アルバムレビュー:Burnin’ Sky by Bad Company

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発売日: 1977年3月3日
ジャンル: ハードロック、ブルースロック、アリーナロック


燃える空に映る、影と焦燥——“バッド・カンパニー”が見せた荒野のブルース詩

Burnin’ Sky』は、Bad Companyが1977年に発表した4枚目のスタジオ・アルバムであり、成功のピークを越えた彼らが、“自分たちのルーツ”へと立ち返ったような、スモーキーで内省的なロック作品である。
前作『Run with the Pack』の繊細さとバラエティに富んだ楽曲群から一転、本作ではブルースロック本来の荒さと土臭さ、そしてアメリカ南部的な荒野の空気感が色濃く打ち出されている。

タイトルの“Burnin’ Sky(燃える空)”は、怒りや情熱、焦燥、そして戦いの予兆といった複雑な感情の象徴であり、アルバム全体に漂う孤独な熱気と重なる。
ヒットチャート的にはやや控えめな結果に終わったものの、バンドの“核”となるグルーヴ感とスピリチュアルな深みはむしろ際立っている。


全曲レビュー

1. Burnin’ Sky

タイトル曲にして、アルバムの幕開けを飾る壮大なロック・ナンバー。
ミッドテンポの重たいリフと、広がるようなアレンジが“灼熱の空”のビジョンを見事に描き出す。
ロジャースのヴォーカルは低く、深く、まるで大地から響いてくるようだ。

2. Morning Sun

アコースティックな響きが印象的な、穏やかでフォーキーな一曲。
夜明けの空気を感じさせるような静謐なムードと、淡い再生への願いが重なる。

3. Leaving You

切なさと余韻を残すラブソング。
“去る者の哀しみ”と“残される側の無言”を同時に描くような、静かな哀愁が胸に沁みる。

4. Like Water

内省的でミステリアスな雰囲気を持つナンバー。
“水のように形を変える感情”をテーマにしたような、浮遊感あるコード進行が独特の深みをもたらしている。

5. Knapsack

ラルフスによる短いインストゥルメンタル。
アコースティック・ギターのみで綴られる旅の途中の独白のような小品で、アルバムに余白を与えている。

6. Everything I Need

ブルース的なコードに乗せた、情熱的な“自己肯定”のロック。
激しさよりも粘り強さを感じさせるサウンドで、アルバム全体の温度感を保つ中盤のキートラック。

7. Heartbeat

パーカッシブで、ややファンキーなアプローチを見せるミドルテンポ曲。
“鼓動”をリズムとして実感させるような、内向的なグルーヴが印象的。

8. Peace of Mind

タイトル通り“心の平穏”を求めるような、メロウで優しい楽曲。
ロジャースの包容力あるボーカルと控えめな演奏が、日常の疲れを癒すような一曲。

9. Passing Time

過ぎ去る時間と人生の儚さをテーマにした叙情的なバラード。
繰り返されるコード進行が時の流れを象徴し、哀しみと悟りが同居する。

10. Too Bad

このアルバムの中では最も攻撃的なロックナンバー。
ハードなギターとロジャースのシャウトが復活し、“まだ終わってない”というバンドの意志が感じられる。

11. Man Needs Woman

男の孤独と依存をストレートに描いたロックバラード。
ラストに向けての“人間らしさ”の告白とも取れる、裸の感情が露出した締めくくり。


総評

『Burnin’ Sky』は、商業主義の中で“何を歌うべきか”を問い直したBad Companyの内なる旅の記録である。
ここでは大仰な展開やキャッチーなサビは影を潜め、代わりに“呼吸のようなロック”とでも言うべき、スローで地に足のついた音楽が支配している。

“燃える空”の下で、彼らが描いたのは、信念を失わずに音楽を続けることの美しさと、その代償としての孤独や静けさだったのかもしれない。
大ヒット曲はないが、一曲一曲の誠実さと音の奥行きは、むしろこの時期のBad Companyが音楽的に成熟していたことを証明している。

彼らと一緒に、曇り空でも歩き続けたい——そんな気持ちにさせてくれる、スモーキーで滋味深いロックアルバムである。


おすすめアルバム

  • Free『Free at Last』
     抑制された感情とブルースロックの美学が共鳴。
  • Rod Stewart『Atlantic Crossing』
     ロックとバラードのバランス、英国的哀愁が重なる一枚。
  • The Rolling Stones『Goats Head Soup』
     荒野のような音像と官能的なブルースロックが似ている。
  • The Band『Northern Lights – Southern Cross』
     人間の温度感と詩情が共通する、アーシーな名盤。
  • Bob Seger『Night Moves』
     アメリカ中西部の情景と孤独を歌った同時代的ロック詩。

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