“祈りのような回想”が込められている。

2. 歌詞のバックグラウンド

この曲は、U2がアルバム『How to Dismantle an Atomic Bomb』を制作していた2003〜2004年に書かれ、ボノが20代前半に体験した“世界との最初の出会い”を反芻するような内容となっている。

ボノはインタビューで、初めてニューヨークに降り立った時のことを「世界が信じられないほど明るく見えた」と語っており、彼の心に刻まれた“都市の初恋”の記憶が、この曲に流れている
また、ツアー中に訪れた各都市の“光”や“景観”が混ざり合い、抽象的な“街”として描かれている点も特徴的だ。

同時にこの曲は、“失われてしまった若さの感覚”への追悼歌でもある
それは青春の輝きそのものではなく、何も恐れずに美しさを信じられた心のことであり、その記憶がこの楽曲のコアとなっている。

また、2008年のバラク・オバマの大統領選挙において、この曲が選挙キャンペーンや集会で使用されたことから、理想を信じて立ち上がる力の象徴としても広く認知されている。

3. 歌詞の抜粋と和訳

以下は「City of Blinding Lights」の印象的な一節。引用元は Genius Lyrics。

The more you see, the less you know
見れば見るほど、わからなくなる

The less you find out as you go
進むほどに、真実は見えなくなる

I knew much more then than I do now
昔のほうが、よっぽど多くのことを知っていた気がする

この逆説的な歌詞は、経験を積むことで得られる“謙虚さ”と、“無垢な確信”を失っていく感覚を美しく表現している。
大人になることで見えてくる世界の複雑さと、若さが持っていた盲目的な信仰——その対比がこの一節には詰まっている。

Oh, you look so beautiful tonight
今夜の君は本当に美しい

In the city of blinding lights
目もくらむ光の街の中で

繰り返されるこのフレーズは、愛する者への讃歌であると同時に、過去の記憶への語りかけでもある
「美しさ」が意味するのは外見ではなく、希望を信じられた瞬間の内面の輝きだと解釈することができる。

4. 歌詞の考察

「City of Blinding Lights」は、成熟と喪失、記憶と再生、個人と世界というテーマが見事に重層化された楽曲である。

ボノはここで、都市の光を借景にして、“若さの傲慢さ”と“現在の迷い”を行き来しながら、かつての自分と対話する
「若い頃のほうが多くを知っていたように思えた」というのは、単に経験が浅かったからではなく、信じる力が強かったからである。
その力を失った今、「何が本当に美しいのか?」という問いが、都市のネオンの中で反響している。

また、この曲にある“都市賛歌”のようなトーンは、希望と警告の両義性を持つ。
まばゆい光の裏にある影や虚構にも気づいてしまった自分が、なおその街の美しさを信じようとする——
それは、現代に生きるすべての人間の姿勢でもある。

さらに、楽曲全体に漂うゴスペル的な広がりとスピリチュアルな高揚感は、U2らしい“宗教性と詩情の融合”を感じさせ、単なるノスタルジーではなく、記憶を通して今を照らす光として機能している。

5. この曲が好きな人におすすめの曲

  • The Unforgettable Fire by U2
    幻想的な音響の中に、記憶と時間が漂う。夢と現実の境界を描くU2の名バラード。
  • Welcome to the Black Parade by My Chemical Romance
    若き日の理想と挫折、そして再起をドラマチックに描いた現代の青春絵巻。
  • Neon Lights by Kraftwerk / カバー by Simple Minds
    都市の人工光と孤独を描いた、電子音楽的都市讃歌。
  • Midnight City by M83
    ナイトドライヴのような浮遊感と、失われた感情への渇望が共鳴するドリーム・ポップ。
  • Streets of Philadelphia by Bruce Springsteen
    都市と孤独、人間の尊厳について語りかける、静かな都市のブルース。

6. “世界の輝きに目を奪われた、その瞬間をもう一度”

「City of Blinding Lights」は、かつて世界を信じることができた自分と、今の自分との静かな再会の歌である。

それは単なる回想ではなく、失ってしまった何かを取り戻すための“魂の探求”なのだ。
光に圧倒されたあの日、あなたが美しいと信じたものは、今でもまだ美しいのか?
それとも、それを美しいと思える心こそが、最も大切なものだったのか?

この楽曲は、“美しさとは何か”という問いを、都市という舞台で、音楽という祈りで、そっと投げかけてくる
そして、その問いに答えるのは、聴いているあなた自身なのだ。

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